伊25の詳細・評価・オススメ装備 - アズールレーン(アズレン)攻略 Wiki

基本情報
- MAXステータス
着せ替え
- 着せ替え後(ウサギとサンゴ礁)ボイス
- 着せ替え後(甘酒の新春祝い)ボイス
ボイス
ゲームにおいて
元ネタ
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基本情報 †

プロフィール
	名前	伊25 IJN I25
	レアリティ	SR
	艦種	潜水艦
	陣営	重桜
	建造時間	00:30:00
	CV	石原夏織
	イラスト	煎路
	耐久	D	火力	D
	雷装	S	回避	D
	対空	E	航空	E
	速力	18
	SD
自己紹介
巡潜乙型の伊-25と申します。偵察と通商破壊、輸送作戦のほかに、かなり大胆な作戦も何個か完遂しましたよ。ふふ、指揮官さん、なんでもお任せくださいね
入手方法
期間限定建造(2019/7/11-2019/7/24) 特型建造(常設 2020/06/24～)

ステータス(MIN/MAX)
耐久	314	1622	装甲	軽装甲		装填	26	61
火力	12	57	雷装	99	467	回避	10	25
対空	0	0	航空	0	0	消費	2	6
潜航力	218		弾薬量	2		支援Lv	1
運	25

支援範囲
Lv1	Lv2	Lv3	Lv4	Lv5

装備枠	初期装備	補正(MIN/MAX)	最大数*1
魚雷	潜水艦用九二式電動魚雷T1	115%/130%	2
魚雷	潜水艦用九二式電動魚雷T1	100%/115%	2
副砲	-	85%/85%	1
設備	-	-	-
設備	-	-	-

スキル名		効果
	強襲のGlen	潜水艦が戦場に到達した場合、零式小型水上偵察機を1機発進させ航空攻撃を行い(威力は雷装とスキルレベルによる)、味方潜水艦・潜水母艦*2の命中が5.0%(MAX10.0%)アップ
	センベツ砲撃	自身浮上時、砲撃弾幕を展開する(威力はスキルレベルによる) 自身の特殊弾幕と砲撃が敵に命中した場合に40.0%(MAX70.0%)で発動、その敵の命中・装填が15秒間5.0%(MAX10.0%)ダウンする
	全弾発射-伊号潜水艦	戦闘開始時、全弾発射-伊号潜水艦I(II)を発動する

