長門

• 大日本帝国海軍の長門型戦艦、その1番艦「長門」。艦名の由来は現在の山口県西部にあたる長門国から。艦の原型はクイーン・エリザベスを参考にしている。八四艦隊計画により、1916年に第七号甲鉄戦艦として建造が決定し、船体と機関を呉海軍工廠に発注。建造費は1,428万2,350円だったが、インフレで4,390万円にまで急騰。1916年5月13日、建造訓令が下る。起工前から軍艦長門と命名され横須賀鎮守府所属となる。ところが5月31日、ジュットランド沖海戦が勃発。この海戦でイギリス戦艦の弱点が露わになり、そのイギリス戦艦を参考にしていた長門は急遽設計の見直しを迫られる事になる。再設計は平賀譲造船中監(当時)が担当。水平防御の強化を図りつつ、砲配置や機関の増大に着手。扶桑型や伊勢型で得られたノウハウを活かし、様々な技術が投入された。
  • 長門から、便器が西洋式になった。しかしイギリス式を踏襲していたため仕切りが全く無く、プライバシーは考慮されなかった。また慣れない洋式に躊躇したのか、我慢して便秘になる者が続出し、後の改装で和式に改められている。
    　
• 1917年8月28日、呉船渠内で起工。1919年11月9日に進水し、1920年10月16日に宿毛湾で行われた全力公試では26.443ノットを記録した。そして1920年11月15日に竣工。11月23日の全力公試では更に速い26.7ノットを記録し、戦艦の世界最速記録を打ち立てた。終末試験と砲撃試験を行ったのち、11月25日に海軍へと引き渡された。今まで戦艦の建造は師匠のイギリス頼りだったが、長門型は日本独力で造られた初の国産戦艦となった。世界初の最速記録、41cmという世界最強の攻撃力も持ち合わせており、名実ともに高い完成度を誇っていた。
  • 伊勢型や扶桑型とは違い、各所に純国産の技術が使用された。型は連装砲塔四基を前後に2基ずつ背負式に配置、船体は船首楼甲板を後檣付近までもつ長船首楼型とした。当時の帝国海軍は一号機雷を決戦兵器と見なしており、敷設した自軍の機雷に接触しないよう変則的なスプーン状の艦首をしている。艦内社として、山口県下関市にある長門国一宮・住吉神社の分祀を受けている。悲願の純国産戦艦の長門型を得た日本は、世界に注目される列強国になった。難産だっただけに愛着も相当あったようで、長らく帝国海軍ひいては日本の象徴として君臨し続けた。長門型で得られたノウハウにより、帝国海軍最後の、そして世界最大の戦艦・大和型へと繋がっていく。同型2番艦の陸奥やイギリス海軍のネルソン、ロドニーおよびアメリカ海軍のコロラド、メリーランド、ウェストバージニアらと並び「ビッグセブン」の1隻として有名。…なのだが、実は実戦経験自体は少なかったりする(日本海軍の戦艦では旧式戦艦である金剛型の方が戦果が多い)。
  • ちなみに当時大和の存在は国民には秘匿されていたため、彼女ら2隻は「最新鋭戦艦」として子供たちから人気を集めていた。「陸奥と長門は日本の誇り」と当時のかるたにも書かれている。他には高雄や赤城も人気だったという。どちらかと言うと、長門より陸奥の方が人気だったらしい。
    　
• 長門と陸奥の竣工は世界を驚かせた。この2隻はまさに世界最強だったのだ。長門型を恐れた列強は、1922年にワシントン海軍軍縮条約を締結する事になる。1921年2月23日、横須賀を停泊中しているところに昭和天皇が乗艦するという誉れを得た。また1921年に長門を旗艦とする艦隊が宿毛湾に寄港した事がきっかけで、1942年頃まで宿毛湾は艦隊の停泊地として使用されるようになる。1922年にワシントン海軍軍縮条約が締結した事で、海軍内では嵐が吹き荒れた。士官から職工に至るまで大多数がリストラされ、旧型戦艦安芸、香取、鹿島、薩摩、生駒等が廃艦の憂き目になった。このため新鋭艦の長門と陸奥は、帝国海軍に残された虎の子の戦艦だった。またこれらの艦長になる事は艦隊司令長官や鎮守府長官に繋がる出世街道であり、海軍を志した者たちから羨望の目で見つめられた。2月18日、フランス人の元技師ジョセフ・ジョッフルが宮島から江田島に戻る際の交通手段として長門に乗艦。初めて外国人が乗艦した。4月12日、横須賀に巡洋戦艦リナウンが入港してエドワード8世が日本を公式訪問。長門や停泊中の艦艇は21発の祝砲を放って出迎えた。リナウンは長門の近くに係留され、エドワード8世とマウントバッテン卿が長門に来訪。機関室を見学した他、特別に取り寄せたジョニーウォーカースコッチウィスキーが夕食会で振る舞われた。6月26日、陸奥や伊勢とともに仁川を出港。朝鮮半島近海をパトロールし、7月4日に帰投した。8月28日、陸奥、金剛、比叡、霧島、伊勢とともに呉を出港。シベリア沖で活動した。

• 1923年9月1日、関東大震災が発生。この時、連合艦隊の主力は大連沖で演習をしていた。この日の午後、「東京・横浜方面が壊滅」との緊急電が入り、長門は全艦に演習の中止を命じる。「各艦は港に寄港し、救援物資を持って東京へ」と簡潔に命令を下した。まず足の速い駆逐艦や軽巡洋艦を先発させ、続いて長門や扶桑、伊勢等が移動準備を開始。15時、「およそ14万人が亡くなった」という絶望的な報告が寄せられた。翌2日、準備が整った長門と陸奥は長山列島を出発し、九州へと向かう。しかし道中の9月3日午後、20ノットで航行中、台風に巻き込まれて行く手を阻まれる。どうにか荒波を乗り越え、9月4日に内之浦湾に到着。救援物資を積み込み、同日中に出港。危機に陥っている帝都を目指した。道中、アメリカの砲艦ヒューロンに目撃されている。27ノットの全速力で九州南端を回り帝都を目指す。土佐沖で、黒煙をもくもく上げながら帝都へ走る旧式艦「八雲」「浅間」「磐手」を快足で追い抜かす。ところがイギリス東洋艦隊の軽巡プリマスに発見され、急遽減速を強いられる。長門の最高速度は軍事機密だったからだ。プリマスは本国から被災地の救援に向かうよう指示されており、偶然にも長門と同行する事になった。当時、日本は長門の速力を23ノットと公表していた。しかし米英は「そんなはずがない」として26ノットが出ると推測していた*4。プリマスは長門の後方2000mの間隔を維持しながら追い、速力の割り出しを行った。公海上かつ相手は同盟国の艦だったためどうする事も出来ず、長門の機密が暴かれようとしていた。機密優先か、被災地の救援が優先か。海軍軍令部が下した判断は「最大速力で東京に向かえ」。機密よりも救援を優先させたのだ。追跡は東京湾口まで続き、速力を測り終えたプリマスは離脱していった。イギリスは友好国だったため大して問題にならなかったとか。東京湾に近づくと、多数の残骸や遺骸が流れてくる。また地震の影響で海底が隆起しており、入港を難しくしていた。それでも長門は品川沖へ入り、9月5日に満載した支援物資を揚陸。大型艦の威容が被災者を勇気付けたのは言うまでも無い。

