那珂

• 大日本帝國海軍が建造した川内型軽巡洋艦3番艦。艦名は栃木県東部から茨城県北部にかけて南東に流れる那珂川から。八八艦隊計画の一環である1920年度計画にて、中型二等巡洋艦として建造が決定。1921年3月19日、軍艦那珂と命名される。1922年6月10日に横浜船渠で起工するが、いきなり災難が降りかかる。起工から約1年3ヵ月後の1923年9月1日、関東大震災が発生。横浜船渠も被災し、生じた火災によって船台の盤木を焼失。那珂の船体は倒壊してしまう。この椿事で船体に修復不能な損傷を負い、建造中止。残骸は解体され、生まれる前に死んでしまった。一時は天城のように計画そのものが潰れる可能性があったが、1924年5月24日に川内の図面を流用して再起工。1925年3月24日に進水し、同年11月30日に竣工した。実に3年以上の月日が流れていた。
  　
• 1927年8月24日22時、夜間訓練に参加するため第5戦隊(古鷹、加古、神通)とともに美保湾を出港。訓練海域に指定された美保関北東に向かった。今回の訓練は対抗演習方式であり、乙軍(攻撃側)が甲軍(防御側)に攻撃を仕掛ける想定で行われた。那珂が所属する第5戦隊は乙軍に属していた。無灯火訓練という事で、両軍は一切の航海灯を点けずに航行。23時6分、神通は左30度方向に甲軍艦隊を発見。探照灯を照射して僚艦に敵の存在を示した。那珂は神通とともに襲撃運動に入ったが、相手の軽巡龍田から探照灯照射を受けたため、退避すべく右へ大回頭を行った。ところが23時16分、回頭中の神通の前に第27駆逐隊の駆逐艦が横切り、慌てて舵を切る。何とか回避に成功したものの、駆逐隊の後ろから続航していた無灯火の駆逐艦蕨(わらび)が接近。気付いた神通が全力後進を掛けたが間に合わず、23時19分に蕨の右舷へ神通の艦首がめり込んだ。次に神通の後ろを航行していたと那珂と、蕨の後ろを航行していた駆逐艦葦(あし)が急速に接近し、那珂は左方向へ舵を切った。ところがこれが悪手だった。同じく回避しようとした葦と同じ方向へ向かう事になり、23時20分に葦の左舷後方に那珂の艦首が衝突。葦は三番砲塔より後方を、那珂は艦首を亡失した。後の世に言う美保関事件である。その後、何とか航行可能だった那珂は比叡や古鷹に護衛されながら舞鶴に向かい、修理を受けた。1932年2月2日、第一次上海事変に伴って出動。長江警備に従事する。停戦後の3月20日に帰投した。
  　
• 1934年6月29日、霧が立ち込める中で演習を実施。しかし駆逐艦深雪が電に衝突され、船体を両断。那珂は切断された前部を曳航し、佐世保に向かっていたが途中で放棄が決定。後部も行方不明になった事で深雪は死を迎えてしまった。11月15日からは砲術学校の練習艦となる。
  　
• 1941年9月1日、戦時編成により第4水雷戦隊を新編し、旗艦に指定。司令官の西村祥治少将が乗艦した。11月5日、第4水雷戦隊は南方部隊に編入されてフィリピン攻略を担当する事に。11月26日、指揮下の駆逐艦を率いて寺島水道を出発。11月28日に台湾の馬公に寄港する。12月2日、連合艦隊より「ニイタカヤマノボレ」の暗号を受信した。そして12月7日、第48歩兵師団2000名を分乗した6隻の輸送船を護衛して出港。
  　
• 1941年12月8日、大東亜戦争が勃発。いよいよ東南アジアを席巻する敵軍と交戦状態に入った。12月10日、ルソン島ビガンに到着。陸軍部隊の上陸を支援するが、キティホークやP-35に護衛されたB-17爆撃機5機が襲来。機銃掃射や爆撃を受け、乗員2名が死亡。7名が負傷した。船団にも魔手が及び、大井川丸と高雄丸が損傷している。12月12日、支援を終えたビガン沖を出港。馬公へ入港し、次なる護衛任務に臨む。12月18日、主力の第7戦車連隊と第48歩兵師団を乗せた28隻の輸送船を護衛して出撃。12月22日のリンガエン湾上陸を支援し、その日のうちに出発。馬公に引き返した。12月29日、高雄を出港。
  　