上限突破
初段	全弾発射スキル習得/魚雷補正+5%
二段	魚雷装填数+1/支援範囲拡大
三段	全弾発射弾幕強化/魚雷補正+10%

全弾発射スキル	特殊弾幕スキル
	-

大陸版wikiのページ:https://wiki.biligame.com/blhx/%E4%BC%8A25

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MAXステータス †

LV120好感度200
耐久	装甲	装填
2056	軽装甲	74
火力	雷装	回避
69	543	47
対空	航空	消費
0	0	6
潜航力	弾薬量
218	2

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着せ替え †

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着せ替え後(ウサギとサンゴ礁)ボイス †

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着せ替え後(甘酒の新春祝い)ボイス †

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ボイス †

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▼好感度系
入手時	ふぅ……ようやく人と会えましたね。はじめまして、伊-25と申します。指揮官さんのお役に立てると嬉しいです。何卒よろしくお願いします
ログイン	うぅ……指揮官さん、おかえりなさい。いない間に起きたことをレポートにまとめました。どうぞ
詳細確認	指揮官さん、お忙しい中すみません。水上機の性能テストをお手伝いいただけないでしょうか…？
メイン1	同型艦の子たちとご飯を食べる時には「いただきます」ってみんなで言うんです。穏やかで平和な気分になりますね
メイン2	妹がご迷惑をおかけしてしまいすみません。あの子は元気が良すぎですね……わたしがああいう感じになるのはちょっと無理かな…
メイン3	指揮官さん…指揮官さん……？起きているのでしょうか……ちょっと心配です…
タッチ	はあ……指揮官さん成分、補給させていただきました……
タッチ2	指揮官さんはこういうのがこ、好みなのでしょうか……
任務	まだ完了済になっていない任務がありますね。指揮官さん、一緒に頑張ってこなしましょう
任務完了	みんなの努力の成果です。胸を張って受け取ってあげるといいですよ
メール	新しいお手紙が次々と…指揮官さん、早く確認したほうがいいですよ
母港帰還	指揮官さんの笑顔から察するに、凱旋してきたところなんですね。ふふ、肩をもんで差し上げましょうか？
委託完了	委託組のみんなが無事戻りました。ん…手作りチョコとかで労をねぎらってはどうでしょう？
強化成功	ふふ、ここまで頼もしくなれたのは指揮官さんのおかげです。感謝します
戦闘開始	ときには派手にやることも必要です…！
勝利	ふふ、これからもなんでもお任せください
失敗	みんな無事でしょうか…？
スキル	攻め時です！
損傷大	ちょっと大変なことになりましたね…
失望	差し出がましいかもしれませんが…指揮官さんのサボりが艦隊の仲間に悪影響を与えています。どうかご注意ください
知り合い	指揮官さん、いつも会いに来てくださってありがとうございます。おかげさまで今日も一日頑張れますね。ふふ
友好	……今日は指揮官さん、来ないのでしょうか……わたし、寂しくて倒れちゃいそうです……………し、指揮官さん！？今の聞いてたのですか？？
好き	指揮官さん、と、突然で申し訳ございません……わたし寂しくて……大胆って？ふふ、実はあの大戦でも敵の懐に潜り込んだ経験があるんですよ？知りたいですか？
ラブ	あぅ…指揮官さん……ま、また会いに来ちゃいました…今日は…今日もずっと一緒にいてもいいですか？指揮官さんと一緒ならわたし、ずっと孤独を感じずに済みますから！
ケッコン	これは指揮官さんとの誓いの証明……ありがとうございます！わたし、いまとっても幸せです！……あと、こうして今日一日中ずっといられるのもちょっと嬉しいです！へへへ♪
▼特定編成時台詞
伊26と出撃	道を間違えないようにね？

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ゲームにおいて †

2019年7月に新規実装された潜水艦の1人。
WW2において米国への本土攻撃を成功させた奇跡の武勲艦で、スキルにもそれが反映されている。

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性能 †

潜水艦でありながら、航空弾幕、砲撃弾幕までも持つ変わり者。
航空ステータスを持たないため、スキルで行う航空攻撃は雷装を参照する。
伊26とほぼ同等の安定したスペックだが、装填だけは非常に遅いため注意。

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スキル †

「強襲のGlen」
到着時に航空攻撃を行う他、味方潜水艦の命中を全体効果で上げてくれる。
上記のようにダメージは雷装を参照。伊25が戦場についた直後に水上機が放たれ、航空攻撃による爆弾は2発。水上機が画面外にでる直前のタイミングで落とされる。
通商破壊では残念ながら発動しない。
「センベツ砲撃」
浮上時にスキルレベル依存の砲撃を放ち、被弾した敵の命中と装填をダウンさせる。
砲撃弾幕時だけでなく、通常砲撃でもデバフ効果は発動するため実戦上ではほぼ確実に、かつ複数敵にデバフを撒くことが可能。
これも通商破壊では発動しない。

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オススメ装備/編成 †

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魚雷 †

画像	装備名	備考

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副砲 †

画像	装備名	備考
	128mmSKC41連装両用砲T3	鉄甲弾によるデバフスキルのばら撒きを狙う。
	130mm単装砲T3	長射程により、撤退時でも発砲しやすくなる。

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設備 †

画像	装備名	備考
	九三式酸素魚雷	潜水艦の鉄板装備。
	自動装填機構	素の装填が低いため有用。

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編成 †

アルバコア…こちらも浮上時に弾幕攻撃を持っているため長期戦でも密度のある攻撃が可能になる、離脱時にも弾幕を発射するため潜航力は必要に応じて調整しよう。
カヴァラ…ダメージ軽減スキルにより、無防備な水上戦闘中でも生存性が上がる。アルバコアと同時編成することでカヴァラ自身の攻撃スキルもパワーアップ。
伊58・伊168・シュルクーフ…同じく浮上時に発動するスキル持ちの潜水艦たち。それぞれ浮上時間を合わせれば、一斉攻撃も可能。
龍鳳…回復スキルにより連戦でも耐えられやすくなる。