• 1924年1月、横須賀工廠に入渠。10ヶ月おきの点検と清掃を受ける。側面と底面が清掃され、防食及び防汚塗料の再塗装を実施した。3月30日、奄美大島沖で曳航教練中に陸奥と接触する事故が起きる。メッキが少し剥がれる損傷を受けた。8月、佐伯湾で呂28が放った演習用魚雷が直撃し、スクリューを破損。9月6日、昭和天皇臨席の下、野島崎沖南方で陸奥とともに旧式戦艦安芸を撃沈処分。12月1日、予備艦となり第一煙突を改修。排煙問題があった直立煙突から屈曲煙突に変更。良好な結果が出た事から、後発の建艦の主流となる。1925年3月、妹の陸奥が艦隊を率いて中国の秦皇島(しんのうとう)へ航海した。ところが長門は内地に置いてかれる。戦艦クラスにもなると燃料代が高くつき、予算を圧迫するからだ。仮想敵国のアメリカから燃料を買い入れるしかない帝國海軍は、常に燃料事情を気にしなければならなかった。7月12日から16日まで、長門は御召艦に指定。まず江田島へ向かい、兵学校53期生の卒業式に皇太子殿下が参列した。その後南下し、佐伯湾で停泊。鳳翔の発着艦訓練を御視察した。7月16日、長門の前甲板で記念写真が行われ、青年士官等が秩父宮及び高松宮と肩を並べた。のちに駆逐艦雷の艦長になる工藤少尉(当時)はこの時の写真を終生大事にしていたという。8月、ドイツから航空機設計者のエルンスト・ハインケル以下数名の技師が横浜に到着。長門に特製のカタパルトを提供し、ハインケルHD-25とHD26水上機も供出された。館山沖で射出テストを行い、良好な結果を収めた事から古鷹型に採用される運びとなった。
• 1927年8月1日午前9時39分、佐伯湾にて機雷敷設艦常盤(元装甲巡洋艦)の5番機雷が爆発事故を起こし、炎上。長門や他の艦から消防隊が派遣され、消火に当たった。悲劇はこれだけに留まらなかった。8月14日、長門を旗艦とする約60隻の艦隊は松江市美保関沖で深夜の戦闘訓練を行っていた。台風の接近で強風に見舞われる中、無灯火による訓練という無理が祟り、神通が駆逐艦蕨の側面に衝突。乗員92名とともに沈没する美保関事件が発生した。その直後に那珂が駆逐艦葦に衝突、27名の乗組員が死亡している。多重事故が発生したため「長門だけでも舞鶴に避難させるべき」との声が上がったが、海域に留まった。1928年12月10日、練習艦となる。香港を訪問する昭和天皇を乗せて出発した。1929年5月29日、八丈島へ帰国。昭和天皇を降ろした。1933年8月1日、マーシャル沖での艦隊対抗演習のため館山を出港。長門は赤軍の旗艦となった。8月16日、木更津沖へと帰投。
  　
• 1934年4月1日、呉工廠で近代化改修を受ける。加賀型戦艦に搭載するはずだった新型主砲と換装し、仰角を向上。最大射程距離が3万7,900mに広がった。砲塔の揚弾・装填機構を空気圧式に変更して装填秒時を21.5秒に短縮、続いて九四式方位盤照準装置一型、九二式射撃盤、九二式測的盤改一等を導入。艦首の改正工事と防御力強化も行われ、誘爆の危険が高かった弾薬庫付近の垂直防御を増強。不要になった艦首魚雷発射管を撤去した。同時に高角砲の更新と機銃の増設が施され、攻守ともに大幅なパワーアップを遂げた。一方、重量の関係で副砲2基が下ろされている。長門は帝国海軍の戦艦の中で初めて応急注排水装置を搭載した。過去の海戦における戦艦の喪失原因は、浸水による傾斜に起因していた。これを防ぐべく、傾斜時に反対側へ注水し復元するのである。一部の用兵者からは「故意に艦内へ注水するとは何事か！」と反発の声が上がり、海軍技術会議は紛糾したという。しかしその効果は緻密に計算されており、長門への搭載の際には模型によってテストしている。この際、機関は一切改修されていないが、大規模な工事だったにも関わらず速力の低下は1ノット程度で留められた。1936年1月に工事完了。
• 1936年2月26日、陸軍の青年将校が決起し、要人を襲撃。二・二六事件が発生する。国会議事堂や首相官邸、警視庁といった要所を次々に占拠。日本史上最大のクーデター事件と化した。これを受けて帝国海軍は大海令を出し、鎮圧を命じる。この時長門は東京湾の警備を担当する第一艦隊に所属し、お台場沖に急行。40cm主砲を国会議事堂に向けて反乱軍を威圧した。1937年から1939年にかけて、グリコ株式會社(現・江崎グリコ株式会社)がキャンペーンを実施。製品に同封されている引換券を一定枚数以上集めると、軍艦の模型が貰えるというもの。対象となったのは長門、熊野、吹雪であった。金属が全然使えなくなったので木製になったという説明文が添えられていたという。
  　
• 1937年8月20日、第二次上海事変で苦戦を強いられている現地の陸戦隊を支援すべく、陸軍第十一師団第四十三歩兵連隊1749名を乗せて出港。実質、これが長門の初陣だった。伊1と伊6が警戒任務を担当し、8月23日に上海の眼前にある馬鞍群島に到着。陸兵を軽巡洋艦神通や駆逐艦に移乗させ、長門は馬鞍群島に留まった。この時に軽巡大井に衝突されているが、損害軽微。8月25日に佐世保へ帰投した。上海事変も落ち着き始めた12月1日、練習艦となる。このため支那事変には本格的に参加していない。
• 1939年8月31日、米内光政海軍大臣によって山本五十六大将を連合艦隊司令長官に任命。安全な長門へと異動させた。独伊との同盟に賛同する陸軍や諸派が、反対派の山本長官の評判を悪化させるプロパガンダ(ネガティブキャンペーン)を行い、暗殺の噂を流していた事に起因する異動だった。10月、毎年恒例の艦隊演習を四国の南方で実施。終了後、赤城とともに東京湾へ移動。日本無線協会と協力して、電波送信の実験を行った。結果、実験は成功と判断された。1940年10月11日、横浜沖で皇紀2600年記念特別観艦式に参列。長門は参加艦艇98隻の旗艦となり、御召艦比叡が通る舷側に乗組員全員が整列した。
  　
• 出師準備に伴い、1941年4月から6月にかけて横須賀海軍工廠で改修工事を受ける。この時に、前回の近代化改修では未着手だったバーベット部への装甲鈑装着工事とバルジ内部への水密鋼管充填作業を実施し、新たに九八式発砲遅延装置と舷外電路を装備した。主砲の砲身も交換された。大改装の結果、排水量は3万9150トンに増加。出力8万馬力、速力は25ノットとった。開戦の足音が迫る8月11日、連合艦隊第一艦隊に転属。佐伯湾に停泊する。10月9日から13日にかけて、室積湾沖で真珠湾攻撃の図上演習を実施。各指揮官が集結する大規模なものになった。図演の結果、アメリカ艦隊の主力艦艇の撃破には成功したが赤城と飛龍を喪失、艦載機も三分の一を失う惨憺たるものだった。このため戦力不足を指摘され、翔鶴型の戦力化が急がれた。真珠湾攻撃を敢行するにあたり、戦艦を爆撃する必要が出てきた。しかし当時の帝国海軍に、戦艦の装甲を貫通できる800kg爆弾は存在せず、急遽長門用の40cm砲用九一式徹甲弾を800kg爆弾に改造するという荒業で凌いだ。改造された800?爆弾はアリゾナの撃沈に使用された。