• 1942年1月2日、ダバオに到着。1月7日、セレベス島の攻略を行う坂口支隊の輸送船16隻を護衛して出発。1月10日にタラカンへ到着し、部隊を揚陸する。タラカンの敵軍を撃破する事には成功したが、撤退する時に油田施設へ放火されてしまっている。1月21日、転戦する坂口支隊の輸送船16隻を護衛して出発。1月23日深夜にバリクパパンへ到着。15時25分、敵機の空襲で2隻の輸送船が損傷するも、21時30分より坂口支隊の上陸が開始された。翌24日午前0時45分、オランダ潜水艦KX?から4本の魚雷が伸びてきたが命中せず。午前3時16分、4隻の駆逐艦が泊地に殴りこみをかけてきて、10本の魚雷を一斉に発射。幸い、1本も輸送船には命中しなかった。しかし水上戦で第38号哨戒艇がやられてしまった。西村少将は逃げた敵駆逐艦の追撃を命じて西へ向かったが、捕捉に失敗した。1月30日、第4水雷戦隊は支援を終えてバリクパパン沖から退却した。2月19日、ホロ島を出発する41隻の輸送船を護衛して出港。2月25日、第2水雷戦隊を率いる神通と合流し、船団とともに東部ジャワ方面に向かう。2月27日15時47分、スラバヤから出撃してきた敵艦隊と遭遇し、スラバヤ沖海戦が生起。那珂から水上偵察機が飛び立ち、弾着観測を実施。17時18分、指揮下の駆逐艦と雷撃を仕掛け、那珂は8本の魚雷を発射。敵がスラバヤへ引き返した事で一旦戦闘は終結した。19時15分、陣形の右側を航行していた那珂が連合軍艦隊を発見した事で戦闘再開。23時5分、敵旗艦デ・ロイテルに羽黒が放った魚雷が命中し、大破炎上。その4分後には巡洋艦ジャワも被雷し、2隻とも沈没していった。

• 3月2日から8日にかけて、ジャワ島クラガンで哨戒任務に就く。ついにジャワ島のオランダ軍が降伏し、南方作戦の目的を達成。これに伴ってクラガンを出港し、3月12日にスラウェシ島マカッサルに入港する。オランダ軍が脱落したとはいえ、まだ東南アジアには敵軍が立てこもる場所があり、クリスマス島もその一つであった。3月14日、大本営は連合艦隊にクリスマス島の攻略を下令し、那珂の参加が決定。3月26日にマカッサルを出港し、バンタム湾に回航。第16戦隊の長良、名取、第9駆逐隊、第16駆逐隊、第22駆逐隊、給油船あけぼの丸を指揮下に入れ、3月29日に出撃した。3月31日午前9時45分、第21及び第24特殊基地部隊と第102設営隊をクリスマス島に上陸させる。その4分後、敵潜シーウルフから4本の魚雷を放たれたが命中せず。だがこれ以降、敵潜にまとわりつかれる事になる。那珂からは搭載機が発進し、名取搭載機とともに島内を偵察。その後、北東端の町を砲撃して占領を支援した。わずかな敵軍の守備隊は降伏し、クリスマス島の攻略は成功した。4月1日午前6時50分、敵潜が名取を雷撃するも失敗。しかし18時4分、クリスマス島泊地で停泊中の那珂に2本の魚雷を発射し、うち1本が右舷中央部の第1缶室に直撃。最大幅6m、長さ6.1mの破孔が発生して第1、2缶室、前部燃料タンク、前部倉庫等が浸水。主砲や通信、航海機能を喪失する致命傷を負う。4月2日、名取に曳航されて島を脱出。翌日バンタム湾へ到着し、排水作業を行ったのち、重量物を後部へ移す。かろうじて航行が可能になり、4月6日に出港。護衛には駆逐艦夏雲と峯雲がついた。4月10日、シンガポールへ入港。応急修理を受ける。上部重量物を撤去し、固定バラストと一部燃料タンク等を後部上甲板に移動。トリムを1.52mに調整した。4月29日、セレター軍港を出発し、南部のケッペルへ移動する。5月3日、工作艦朝日の支援を受け、キールを交換。挫屈個所の補修と補強し、その他各種の応急修理も実施した。
• 6月2日、何とか出渠。本格的な修理のため内地へ戻る事となり、6月3日に出港する。6月8日に馬公へ寄港、6月12日に横須賀に帰投した。特別予備艦となり、ぼろぼろの体で6月15日に横須賀を出港して舞鶴に向かう。6月26日に舞鶴工廠へ入渠。第5主砲塔を89式127mm機銃に換装。21号対空レーダー､22号対水上レーダー､94式2号3座水上偵察機1機､爆雷投射機､投下軌条､上陸作戦用に小発動機艇4隻を搭載。近代化改修を受けた。7月6日、出渠。以降もリハビリや修理に励む。