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キャラクター †

温和で淑やかな性格の伊号潜水艦のひとり。
カンレキの関係か、物柔らかな言動から想像できないほどダイタンな一面も。
実は寂しくなると倒れちゃう体質……？

（公式Twitterより）

重桜所属の伊号潜水艦。一見すると重桜艦特有のケモノミミがないように見えるが、顔の下半分辺りをよく見ると長く垂れたピンク色のミミが確認できる。
「寂しくなると倒れちゃう体質」との紹介文からも、ウサギの品種のひとつロップイヤー(たれ耳)であることが分かる。物腰丁寧な言動と優れた体つきから
年長者に見えるが、なんとJSである。女子小学生とは思えないくらい気が利く良い子で、指揮官や仲間を労えるKAN-SENの鑑。失望してもなお指揮官に
助言をするその姿は慈母である。

公式Twitterの紹介文で「ダイタン(大胆)」が「想像できないほどタイタンな一面」と誤表記された事から、リプライには某RPGの巨人や二足歩行兵器、
トラックなどが並ぶ騒動に発展。その日のうちに運営は「先程発信しました伊25の紹介ですが、一部誤字がありましたため再掲します」と対応したが、
勢いは止まらずタイタンの愛称が定着しつつある。何がとは言わないが色々とでかいので、タイタンでもいいんじゃないだろうか。

スキンでは山火事の危険性を説いている。これは伊25が山林を爆撃し、山火事を起こそうとした事に起因していると思われる。どれくらい危険なのか
潮書房光人社出版「伊号潜水艦」77頁より抜粋すると、「米西岸の山林は山火事なると消し止めることができない。山林は何週間も蜿蜒(えんえん)と燃えつづけ、
熱風で、付近の住民は避難する以外に施すすべがない。そのため山火事をひどく恐れるのである。」……との事。山の中での火遊びはやめようね！

ちなみにGlenとは、零式小型偵察機の敵側呼称である。

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元ネタ †

大日本帝國海軍が建造した巡潜乙型(伊15型)潜水艦6番艦。1939年2月3日起工、1940年6月8日進水、1941年10月15日に竣工した。先に実装されていた
伊19及び伊26は同型艦にあたる(伊19が姉、伊26が妹)。大東亜戦争では開戦劈頭のハワイ作戦に参加し、そのままアメリカ西海岸に進出。
沖合いで通商破壊を実施した。長大な航続距離と艦載機搭載の強みを活かし、オーストラリアとニュージーランド方面に潜入。艦載機を飛ばして
各要港を航空偵察し、貴重な情報を送り続けた。航空偵察に従事した回数は11回と伊25が最多である。

再び西海岸沖に進出した伊25は、オレゴン州北西端の沿岸要塞を砲撃。米英戦争以来130年振りの本土砲撃を受けた敵国を恐怖に陥れた。
伊25の名を最も有名にしたのは、敵国アメリカを二度に渡って爆撃した事だろう。アメリカの歴史上、本土爆撃を許したのは伊25が最初で最後である。
与えた被害は僅少だったが敵国民の心を不安と恐怖で染め上げ、西側の都市にシェルターや防空壕が大量に建造された。帰りしなに伊25が
ソ連海軍の潜水艦L-16を撃沈した事で敵国による国際法違反が発覚しかけ、アメリカを慌てさせている。敵国に最も恐怖を与えた武勲艦と言えよう。

通商破壊で多くの商船を仕留めているが、戦果の確認が取れているのは米タンカー「キャムデン」「ラリー・ドヘニー」「H・M・ストーリー」と
ソ連の機雷敷設用潜水艦「L-16」の4隻。油槽船「L・P・セントグレア」「コネティカット」と英貨物船「フォート・カモザン」を撃破した。
スコアは撃沈2万5493トン、撃破7126トン。ちなみに日本側の公式記録ではラングレイ型空母を撃沈した事になっている。

