アドミラル・ツェンカー

• 1921年、第一次世界大戦終結後のワイマール憲政下に置かれたドイツでは海軍の再建を進めていた。この時仮想敵に定めたのはフランスとポーランド。ナチス政権化に至る以前から、ドイツでは復讐心故か挟撃される恐れからなのか、両国と戦争をする可能性を考えていた。
  • 1924年から1928年まで海軍司令だったツェンカー提督は両国の海上補給路の遮断乃至通商破壊、ドイツ沿岸への強襲上陸を阻止するための艦隊が必要だと考えていた。その一環として設計された艦艇である。
• 当時のドイツではヴェルサイユ条約により起工20年が経過した旧式戦艦の代替艦（後の装甲艦）建造の制限として排水量10000トン以下と定められていた。主砲口径などの制限は決められていなかったが、軍事連合国間管理委員会（Military Inter-Allied Commission of Control）により規制が加わる可能性はあり*4、もしそうなれば280-305mmあたりになるだろうとドイツ海軍は想定していた。
  • 上記の規定に基づき1922年から代替艦の建造が可能となるドイツ海軍は、1920年からこの装甲艦の構想を練り始め、1923年から本格的に設計を始める。
  • 搭載する主砲口径は205-380mmの範囲で検討されたが、戦後の国力低迷などの問題により旧式砲を利用して開発コストを安く抑えられる283mm砲が採用される。
• しかし、装甲艦設計と同時期に、ワシントン海軍条約に参加したフランス海軍では「条約上限の35000トン級戦艦ではなく、その半分の排水量となる17500トン級の小型の巡洋戦艦を倍の隻数で建造する。」という計画が持ち上がっていた。
  更にフランス海軍を仮想敵としていたイタリア海軍でも17500トン級の巡洋戦艦の計画を開始。これらの計画艦は既存の巡洋艦を大きく上回る火力と高速性能を持ち、条約型巡洋艦を打破することが目的とされたことから、「巡洋艦キラー」と呼ばれていた。
  • フランス、イタリア両国の計画情報を得たドイツの海軍総司令官ハンス・ツェンカー提督は、この「巡洋艦キラー」のような艦種をドイツにも導入するべきだと考え、これらと同等規模まで拡大した設計案を検討していた。
  • これは当時のドイツ海軍に課せられていたヴェルサイユ条約の制限を大きく超過するものであったが、ツェンカー提督は1926年のドイツの国際連盟加盟を契機として、ヴェルサイユ条約の制限を緩和する交渉ができると考えていた。
  • しかし結局この時点ではヴェルサイユ条約の緩和は行われず（それどころかドイツ外交官がまず交渉しなかったらしい）、元から条約制限に沿って作成していた設計を手直ししてドイッチュラント級が実際に建造される事となった。
    • ちなみにツェンカー提督もその野心的な艦隊計画が政府の反発を招き1928年9月に司令官を解任され、ドイッチュラント級ごと計画が中止になりかけた。
  • ちなみにイタリアの17500トン級計画は1928年に開発中止、フランスの17500トン級計画はドイツのドイッチュラント級の登場を受けて見直しが行われ、より大型のダンケルク級戦艦として完成する事になる。
• ツェンカー提督はオランダ海軍との繋がりがあったのか、この巡戦を建造する構想がオランダで立てられていたりする。そちらでは装甲が強化され、基準排水量20499トン、常備排水量22192トンになっていた。こちらも計画は中止されている。

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