  　
• 1943年4月2日、新編された第14戦隊の旗艦となる。4月5日、ようやく修理完了。柱島を経由して4月22日に横須賀へ到着した。現地ではトラック進出のため待機している商船改造空母雲鷹と冲鷹が停泊しており、2隻の護衛任務が与えられた。4月25日午前10時30分、横須賀を出港。2隻の空母を護衛してトラック島に進出した。4月30日午前11時50分、搭載機を第901航空隊に供出。対潜哨戒に投入される。5月21日、戦艦金剛より、ナウル島へ送られる横須賀第2特別陸戦隊412名､軍需品約100トン､重油150トンを受領。翌22日、五十鈴と谷風、浜風とともにトラックを出港。ナウル島に物資を揚陸し、5月28日午前8時に帰港した。7月17日、駆逐艦朝凪とともに出港。ところが航行中、燃料に海水が混入。缶4つが使用不能、航行不能となる。残っていた缶2つを至急点火し、何とか航行再開。2日後にクェゼリンへ入港。その後、マーシャル諸島ミレ島に第66警備隊兵員303名と物件170トンを揚陸。7月21日、B-24爆撃機1機から投弾を受けるも回避しウォッゼへ入港した。8月25日、高雄や第24駆逐隊等とともにトラックを出港。ラバウルに便乗者を揚陸させた。8月29日、トラックへ帰投。
• 9月3日、五十鈴と駆逐艦漣を率いてトラックを出港。日枝丸と富士山丸を護送し、9月7日にクェゼリン到着。兵員を揚陸した。9月9日、マロエラップ環礁タロアに寄港し兵員を揚陸。9月12日午前4時、クェゼリンを出港。ミレとウォッゼに向かっていたが、道中で敵潜パーミットの雷撃を受け、特務艦知床丸が損傷。知床丸を救助するため、兵員230名を日枝丸に移し、反転。午後3時13分、知床丸を視認し警戒行動に移る。そこへ敵潜水艦が放った魚雷2本が伸びてきたが、これを回避。やがて曳船が到着し、知床丸を曳航開始。クェゼリンまで連れ帰った。ミレ島へ寄港後、ウォッゼへ向かっていたが、米機動部隊によるギルバート諸島空襲により、予定に狂いが生じた。9月23日、ウォッゼを出港。日枝丸、富士山丸、栗田丸を護衛して10月3日にトラック島へ戻った。
• 10月8午前10時、米機動部隊のウェーク島空襲を受け、駆逐艦朝凪と栗田丸を率いて緊急出動。迎撃に向かったが、作戦中止に伴って同日夕刻にトラックへ戻った。10月11日、五十鈴を率いてトラックを出港。丁2号輸送作戦に従事する。翌12日、給糧艦間宮の救援ため五十鈴を分離。10月18日に上海へ入港。陸軍部隊485名と軍需品を搭載して10月19日に出港。合流した五十鈴とともにラバウルを目指していたが、東シナ海で敵潜のウルフパックに捕まる。10月24日午前2時12分、敵潜水艦シャドから10本の魚雷が伸びてきて、魚雷1本が右舷に命中したが、不発で終わった。シャドは爆雷攻撃を避けるため、既に逃亡していた。10月28日、トラック入港。現地で丁4号輸送船団が編制され、11月1日午後に出発。11月3日午前11時29分、カビエン北方60マイルで19機のB-24の襲撃を受ける。爆撃は回避したが、機銃掃射により第14戦隊先任参謀の藤田勇中佐以下6名が死亡、7名が重傷を負った。護国丸と清澄丸も損傷し、五十鈴が清澄丸を曳航し始めた。清澄丸支援のため軽巡夕張と駆逐艦雷、磯風が到着。那珂は清澄丸から兵員166名と速射砲4門を受け取り、夕張は兵員196名と野砲3門を、五十鈴は兵員196名と速射砲4門を、水無月は兵員267名、磯風は兵員236名と山砲3門を受け取った。11月4日午前5時30分、カビエン入港。午後4時15分に出港し、翌日にラバウルへ到着した。11月5日、運悪く米機動部隊によるラバウル空襲に巻き込まれ、対空戦闘を実施。翌6日午前4時30分、出港。トラックに回航された。11月21日午前6時30分、トラックを出港。ボナペ島に寄港し、陸軍兵594名と軍需品130トンを搭載。ルオットで燃料370トンを補給。11月30日、クェゼリンに寄港し、陸軍部隊416名と軍需品130トンを搭載。

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