くわしい戦歴

横須賀の地にダイアンサスが芽吹く

大日本帝國海軍が建造した巡潜乙型伊15級潜水艦6番艦。1937年度海軍補充計画にて乙型一等駆逐艦第42号艦として建造が決定。1939年2月3日、三菱重工神戸造船所にて起工。1940年6月8日に進水し、水上、水中、武器、重心査定などの終末試験を実施。1941年4月28日、艤装委員長に田上明治少佐が着任し、5月1日に艤装員事務所を設置。そして開戦直前の1941年10月15日に竣工した。海軍へと引き渡され、軍艦旗の掲揚と乗組員の発令が行われた。竣工後、横須賀鎮守府に編入。伊24と第4潜水隊を新編し、第6艦隊第1潜水戦隊に編入。
- 要目は排水量2198トン、全長108.7m、全幅9.3m、喫水5.14m、速力23.6ノット(水上)、8ノット(水中)、重油774トン、乗員94名、安全潜航深度100m。零式小型偵察機1機を運用可能。武装は95式魚雷17本、53cm魚雷発射管6門、40口径14cm単装砲1門、25mm連装機銃2丁。巡潜乙型とは航続距離に優れた巡洋潜水艦乙型の略。甲型にあった旗艦機能を無くし、簡略化したタイプ。計画では32隻生産される予定だったが、完成したのは29隻だった。船体は甲型に準じているが、旗艦機能が無い分、船体が小型化。魚雷搭載数も17本に減少し、25mm連装機銃も1基のみに減らされている。日本潜水艦の中は最も多数の同型艦を持ち、潜水艦が挙げた戦果の44％は巡潜乙型が占めている功労者の家系。
- 日本潜水艦は居住性が悪く、Uボートにはあったシャワー室が無いと見るのが定説だった。しかし正人二見氏著書「まあ坊の綴り方　伊23号潜水艦の真実ある海軍機関兵の回想」によると伊25には搭載されていたと記述があり、定説をひっくり返している。同時に「母艦でバスに入る」との記述があり、風呂場も完備されていた事を示唆している。どの潜水艦もそうだが、沈没すれば艦長から一兵卒まで根こそぎ戦死のため、一蓮托生の意識が強かった。伊25は特にその意識が強く、乗組員同士の間には確かな絆や礼儀が存在した。階級の垣根を越え、全員が良好な関係を築けていた。故に鉄拳制裁や理不尽な暴力が全く無く、士官用・兵員用のトイレも階級の区別無く使用された。この事が乗組員の能力を極限にまで引き上げ、数々の困難な任務を可能とした。
  　
伊25が竣工した時には既に戦争の足音が目前にまで迫っており、日米開戦は避けられない状況にあった。10月25日、初代艦長に田上明治少佐が着任し、出撃準備に取り掛かる。田上艦長は常に呑気な性格だが、いざとなると機敏に適切な命令を与える人物だったという。10月31日に第4潜水隊旗艦へと指定され、小田為清大佐が乗艦。11月7日、宿毛湾にて艦載機の零式小型水上偵察機と岩国航空隊から来た搭乗員2名を搭載。その中には伊23潜から転属してきた、後に武功を立てる藤田信雄海軍飛行兵曹長がいた。藤田飛行兵曹長は、狭い艦内と空気の悪さに驚かされた。岩国航空隊時代の広々とした環境とまるで違っていたからだ。艦内の至る所に走るパイプや機械と計器。それらを無駄なく狭い空間に収めている設計に感嘆したという。
瀬戸内海で水上機の発進訓練を行ったのち、横須賀へ回航。11月11日に先遣部隊に編入され、ハワイ作戦の支援を担当。狭い艦内には長期航海3ヶ月分の食糧が詰め込まれた。その量、実にトラック十数台分。艦内には米麦庫、味噌醤油庫、野菜庫、冷蔵庫、漬物庫などがあったが容量は十分ではなかった。倉庫は満杯。通路にまで溢れ出た。仕方なく缶詰めの上に薄い板を置き、強引に通路とした。設計の段階から、こうする想定だった。士官用テーブルの下にはイカの塩辛、酒、ビール、カルピスなどの嗜好品を積載。もちろん、真水と重油は満載。普段は炸薬が入ってない訓練用の魚雷を積むのだが、今回はその訓練用魚雷を陸揚げ。実戦用の本物を積んだ。発射管に6本を装填し、発射管室に11本が収容された。更に防暑服から防寒服まで積載され、乗組員は言い知れぬ違和感を覚えていた。彼らには行き先や任務内容は伝えられておらず、おそらく南洋長期行動(南洋の委任統治領へ訓練航海)だろうと思われた。窮屈な艦内は移動するだけでも大変だった。背中を曲げ、中腰で移動する苦痛が常について回った。思わず突起物に頭をぶつけ、屈強な男が涙をポロポロ流す場面も日常茶飯事であった。
11月15日の御前会議で開戦が決まり、同日に大海令第一号が発令された。伊25が所属する第6艦隊はハワイ作戦の支援が命じられ、偵察、敵艦隊への襲撃、通商破壊の任務を受け持つ。開戦日は12月8日を定められ、それまでに作戦海域へ進出する必要が出てきた。主要幹部は出撃前夜から伊25に寝泊まりし、出港の4時間前にジャイロ起動を行う。出港2時間前に迫ると機械部員が主機の試運転と暖気を始める。1時間半前に「出港準備」が下令。乗組員が移動物や音が出そうな物の固縛を行ったり、味方識別の日の丸や艦名を記入する。潜航長が艦内を見回り、異常が無い事を先任将校に告げる。15分前、「航海当番配置につけ」と号令。田上艦長や航海長が艦橋に上がり、機関科が配置に就く。手すきの者は整列して待った。そして定刻を迎える。