  • 長門座乗の山本五十六長官は、最後まで対米戦争に反対していた。だが戦争不可避となったため、軍人としての責務を果たすに至った。先任参謀・黒島亀人中佐は長門の後部甲板にある先任将校の個室にこもり、ふんどし一丁で瞑想。部屋の明かりはロウソク1本のみである。奇抜な天才肌である彼は、一人で作戦全般を練り上げ、真珠湾攻撃の骨子を作り上げた。
• 11月10日に岩国に回航され、柱島を経由して11月18日に佐伯湾へと戻った。山本五十六長官はランチで長門を出発し、旗艦赤城に移動。未曾有の大航海と作戦を行う南雲中将に別れの挨拶を述べた。翌19日、山本長官は長門に戻り、赤城率いる機動部隊は単冠湾へと出発していった。12月2日、大本営から「ニイタカヤマノボレ1208」の暗号を機動部隊に取り次ぐ。もはや開戦は避けられない状態になった。米英の監視の目を欺くため、長門は偽装電報や陽動で間接的に機動部隊を援護している。
  　
  1941年
• 1941年12月8日、大東亜戦争開戦。午前8時30分、長門は山本五十六長官が座乗する連合艦隊旗艦として柱島を出撃。戦艦伊勢、日向、扶桑、山城、空母鳳翔、駆逐艦有明、夕暮、若葉、初霜等が追随した。遠く離れたハワイ沖から発せられた攻撃成功を意味する「トラトラトラ」電文を受信している。もしハワイ作戦から帰投する空母が損傷していた場合、これを曳航する役割が与えられていた。呉鎮守府から佐伯航空隊が派遣され、前路哨戒を実施して主力艦隊の豊後水道通過を援護した。外洋に進出した後は速力14〜18ノットに定めて警戒航行。翌9日からは14ノットに落とした。10日午前8時30分、針路90度に変針。16時頃に母島の南40浬に到達した。この頃になると低気圧によって降雨となり、視界不良となる。そのせいで父島航空隊の哨戒機が主力艦隊を敵と誤認して報告してしまった事も。更に母島の南方で敵潜水艦を発見したとの報告が入り、艦隊は変針しつつ増速。交信状況から、敵は4隻いるものと判断された。勇躍外洋を突き進んでいた長門率いる主力艦隊であったが、全空母無傷という事で支援の必要が無くなり、12月11日午前6時に反転。翌12日16時、敵潜水艦2隻を探知して緊張が走るも、何事も無かった。12月13日午前6時30分、柱島泊地に投錨して航海は終了した。ちなみにこの行動は「勲章を貰うだけの行動」と水兵から揶揄されている。12月29日午後、第二航空戦隊が凱旋帰国し投錨。山口多聞少将はすぐ柱島の長門を訪れ、山本長官に帰還の挨拶をした。第三次攻撃を行わず、真珠湾の工廠の施設や燃料タンクに手を付けなかった南雲中将の及び腰を非難していたという。
  　
  1942年
• 1942年2月12日、旗艦の座を戦艦大和に譲る。3月15日、呉工廠に入渠。艦底修理と91式風信儀を改二に換装する。4月9日に出渠し、柱島へと回航される。柱島泊地には次のミッドウェー作戦に参加する艦艇が続々と集結しており、長門は深さ約10mの魚雷防御網に守られて停泊していた。5月5日、陸奥、日向、伊勢とともに伊予灘で砲術訓練。この時、日向の砲塔爆発事故に遭遇。日向は扶桑に付き添われて呉へ、長門らは柱島へと向かった。5月11日に訓練を再開し、夜間に柱島に帰投。5月13日、呉にて弾薬を積載。2日後、第7戦隊の最上、三隈、鈴谷、熊野の訓練に協力して出港。5月19日には第1艦隊と第3艦隊の訓練に協力している。5月27日、前衛の南雲機動部隊が先発。乗組員たちは帽振れと羨望の眼差しで見送った。

• 5月29日午前6時、戦艦大和率いる主力隊に所属して柱島を出港。ミッドウェー作戦に参加する。順調に作戦が進めば、6月7日にミッドウェー島近海に進出。上陸部隊の支援と、出撃してきた米艦隊の迎撃を担当するはずだった。しかし6月5日のミッドウェー海戦により機動部隊の中核たる空母4隻を喪失し、一気に雲行きが怪しくなる。結局作戦は中止。救助に当たった駆逐艦から加賀（空母）の生存者を受け入れ、反転離脱した。翌6日、第3と第10駆逐隊に燃料補給を施した。6月14日、柱島に帰投。7月3日、訓練のため徳山に向けて出港。3日間の訓練を経て柱島に戻った。7月13日に呉へと回航され、燃料補給と整備を受ける。帝國海軍は艦隊の再編成を実施し、7月14日に第一艦隊第二戦隊に編入され旗艦となる。4日後に呉工廠に入渠し、7月22日に出渠。間もなくソロモン戦線が形成されたが、燃料不足と温存のため長門は内地に留め置かれ、ソロモン戦線には投入されていない。弟の陸奥は第二次ソロモン海戦に投入されたが、低速ゆえに機動部隊についていけず、申し訳程度の護衛を付けられて放置されている。このため仮に投入されたとしても、戦局に寄与できるかどうかは怪しかった。
• ミッドウェーの敗戦により、空母の在り方が再検討された。その結果、戦艦も空母の護衛につく事が決まり、12月に周防灘で演習を行った。伊勢型や扶桑型、そして陸奥とともに円形配置され、その中央に護衛目標の瑞鶴が置かれた。やがて豊後水道から敵役の佐伯航空隊が現れ、防空と回避運動を実施。ミッドウェー海戦後、飛龍の副長に戦訓講話を命じられ、生存者が長門艦上で海戦の様子を語った。この講話は重要な問題が次々に出てきるので、聴衆は熱心に耳を傾けていたという。ミッドウェーの敗戦は徹底的に隠蔽され、関係者は後方勤務に回された。また長門と陸奥が健在だった事もあり、大敗に気づく国民はいなかった。
  • 1942年8月、ミッドウェーの大敗で空母の補充が急務となった航空本部では、低速戦艦の空母化を検討した。長門型の場合、長さ約220メートルと幅約34メートルの飛行甲板を擁する空母になると試算された。搭載数は54機。よって飛龍型に準ずる空母になりえるはずだったが、金剛型も同様の空母になるとされた。30ノットの快速を誇る金剛型と、25ノットが関の山の長門型では当然前者が空母に相応しい性能であった。また長門型の火力は大和型に次ぐものだったので、改装を惜しみ計画は流れた。
    　
    1943年
• 1943年1月3日から5日にかけて訓練。1月11日に柱島を出港し、呉へ回航。士官候補生を乗艦させ、実習の場を提供した。1月25日から2月2日にかけて呉工廠で主給水タンクを修理。2月23日、陸奥との最後の訓練を行う。3月4日、呉工廠で整備と給油を受け、3月24日に柱島に回航された。4月10日、安下庄に移動して演習に参加。4月13日に呉にて燃料補給を受け、次に徳山沖と八島で戦闘演習。5月5日に柱島へ戻った。5月26日、呉に入港。5月31日より呉工廠に入渠して対空用の21号電探を装備。これが長門に装備された初のレーダーだった。電探と一緒に対空兵装も強化されている。6月6日、出渠。柱島に回航される。呉に回航する陸奥と交代で柱島に泊地に投錨。