11月21日14時15分、伊15や伊17とともに横須賀を出港。出港用意のラッパが鳴り響き、見送りの人々が一斉に帽振れを行う。舫いを離した伊25は、ゆっくりと岸壁から離れていく。海上はかなり時化ており、霧雨が降っていた。その日のうちに風も出るようになり、伊25は荒波に揉まれた。東京湾を出ると波浪が更に激しくなった。さすがの猛者たちも船酔いを発症し、夕食をまともに食べられた者は殆どいなかった。航海開始から数日の間は暴風雨に見舞われ、29mもの大波が伊25を食べつくさんと覆いかぶさる。
11月25日、ようやく風は止んだ。しかし相変わらず波が高い。この日、艦長の田上少佐から真珠湾攻撃に向かうとの説明があった。「12月8日を目途として開戦を決意しあり、ただし目下は外交交渉の途上にあり、開戦の実施は改めて発令せらる。このような命令を受けて出撃したのであった。その時外交交渉が成立した場合の暗号は――筑波山は晴れたり――であった。」真珠湾攻撃支援のため、ミッドウェー北方を通る北方航路を使ってハワイ近海へと進出した。艦尾の軍艦旗を降ろし、艦名を塗りつぶして戦時体勢を整える。11月29日午前6時、日付変更線を通過。12月2日、連合艦隊より「ニイタカヤマノボレ1208」の暗号文が届く。もはや日米開戦は避けられない事態となった。12月4日午前2時、敵地に近付いてきたため昼間は潜航して航行する方針に。翌5日14時30分、オアフ島の北西で東進するアメリカの偵察機8機を潜望鏡で確認。探知を防ぐため深度30mの海中に潜航退避した。幸い、敵機には気付かれなかった。他国に悟られる事無く、12月7日に伊25はオアフ島付近の指定配備地点に到着。潜航して開戦の時を待った。伊25、伊9、伊15、伊17でオアフ北東の哨戒線を形成し、伊25は最東端に配備された。用事の無い者は艦内の空気を汚染しないよう寝るのが務めだった。
　
1941年
そして1941年12月8日、大東亜戦争の幕開けとなる真珠湾攻撃を迎える。夜明け前に伊25は潜航、外の様子に耳を傾ける。午前8時15分、爆発音や戦闘音を探知。南雲機動部隊による攻撃が始まった。激しい爆破音は潜航中の伊25にまで届き、「大成功だ！敵艦全滅か！？」と万歳の声で溢れかえった。午前8時30分、港内から脱出してくるであろう敵艦船の襲撃を命じられる。伊25は臨戦態勢に入ったが、激しい戦闘音に阻まれて発見できなかった。午後12時45分、オアフ島から幾つのかの爆発音が聞こえてきた。同日夜、伊25は浮上。南雲機動部隊の戦果を耳にした。このまま魚雷1本も撃たずに帰るのは少々物足りない感じがしたという。翌9日、再び潜航。深度30mの地点で敵艦船を待ち伏せたが、やはり敵は来ない。「いちばん貧乏くじを引き当てたか」と愚痴がこぼれる。既に南雲機動部隊は凱歌を上げて帰国の途に付いており、潜水艦だけがポツンと残された。夕刻、浮上してバッテリーを充電する。この時、第6艦隊の旗艦香取からの新たな命令を受信。伊6がレキシントン級空母と2隻の巡洋艦を発見したらしく、その追撃を命じられる。
12月10日、ハワイ南西への移動を命じられ、水上航行を開始。ところが午前4時15分、オアフ島北方でエンタプライズ艦載機に襲撃される。急速潜航して攻撃をやり過ごし、30分後に潜望鏡深度まで浮上したが再度爆雷攻撃を受ける。何とか敵機をやり過ごし、浮上した。だが、またしてもエンタプライズ艦載機に妨害される。攻撃は執拗を極めたが、翌11日午後に発生したスコールに入って振り切った。浮上してみると海上は大荒れであり、敵空母を見失う。さらに搭乗員、砲兵士官などが割れたガラスの破片で負傷した。12月14日、逃走した敵空母を追ってアメリカ西海岸へと進出。潮書房光人社出版「伊号潜水艦」によると旗艦より「伊25潜はアメリカ西海岸の通商破壊とともに、12月25日に西海岸の砲撃を行い、1月12日頃にクェゼリンへ帰投せよ」と命令を受けた事になっている。