• 6月8日、この日の柱島泊地は霧に包まれていた。ここには長門と陸奥の他に最上、扶桑、大淀、駆逐艦数隻が停泊していた。午後12時15分、陸奥が突如として謎の爆沈事故を起こした。これを目撃した扶桑から、「陸奥爆沈ス。一二一五」の電信が長門に届く。まさかの椿事に、艦橋の第一艦隊司令部は凍りつく。国民の顔たる陸奥が戦わずして喪失するなど国民に知られてはならない。長門側は「陸奥に関する発信やめ」という緊急電を全在泊艦艇に発した。長門や扶桑からは救助艇が派遣され、陸奥の生存者を収容。生存者の多くは爆発の際に臓器をやられており、翌朝に息を引き取る者が続出した。生き残った314名はそのまま長門配備となる。長門や呉鎮守府では陸奥の爆沈を敵潜水艦によるものと判断し、警戒行動に移った。6月25日、駆逐艦玉波と若月の曳航演習に協力。この時、長門は意図的に35度まで傾斜させており、難易度を上昇させていた。その後も八島や安下庄で戦闘訓練に励んだ。7月8日、呉工廠に入渠して整備と燃料補給を受ける。7月29日に柱島へと戻った。また扶桑ともども航空隊の練習艦となる。8月7日、いよいよ長門もソロモン戦線に投入される事になり、準備のため呉に回航。給油と整備を受け、艦隊の集結地となっている八島へと向かった。8月17日13時、戦艦扶桑や大和、駆逐艦天津風、初風等とともに柱島を出港。途中横須賀に寄港し、陸軍部隊や第958海軍航空隊の要員を積載して前線基地のトラック諸島に向かった。道中の8月20日、台風に遭遇するも何事もなく突破して南進。8月23日にトラックへ到着し、便乗者を降ろした。

• 10月17日、神出鬼没な米機動部隊に決戦を挑むべくZ作戦を発令。主力艦隊を編成し、ブラウン(エニウェトク)島を前進拠点として索敵を行った。長門もこの艦隊に同行したが、ブラウン島で第952航空隊の整備員約50名を降ろした後は、トラックへ引き返している。おそらく速力が20ノット台と低速だったためと思われる。意気揚々と出撃した割には索敵に失敗し、見事に空振り。本隊は九日後にトラックへと帰投している。
  　
  1944年
• 1944年1月1日、トラック泊地で新たな年明けを迎えた。三が日の間は休暇となり、乗組員の心身を癒した。1月10日には赤道祭が開催された。長門が初めて赤道を通過したという事で、軍紀を忘れてのドンチャン騒ぎと化した。ところが戦局は悪化の一途を辿っていた。暗号文でその一部始終が長門にも伝わる。2月1日、トラックに米機動部隊が接近。空襲の予兆が見られたため主力部隊は脱出。これを見送る徴用船の船員は「決戦が始まるんだ」と思い、ちぎれるほど腕を振ったという。出港から間もない午前10時、敵潜パーミットに発見されるが攻撃は出来なかった。パラオまでの道のりは、まさに緊迫の航海だった。敵の潜望鏡を発見し、号令が下る。が、後にそれはビール瓶だと判明した。太平洋の波は高く、主砲にまで波がかかる程だった。夜、艦内放送で露天甲板に出ないよう通達された。何事も無く2月4日にパラオへと到着。綺麗なサンゴ礁が出迎えてくれた。翌5日、パラオ本島に半舷上陸しパラオ神社に参拝。午後からは自由時間が与えられた。しかし、そのパラオも安全な場所ではなかった。米機動部隊が接近したため、2月16日に出港。航海中の訓練は少なく、乗員の束の間の休息となった。だが道中で3隻の敵潜を発見しており、東南アジアですら敵が潜む異界と化していた。2月21日にリンガ泊地に到着。燃料を満載した後、艦のペンキを剥がす作業が行われた。被弾してペンキが燃えると、有毒ガスが発生するからだ。2月25日、第二艦隊第一戦隊旗艦となり、司令官の宇垣纒中将が乗艦。艦内の規律が厳しくなった。3月11日、リンガ沖で戦闘訓練。

• 3月15日、長門にて赤道祭が行われる。宇垣司令官の講評は「仮装演芸共に練習艦隊にては見られざるほどの上手なり。祝詞や芝居の中彼らも華々しき戦場に出ざるを遺憾とし、一戦隊として機動部隊編入せられたるに大いに期待しあるが如きを見る」乗組員の多くは赤道祭初参加だったため、軍紀の取り締まりも緩かったとされる。3月30日まで毎日訓練を行った後、4月4日午前10時にシンガポールへ回航され入渠。主力艦のシンガポール入渠は今回が初である。乗組員が外舷や汚水タンクの手入れに走った。また空母から10名ほどの補充要員が来ている。4月13日午前8時30分、出渠。これと入れ違いで扶桑が入渠している。その後、あ号作戦に備えてリンガで訓練を行う。4月14日、宇垣司令官は長門の居住環境を「牢獄と同様」と辛辣な評価を下している。4月16日、長門以外の艦艇は訓練に出動。泊地に留まった長門の下へ有馬参謀が訪れている。4月19日に防空演習を行ったが、最大速力である24ノットの維持が困難になっている事が判明した。5月1日、ダメージコントロールの訓練を実施。5月4日、旗艦の座が大和に移った事で宇垣中将が退艦。二度と中将旗が掲げられる事はなかった。5月12日と13日に射撃訓練を実施。6月7日、長門で応急訓練を実施。まだ改善の余地があると判断された。
  　
• 6月13日にあ号作戦決戦準備が下令され、同日午前9時にタウイタウイを出港。長門は隼鷹、飛鷹、龍鳳からなる乙部隊の中央に配備され、三角形の陣形を取る空母の真ん中に座した。太平洋の波は高く、信号員や通信兵を始めとする見張り兵が全員船酔いするというアクシデントに見舞われた。午前中は晴れ渡っていたが、午後に入ると曇天になった。翔鶴、瑞鶴、大鳳の三隻は、訓練を兼ねて対潜機を発進させていた。そんな中、哨戒から戻ってきた天山が大鳳への着艦に失敗し、九九艦爆に衝突して爆発。火災に発展した。小沢治三郎中将座乗の旗艦だった大鳳は中央に配置されていたため、僚艦の多くが事故を目撃し、行く末を不安にさせたという。翌14日、どうにかギマラス泊地に到着し、午後5時から燃料補給が始まった。6月15日、ついにアメリカ軍がサイパン島に上陸。これを迎撃するため午前8時にギマラスを出港。マリアナ諸島を攻囲する米艦隊に決戦を挑む。ところが既に米潜水艦キャバラによる追跡を受けており、日本艦隊の動きは読まれていた。翌16日、渾部隊と合流。
• 6月18日夜、決戦を目前にして事件が起きる。月明かりが少ない闇夜の中、乙部隊は静かに航行していた。乙部隊の空母は先頭中央に隼鷹が、左後方に龍鳳が、右後方に飛鷹が配置されている。乙部隊の旗艦は隼鷹なので、その隼鷹から信号が発せられるのだがちょうど中央に長門がいるため、巨体に遮られて後方2隻の空母が信号を受け取りづらい状況にあった。そこで長門が信号を中継していたのだが…。隼鷹は左へ斉動する信号を出した。それを長門が中継するのだが、何故か右に斉動する信号を出してしまった。隼鷹と長門の信号が食い違い、困惑する飛鷹は内務長を通して長門に問い合わせをしようとした。ところがその前に隼鷹が発動符を出し、回頭を始める。飛鷹は旗艦に従って左へ回頭するが、長門は右へ転舵。両艦の位置が急激に縮まっていき、あわや衝突の危機に。慌てた飛鷹は、敵潜水艦に見つかる危険性を承知で航海灯をつけ、自艦の位置を長門に伝える。ぎりぎりのところで長門は変針し、かろうじて激突は避けられた。何故、長門があべこべの信号を出していたのかは謎である。
  • ちなみにこの話には少し続きがあり、長門の誤った信号で乙部隊の陣形が崩壊。衝突を回避した飛鷹のもとへ、今度は龍鳳が左前方より高速で接近。どうやら龍鳳は長門の信号に従ったようである。このままでは衝突こそしないが、飛鷹の眼前を横切る形になって大変危ない。再び航海灯をつけ、位置を知らせると同時に飛鷹は左へ舵を切った。これに龍鳳が反応し、右へ転舵。飛鷹とすれ違い、二度目の危機は去った。その後、龍鳳は大回頭し、正規の位置へと戻った。あぶない。
    　
• 6月19日、マリアナ沖海戦に参加。米機動部隊に決戦を挑むが、錬度不足に加え、米艦隊の対空砲火と戦闘機により138機の航空機を撃墜される大打撃をこうむる。また虎の子の大型空母たる翔鶴と旗艦大鳳を雷撃で失い、散々な一日となる。虎の子の大型空母を2隻失った小沢治三郎中将は、艦隊を率いて一旦西へ退避する。翌20日午後4時、ついに米軍機に発見され、スプルアンス率いる米機動部隊の反撃が始まる。夕方5時頃、東から約200機の敵機が殺到し、そのうち約40機が長門に襲ってきた。日本艦隊は激しい空襲にさらされ、飛鷹が大破。長門による曳航が考えられたが、あえなく沈没してしまった。隼鷹も猛攻を受け、中破。その隼鷹にトドメを刺すべく敵機の編隊が迫ってきた。最大速力の25ノットで突っ走っていた長門の左舷方向に、隼鷹を狙った雷撃機の編隊5機が向かっていくのが見えた。艦長の兄部勇次大佐は主砲射撃を命じ、三式弾を水平一斉射。一瞬のうちに全機が撃墜され、隼鷹を救った。兄部艦長は「改めて三式弾の威力に感心した」と語っている。この対空戦闘が、今次大戦初の発砲であった。今度は長門の上空に敵機が集まり始めた。こうなると40cm主砲は役に立たず、代わりに機銃や高角砲が放たれた。艦長曰く戦艦の装甲は厚く、何発か喰らっても平気という安心感があったという。何機か撃墜したものの、高速で動く機は中々撃墜できなかった。爆弾は命中せず、1人の負傷者すら出さずに空襲を切り抜けた。幸いスプルアンスが積極的に攻撃しなかったため、何とか虎口を脱出。6月22日に沖縄の中城湾へ帰投する。その後、呉へと回航された。マリアナ沖海戦で得られた戦訓から対空兵装を増強。22号対水上電探と13号対空電探をそれぞれ2基ずつ新たに搭載した他、戦闘艦橋両舷に二式哨信儀を装備。25mm連装機銃を三連装のものに換装し、25mm単装機銃30丁(うち12丁は防盾付き)、連装機銃10基、三連装機銃14基を追加。より高い対空性能を獲得する。

• 命からがら戻ってきたものの、戦局は再び長門を戦場へ向かわせる。連合軍の次なる目標をフィリピンと見た大本営は、生き残った艦艇を集めて南方へと送った。7月4日、長門にも陸軍の部隊が乗艦。露天甲板で2〜3日間宿泊した。彼らは酒と食料を持っていたので、長門側から支給する必要はなかった。あちこちで輸送船が沈められているので、「軍艦なら安心だ」と言っていたそうな。7月8日、金剛とともに沖縄向けの兵員・物資を積載して呉を出港。中城湾に寄港して部隊と物資を揚陸。艦に被害が生じた時、陸軍兵の浮き輪代わりとして用意していた青竹もここで降ろされている。7月10日、中城湾を出港しマニラへ向かう。敵潜水艦の襲撃を警戒してジグザクに航行し、その合間に訓練を行った。四日後、マニラの沖合いに到着。軍需品を陸揚げしたのち、半舷上陸が許された。そしてすぐに抜錨し、リンガ泊地へと向かう。7月20日夕刻にリンガ入泊。夕暮れ時でもリンガはムンとした暑さがあった。翌日から毎日のように射撃訓練が行われた。夕食後、砲員たちは夜空を仰ぎながら故郷の話に花を咲かせた。リンガから見上げる夜空は大変綺麗で、南十字星がはっきりと見えた。今が戦争中である事を、わずかながら忘れさせてくれた。また戦艦は駆逐艦や軽巡と違って、夜間の訓練は無かった。ある日、駆逐艦がサンゴ礁に乗り上げた。長門の兵科兵約半数が内火艇に乗って、救難作業に赴いた事があった。
  • 長門がシンガポールへ回航される時、武蔵の乗組員が二隊に分かれて便乗してきた。彼らには昭南島(シンガポール島の日本名)の戦跡見学を名目とした半舷上陸が言い渡されていたため、目的地が同一であった。武蔵の巨体ではジョホール水道を通過できないのと、スパイの目から秘密兵器の武蔵を隠すため、長門に便乗した方が都合が良かった。
• 9月9日、特設運送船北上丸から食糧品の補給を受ける。9月16日、宇垣中将は長門の第二戦隊(扶桑、山城)入りに反発。結局、古巣の第一戦隊に留まる事になった。仮に転属が決まっていた場合、西村艦隊に編入される事になっていた。西村艦隊の末路を鑑みると、幸運に助けられたと言えよう。
  　
• 10月17日早朝、レイテ湾スルアン島の見張り所が敵艦隊の接近、そして敵部隊の上陸を伝えて音信不通となった。同時にルソン島へ三度に渡る大規模な空襲が行われた。これを受けて大本営は捷一号作戦を発令。長門は栗田健男中将率いる第1遊撃部隊(栗田艦隊)に所属し、同日中にリンガを出港する。敵の潜水艦を警戒しながらパラワン水道とグレートナッツ島沖を通過。移動している間にも、潤沢な物量を武器に敵が侵攻してくる。10月20日正午、前進拠点のブルネイ到着。一日を要する燃料補給と、レイテ湾突入作戦の最後の打ち合わせを行う。機動部隊の再建が絶望的になった我が帝國海軍にとって、戦艦5隻と重巡11隻からなる栗田艦隊は最後の決戦水上戦力と言えた。10月21日17時、全員が後甲板に集合し、兄部艦長が訓示を行った。「明日〇八〇〇出撃を行う。今度は雨の中を傘をささずに行くのと同じ。全員生命をお国の為に捧げてほしい」。夕食前に、盃を交わした。多くの乗組員が死出の旅路と覚悟していた。
  • 巨体で動きが緩慢な戦艦では回避が重要になる。兄部艦長は独自に回避法を編み出していた。敵機は大抵後方から接近し、艦の中心線に向かって投弾してくる。見張り員の敵機発見の報を受けたら、艦を横にして回避するのだという。この回避法実現には見張り員との連携が必要不可欠で、事前に兄部艦長は口を酸っぱくして見張り員に敵を発見したら早く伝えるよう厳重に強調した。