12月15日夜、伊25は浮上。周囲はめっきり寒くなり、乗組員は防寒服に着替えて見張りに付いた。そろそろ敵の哨戒区に突入するため、見張りも厳重だった。敵地も近くなってきた18日、潜航中に水雷科員が魚雷の調整及び発射準備を整える。そしてこの日の夜、浮上。ここはサンフランシスコに通じる河口の沖合い30海里だった。アメリカの山々が海岸線に迫り、ゆっくりと明滅する灯台が確認できる。まるで今が戦争中だとは思えない穏やかな風景だった。しかしこの海域は水深20mしかなく、敵に発見された時の逃げ場がないため慌てて沖に出た。海図の上ではそんなに浅くなかったはずだが、河口付近はよく洲が出来るので油断大敵である。
西海岸には10隻の伊号潜水艦が進出。伊25は北部のアストリア沖に配備された。ちなみに最北は伊25の一つ上、フラッタリー岬に配備された伊26である。さっそく伊25はコロンビア河口付近で通商破壊を開始した。12月14日午前8時45分、浮上航行中に見張り員が白色灯を発見。攻撃態勢に入ったが、まだ夜明け前で暗かったため敵船を見失う。20分後、右舷艦首方向にタンカーの船影を確認。田上艦長は魚雷攻撃を命じ、見事命中させた。敵の正体は油槽船L・P・セントクレアであった。燃え盛る敵船を見て、2本目の魚雷は必要無いとして伊25は引き上げた。だがL・P・センクトレアは沈没せず、コロンビア河まで逃げ込んでいる。つまり攻撃は失敗だった。攻撃後、格納庫の一部が浸水している不具合が確認された。この日のうちに進出中の各艦は燃料残量の報告を行い、伊25は480トンと報告している。12月19日、潜航中にトリムが振動して「カチカチ」という異音がするようになった。調べてみると、格納庫に浸水が認められた。
12月20日午前4時45分(18時16分とも)、突如艦橋の前方見張り員が声を上げた。「右10度、白灯1個、動静不明！」これはサンフランシスコの沖合い30海里で米1万トン級タンカーエミリオの舷窓から漏れる光だった。直ちに「艦内配置につけ」「魚雷戦用意」の号令が飛び、戦闘準備が整えられる。ところが途中でその白灯を見失ってしまった。辺り一面は真っ暗闇で、どこへ隠れたのか皆目見当が付かない。静寂の闇が包む中、「目の前に突然黒い岸壁のようなものが現れた！」と艦橋の皆が騒ぎ出した。「船だッ！」と誰かが叫ぶ。田上艦長は「取り舵一杯」と下令し、艦は35度急転舵を行った。危うくエミリオの船腹に衝突するところだったが、回避に成功。どうやらエミリオは伊25の存在に気付いていないらしい。ホッとしたのも束の間、また敵商船を見失ってしまった。艦内では今か今かと、鉢巻姿の魚雷員が発射の命令を待つ。相手は商船という事なので、伊25は浮上航行のまま約20分間捜索。再びエミリオの白灯を発見し、相手の右舷側に位置を取った。今度こそ逃がすものか、と距離を縮める。距離も良し、角度も良し。田上艦長は自信のこもった声で魚雷の発射準備を伝える。「撃て！」の号令とともに、ゴクーンという音が鳴り響いた。艦首から発射された魚雷1本は、エミリオに向かって伸びていった。2秒、3秒、5秒、10秒、20秒……息が詰まるような静寂を経て、耳をつんざく轟音が艦内に鳴り響いた。命中だ。雷撃を受けたエミリオは右舷へと傾いていき、転覆。そして沈没していった。エミリオが沈没し、辺りは静寂の闇に戻った。こうして伊25は初の戦果を挙げ、艦内は沸き立った。*3
- 計画ではクリスマスの日に、沿岸に展開した伊号潜水艦群が一斉に30発分砲撃する予定だった。ところが敵機の警備が厳重なのと、クリスマスの日に死傷者を出せば敵の戦意を煽るとして中止された。伊25は今まで通り通商破壊を続行した。