• 10月22日、ブルネイ出港。長門は32隻からなる栗田艦隊に配備され、レイテ湾への突入を目指した。翌23日、栗田艦隊を追跡していた敵潜水艦から雷撃を受け、旗艦愛宕と摩耶が沈没、高雄が大破・戦線離脱の損害を受ける。之字運動で愛宕、摩耶、高雄、長門が斜めに並んだ時に雷撃されたようで、実は長門の傍にも魚雷が走っていた。まさに紙一重で生死が分かれた。決戦前から少なくないダメージを喰らい、先行きを暗くする。陽が落ちると、綺麗な月が海を黄金に染める。
  　
• 10月24日午前、艦内放送で「敵の空襲圏内に入る。警戒を厳にせよ」との命令が響く。栗田艦隊はミンドロ島を左側に望みつつ、タブラス海峡へと差し掛かる。午前10時15分、B-24爆撃機が出現して空襲警報発令。艦隊は22ノットに増速する。B-24は攻撃せず去っていったが、シブヤン海で右舷から敵機の大群が接近。シブヤン海海戦が生起する。長門は最大戦速に上げ、午前10時27分に三式弾を発射。直上より敵機が接近し、25mm機銃が火を噴き始める。ここであの回避法が実践された。急旋回すると、水の抵抗で途端にブレーキが掛かったような状態になる。これを逆手に取り、艦を真一文字に滑らせるのだ。4機のヘルダイバーから投下された250kg爆弾は艦の舷側に落ち、至近弾で済む。水線上に500ヶ所以上の穴を開けながらも右へ左へ回避運動。艦内は左右に揺さぶられる。敵の毒ガス弾を警戒し、機関室は完全に閉め切られた。このため機関室の温度が50度以上に上昇。長門は合計189発の主砲弾を発射した。午前10時47分、第一波攻撃が終わり空襲警報解除。「撃ち方止め」の命令が下ると、機関室に新鮮な空気が入れられた。束の間の休息を得た乗組員たちは昼食を取った。この時、「武蔵がやられた」という噂が風の便りで届いた。実際、かなり沈下が進んでいたという。また妙高が被雷し、西方へと引き返していった。この日の昼食は戦闘配食になっていなかったため、交代で食事を取った。
• 敵軍の執拗な攻撃は続き、午後12時4分に31機が右舷方向より接近。栗田艦隊に直掩機が無い事を知っているのか、敵機に戦闘機がいないという舐められっぷりだった。そんな敵機の鼻っ面に、長門は再び三式弾を発射した。4分後、ヘルダイバーが1000ポンド爆弾を長門に投下したが、命中せず。午後12時18分、第二次空襲が終了。燃料節約のため艦隊は18ノットに下げた。13時21分、敵機の大群を探知し、栗田艦隊は右に大回頭を行う。10分後、約40機が第三次空襲を仕掛けてきた。13時45分、長門には4機のアベンジャーが向かっていったが、強烈な対空砲火によって雷撃を諦めさせた。13時53分にも4機のアベンジャーに襲われ、敵は3発の命中弾を与えたと主張したが記録には無い。14時16分、7機のヘルダイバーと8機のヘルキャットが長門に襲い掛かる。前方より敵機が急降下してきた。見張り員が発見に遅れたため、回避も遅れる。慌てて艦長が面舵一杯と叫ぶが、すぐには舵は効かない。敵機がグングンと迫ってくる。ようやく舵が効いて右へ回頭し始めた時、敵は2発の爆弾を投下、そして自身はそのまま海面へと突っ込み自爆した。1発目の爆弾は一番砲塔のすぐ横を貫通し炸裂。二番副砲が破壊され、弾薬庫通路に炎が及んだ。用心のため消火用の水を張った洗濯桶がずらりと並べられており、機転を利かせた揚弾兵がこれを使って無事鎮火させた。もう1発は艦橋後部の電信室に命中し、電信員約30名が戦死した。また二番高角砲の砲員1名が負傷している。火災が発生したが、ここで幸運に恵まれる。主砲発射の衝撃で痛まないよう、救助艇には約1トンの水が張ってあった。これが被弾の際に破壊され、中身の水が流出。ちょうど消火の役割を果たしたのである。しかし火の手は機関室にまで及び、小規模な火災が発生。消火作業が始められる。1つの缶を停止させた事で艦速が22ノットに低下したが、幸い追撃は受けなかった。14時26分、4機のヘルキャットが投弾し、長門の艦首付近に着弾。うち3発は至近弾となり、破片が艦首を傷つけた。14時40分に機関の修理が完了し、全速の発揮が可能になった。14時56分に空襲警報が解除されたが、15時3分に9機の急降下爆撃機、7機の雷撃機、5機の戦闘機が確認され再度発令。しかし敵機は栗田艦隊に向かわなかったため、13分後に解除。長門ら栗田艦隊は250機以上からの攻撃に耐え抜いたのだった。巨艦ゆえに多くの攻撃を吸収した武蔵はシブヤン海に沈み、戦闘可能な艦艇は23隻に減少。既に9隻もの艦艇が落伍ないし撃沈させられていた。この日の戦闘で乗員52名が戦死。どの艦艇も傷だらけだったが、作戦は続行。レイテ湾を目指し、進撃を再開。23時30分にサンベルナルジノ海峡へと入り、翌25日午前0時35分に海峡を突破。小沢艦隊の囮作戦が成功し、敵は重要な海峡をがら空きにしていた。

• 10月25日午前5時48分、4機の偵察機が出現。長門が発砲して追い払っている。その10分後、栗田艦隊は敵の小規模な空母部隊(タフィ3)を発見。これを砲撃した事でサマール沖海戦が生起する。長門は金剛や大和とともに空母を砲撃。ガンビア・ベイに命中弾を出したと記録しているが、敵軍側にそのような記録は残っていない。脆弱な時を狙われたタフィ3は攻撃機を放ちながら退避、煙幕やスコールに逃れようとする。突撃してきた敵の駆逐艦ジョンストンに向けて砲撃しこれに命中弾を与えてスコールに退避させた。その後、ジョンストンは矢矧に討ち取られている。この時、思わぬ椿事が数回起きた。大和の後ろから追随していた長門は、背後の雷撃機2機から魚雷を放たれ左右を挟まれる事態に陥る。一部資料では敵駆逐艦ヒーアマンが放った魚雷が榛名を外れ、偶然挟まれたとしている。艦と魚雷の速度が同一だったため、回避運動ができない長門はそのまま魚雷と並走。時間は魚雷の燃料が無くなる10分ほどだったが、大和を巻き込みつつ水平線の彼方まで魚雷と一緒に走り続けた。この結果、主要な戦闘には参加できず、せっかくの機会を逃してしまった。戦場に戻った長門は積極的に空母を攻撃したが、それを宇垣司令官に咎められている。右舷方向より、突然雷撃機1機が接近。反応に遅れた長門は回避が間に合わず、直撃は不可避と思われた。兄部艦長も固唾を呑んで覚悟していた。が、幸運な事に至近距離で投弾したため、魚雷が沈下して長門の艦底を通過、そのまま走り抜けていった。
  　
• この海戦では護衛空母ガンビア・ベイ、駆逐艦サミュエル・B・ロバーツ、ホエール、ジョンストンを撃沈し何とか勝利を収めた。だが損害も大きく、熊野が大破して戦線離脱。鈴谷、筑摩、鳥海、駆逐艦藤波、野分が撃沈された。長門は主砲弾45発、14cm砲弾92発を発射した。栗田長官は残余の艦艇に南進するよう命じ、午前10時35分に進撃再開。午後12時30分に敵機約40機が出現。敵の急降下爆撃機が接近したかと思いきや、キーンという金属音とともにマスト以上の水柱が立った。どうやら艦首を被弾したらしい。視界が晴れるのを待って艦首を確認してみると、何も異状が認められなかった。実は艦首と巻き上げた錨の中間を爆弾が貫通し、反対側へ抜けていったのだ。この部位は装甲が薄く、直撃しても炸裂しなかった。仮に爆発していれば艦首を大破し、速力や操艦に多大な悪影響を及ぼしたのは間違いない。数々の猛攻を乗り越え、レイテ湾付近まで進出。13時30分、レイテ湾内を偵察した長門の艦載機が40隻の敵輸送船の停泊を報告。ところが栗田司令長官は肝心な突入をしないまま反転離脱を命令。ブルネイへ向けて退却を始めた。この時に再び空襲を受け、爆弾4発を喰らって乗員38名が戦死。夕刻、敵機の襲来は止まった。全員が後甲板に整列し、戦死者の水葬が始まった。白い手袋をはめた兄部艦長と、衛生兵が遺体を毛布で包み、海に沈める。艦長が敬礼し、衛生兵が弔砲を空に一発放つ。それを見て信号兵が栄譽礼を吹く。約10分で50名ほどの戦死者を弔った。深夜、腹痛を起こした機関士の一人が盲腸炎と診断され治療室に運ばれる。軍医長は麻酔薬が無いため、上司や部下に患者を取り押さえるよう依頼。激烈な痛みに絶叫する患者を、上司が励まし続けた。治療室の内外には重傷者があふれ、足の踏み場が無かった。異臭、熱気、呻き声が艦内を支配していた。
• 10月26日午前8時、パナイ島沖にてグラマンとアベンジャー約30機に襲撃される。午前10時40分には30機のB-24が現れ、長門は三式弾を発射。数機を撃墜している。午前11時、約60機の敵艦上機が出現。手負いの能代が血祭りに上げられた。この攻撃を最後に空襲は止まり、翌27日は全く攻撃を受けなかった。ようやく落ち着いてきたという事で、やむを得ず通路に放置されていた50体以上の遺体の水葬準備が始まった。死体から生じたガスによって人相が変わっており、名札を見なければ誰が誰なのか確認出来ない。出撃前までは元気だった戦友たち。彼らから遺骨代わりとなる爪を切り、毛布に包んで葬儀を行う甲板へと運び出した。ラッパの音と弔銃が鳴り響き、戦死者を海に落として弔う。気付けば長門と伴走する艦は大分数を減らし、いずれも傷だらけだった。彼らは、多数の艦艇が沈んだシブヤン海で静かに眠る事となった。
  　
• 10月28日、ブルネイ入港。生き残った艦艇は17隻と、出撃時の約半数となっていた。敵機の襲撃は19回、のべ1000機以上に襲われるという戦術常識ではありえないふざけた物量を見せ付けられた格好となった。燃料補給がなされた後、外舷の損傷箇所を修理し始めた。炊事場が破壊されたので、特にここの復旧が急がれた。10月30日の正午頃、ブルネイ泊地を20機のB-24爆撃機が襲撃。爆弾を投下されたが、味方艦に被害は及ばなかった。それどころか対空砲火で12機を撃墜し、一矢報いた。この対空戦闘で一番砲塔の砲弾が尽きてしまったので、第四砲塔から2発を貰っている。11月6日、駆逐艦卯月と夕月に護衛された隼鷹が到着し、弾薬が届けられた。レイテ沖海戦は日本側の大敗に終わり、多くの艦艇を失った。生き残った艦艇も傷だらけで、組織的抵抗力をも喪失する。ブルネイには長門の他に金剛や榛名、大和といった主力艦艇が残っていた。しかしブルネイは連合軍の爆撃圏内であり、危険な場所に主力艦を置いておけないとして、内地への帰投を命じられる。11月16日、それを証明するかのように15機のP-38に護衛された40機のB-24がブルネイを空襲している。11月17日、戦艦金剛、軽巡矢矧、駆逐艦浜風、磯風、雪風、浦風とともに出港。荒天の中を突っ切る事で、危険なバシー海峡を突破。敵潜水艦を警戒して大陸寄りの航路を取った。東シナ海は昔から「度胸で渡れ」と言われるほど荒れた海で、ここなら敵潜水艦の出現率が低いとされた。しかしその努力も空しく、台湾沖で米潜水艦シーライオンに捕捉される。シーライオンは金剛めがけて魚雷を6本発射。金剛は被雷し、のちに沈没。外れた1本の魚雷が流れ弾となって長門に向かってきた。これに気付いた護衛の駆逐艦浦風は自らの体を盾にして長門を守り、撃沈された。長門からは金剛の中央部に火柱が上がるのが見えたという。

• 犠牲の末、11月23日に宿毛湾へ帰りつき、大和とともに呉まで回航された。ところが大和が先に入渠したため、長門の入るドックが無かった。このため第17駆逐隊(浜風、磯風、雪風。司令座乗の浦風は、上述のように台湾沖で沈没、司令も戦死したため、浜風の艦長が司令代理を務めていた)の護衛を受けて豊後水道を南下。豊後水道と大島沖は敵潜水艦の集合地で、非常に危険だった。そこで手すきの兵員全員で見張りを実施。座り込んで前方の海域を睨んだ。士官と下士官は双眼鏡を持って見張っていたという。幸い敵潜水艦に出くわす事無く通過、そのまま横須賀へと回航された。在泊中の艦艇が一斉に登舷礼して出迎えてくれた。しかし軍港内は空襲の恐れがあって入渠できず、岸壁に係留された。長門の乗員が異動すると、不利な戦局が漏れる危険性があったため異動した乗員は少なかった。300トン級のクレーンで物資の積み下ろしを行った後、さっそく損傷箇所の修理と副砲を取り外す工事を受ける。代わりに三連装25mm機銃を両舷に三基追加。本土では燃料が不足しており、完工後は動く事すらままならなかった。12月1日から5日間、乗組員に休暇が与えられた。これを機に帰省する者が多かったが、北海道出身の者は帰れなかった。その後、長門にも艦務実習で予備学生が訪れ、乗員が指導に当たっている。12月15日、渋谷清見大佐が艦長に着任。呉在泊の榛名と第二艦隊第三戦隊に編入される。金剛が沈没したため、残っていた長門が補充として編入された形である。
  　
  1945年
• 1945年1月1日、第三戦隊が解隊となり、新たに戦艦大和を加えて第一戦隊を編成。2月20日、その第一戦隊が解隊し警備艦となる。燃料不足により榛名や大和を横須賀まで回航できなかったのだ。長門の乗組員は艦上で生活し、暖房を動かすために石炭を燃焼させて機関を作動させていた。旧式艦ならではの方法だった。4月20日、第四予備艦に変更。大塚幹少将が艦長として着任する。5月に入ると乗員が967名に減らされ、暇になった乗員たちは横須賀工廠で小銃生産の手伝いをしている。小銃といっても三八式歩兵銃のような立派なものではなく、略式の貧弱な鉄砲だった。また乗組員には厳しいノルマを課せられ、訓練の合間に作業をしていたためたちまちオーバーワークとなり、水兵たちは血色を悪くしていた。それでも昼夜を問わずゴシゴシと鉄やすりをこするものだから、副長の日高万田中佐は水兵に「寝ろ、陽に当たれ」と命令して強引に日光浴をさせた。5月29日、B-29爆撃機517機とP-51戦闘機101機による横浜空襲が行われる。市街が大炎上する様子が、長門艦上からでも確認できたという。6月1日、本土決戦に備えて特殊警備艦に指定。同時に煙突や後部マスト上部、方位盤、探照灯等が撤去され、横須賀軍港小海岸壁に係留。同月中に14cm副砲と12.7cm連装高角砲も陸揚げされている。これに伴って乗組員も1000名に削減されている。上層部からの命令で、艦に擬装を施す事になった。艦と岸壁の間にキャンバスを張り巡らせたり、迷彩塗装を施してカムフラージュを行った。それでも不安だったため飛行機で飛び上がり、何度も空中から見てみたところ、あまり良い出来とは思えなかったという。艦の中にある燃えやすいものは次々に陸揚げされ、弾火薬も必要量以外は陸上の防空壕へ移された。
  • 艦長の大塚幹少将を始めとする士官たちは、燃料の乏しい長門をどう運用するか議論を重ねていた。敵が本土上陸を仕掛けてきた際は外に出て暴れてやろうという意見が強かったが、最終的には接近する機動部隊を迎え撃つ砲台として運用すべきと衆議一決した。敵は相模湾から突入してくると仮定し、主砲によって三浦半島を跳び越して砲撃する戦法が考案される。そこで横須賀を見下ろす大楠山に観測所を設け、弾着観測を行う事になった。艦の停泊位置では死角が多く、対空戦闘に向かない事から高角砲を陸揚げし、陣地を形成。機銃は艦に留め置かれた。そして本土決戦に備えて猛特訓を始めた。
    　
• 7月18日、「総員配置につけ」の号令が下り、間もなく米艦載機300機による横須賀空襲が始まった。陸揚げされた高角砲陣地から一斉に対空砲火が放たれ、接近する敵機をかなり驚かせた。このため長門へ敵機が殺到したにも関わらず、爆弾は命中しなかった。日高中佐は「信じられないほど不思議に当たらなかった」と語っている。ところが午前10時頃、ヨークタウン艦載機から爆撃を受け、二番砲塔の天面で跳ね返された1発の爆弾が、羅針艦橋と司令塔の間に飛び込んできた。轟音とともに爆発し、羅針艦橋にいた大塚艦長以下35名が戦死した。また士官次室にも直撃弾を受けたが、こちらは大した被害にはならなかった。2発の爆弾が命中し、長門は中破。負傷者は150名に上り、海軍病院に収容された。この空襲の後、対空機銃は全て陸揚げされ、主砲だけが残った。7月24日に杉野修一大佐が新艦長として就任。しかし杉野大佐は満州国にいて、実質未着任の状態だった。代役として池内正道少将が指揮を執った。この頃から上層部は長門の防衛を諦め、乗員7割ほどが退艦。陸上砲台への配置転換となった。8月1日、相模湾に向かう敵輸送船団発見の報が入り、曳船に曳航されて出撃しようとしたが誤報と判明。本土決戦の際は、横浜沖でキングストン弁を開いてわざと着底し、不沈砲台として運用する予定だった。
  　
• 8月15日、池内艦長は全乗組員を後甲板に集め、玉音放送に耳を傾けさせた。長門の長く辛い戦いは終わった。日本戦艦の中で、唯一浮いた状態で生存。5日後に本来の艦長である杉野大佐が長門に戻り、8月20日まで指揮を執った。8月下旬、小海岸壁を離れて沖合いに移動。8月30日、賠償艦となってアメリカに引き渡された。クロスレイ級高速輸送艦ホレイス・Ａ・バスから要員が移乗した。9月15日、除籍。
  　
  終戦
• 終戦後、長門は唯一航行可能な戦艦だった。大洋漁業(現マルハニチロ水産)が捕鯨を再開するために第二復員省へ軍艦の借用を依頼したところ、第一候補として長門が提示された事があった。1946年3月1日から14日にかけて、東京湾で3回の試運転を実施。3月18日、W・J・ホイップ大尉指揮のもと180名の米海軍乗組員とともに横須賀を出発。伴走者には巡洋艦酒匂がおり、故郷から引き離された。機関は2つしか稼動しておらず、10ノットが限界だった。また7月18日の損傷が思いのほか大きく、艦内は浸水。ポンプによる排水も間に合わず、150トンの海水を飲んだ。3月28日に酒匂が曳航しようとするが、長門の燃料が無くなって機関停止。悪天候によって酒匂も前進できず、2隻は洋上で停止。まるで故国から離されるのを拒んでいるかのように、その場から動こうとしなかった。やむなくエニウェトクに救援を要請した。3月30日、エニウェトクから2隻のダグボートが到着。長門を引っ張り始めた。しかしダグボートは非力で、追加のポンプも無かったため1ノットしか出なかった。みるみるうちに浸水が進行し、左舷に7度傾斜。四苦八苦の末、4月4日にエニウェトク到着。船体と機械の修理が行われた。
  　
• 最期はクロスロード作戦で迎えた。終戦でアメリカ海軍に接収された長門は、退役したネバダやペンシルベニア、サラトガ、ペンサコラ、ソルトレークシティといったかつての仇敵と肩を並べる。そしてドイツ国防軍から接収されたプリンツ・オイゲンらと共に太平洋のビキニ環礁へ曳航され、核実験の標的艦となった。ケッコンセリフにある「すべてを飲み込む光」はこの時の核実験による光であると思われる。1946年7月1日に行われた1回目の実験(エイブル)では、爆心地に配置された。ところが投下の際に僅かなズレが生じ、直撃には至らず。表面が少し融解したのみで損傷軽微で済んだ。ともに参加していた巡洋艦酒匂があっけなく沈没してしまったため、日本のメディアは長門に注目した。7月25日の2回目の実験(ベーカー)では5度傾くも、なおも水上にあり続けた。そのまま彼女は4日間沈まずに持ちこたえ、敗戦で気落ちしていた日本国民を勇気付けた。またプリンツ・オイゲンも生き残っており、生き残った艦艇はビキニ環礁からクェゼリンへ移動し、各種の調査研究や撃沈ないし解体処分される予定だったが7月28日深夜〜29日未明、人知れず海中に没した。
  • 現在も船体はビキニ環礁の海底に沈んだままになっている。実験が行われた海域 (マーシャル諸島共和国の領域) はダイビングスポットとなっているため見学は可能だが、放射線の影響があるために直接触れることは禁止されている。沈没状態とはいえ、ビッグセブンのなかでは唯一現存している艦である。核実験後、副錨が日本へと返還された。その副錨は愛知県岡崎市の東公園に露天展示されている。また長い時間を経て、長門の軍艦旗も返還された。
    　
• 2019年7月26日に公開された映画「アルキメデスの大戦」に本人役で登場。主人公に「人が造りし美しき怪物」と言わしめ、不正を暴く起点にもなった。

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