  　
初戦果から2日後の12月22日、旗艦より「パナマ運河を通過した敵艦隊をサンフランシスコ沖で捕捉・撃滅せよ」と命令を受ける。この日、作戦経過概要第13号によると何故かアルベマール島(イザベル島)の南西600海里で伊25が1万トン級の油槽船を撃沈した事になっている。伊25は遠く離れたアメリカ西海岸沖にいるので、明らかに位置が食い違っている。12月25日は西海岸を砲撃する予定だったが、取りやめて南下を続行。潜航中に駆逐艦と思われる音源を探知し攻撃を試みたが、逃げられてしまった。どうやら敵艦隊がパナマ運河を通過したというのは誤報だったらしく、12月26日にクェゼリンへの帰投命令を受け、サンフランシスコ沖から退却した。翌27日、コロンビア河口沖10海里でコネティカット(8684トン)に魚雷1本を命中させ、撃破。コネティカットは沈没を避けるため意図的に座礁し、のちに回収された。
600海里西進したところで年末の大掃除を行う。12月31日には洗面器3杯分の真水が支給され、出港以来初の水浴びを行った(とはいえ水で体を拭く程度だった)。聴音室と探信儀室に御神酒として月桂冠が1本ずつ供えられた。伊25の船体にトビウオの群れがぶつかり、たくさんのトビウオが打ち上げられた。乗組員はザルでこれを回収し、元旦のご馳走にした。一連の通商破壊により、撃沈または擱坐5隻(3万370トン)、撃破5隻(3万4299トン)の戦果を挙げる。本土の鼻先で通商破壊が行われた事は敵国に十分な恐怖を与え、12月23日以降、急激に同方面の警備が厳重になった。戦果こそ不満足だったが、心理的効果はあったと日本側は判断した。
- 出撃から1ヶ月が経つと、艦内の食事事情も様変わりする。生鮮食品は無くなり、食事が全て缶詰めと日持ちする漬け物だけになる。水煮や乾燥野菜は総じて同じ味、同じ匂いとなり、食欲を減退させる。栄養を補うべく各種ビタミン剤が支給されるが、外側の砂糖だけ舐めて捨てる不届き者もいた。狭い艦内での運動不足、精神的ストレス、空気の汚濁、高温多湿など潜水艦特有の劣悪な環境が乗組員が食欲を奪っていった。
  　
  1942年
1942年の元旦を、ちょうどアメリカ本土とハワイの中間で迎えた伊25。ここはまだ敵の勢力圏内であったが、見張りを厳重にすれば昼間でも水上航行が出来た。当直以外は全員上甲板に整列し、遥拝式を挙行。久しぶりに掲げられた軍艦旗が、潮風に触れて揺らめいている。田上艦長が「最敬礼！」と叫ぶと、乗組員は一斉に遥かなる祖国に向かって遥拝。続いて各々の故郷に向かって思い思いに頭を下げた。缶詰めの餅を使った雑煮が振る舞われ、新年を祝った。南下するにつれ気温が上がってきたため、ジャケットを脱いで防暑服へと着替える。この日、オアフ島西南で伊3が敵機動部隊を発見。攻撃のため移動を開始する。
1月3日午前5時30分、哨戒機に発見されて急速潜航。安全を確認して午前11時に水上航行へと移った。夕方頃、艦橋にペリカン大の鳥が飛来。見張り員の頭を小突いてきた。怒った見張り員が手を伸ばすと偶然にも捕獲してしまった。異説では彼の頭の上に止まったところを捕まえたとしている(潮書房光人社「伊号潜水艦」)。「大方オマエがぼやっとしていたから、電柱か何かと間違えたんだろう」とみんなに冷やかされたとか。この鳥は神武天皇のトビになぞらえて、大切に飼う事にした。純白の羽毛に、黄色くて細長いクチバシ、大きくて赤い水かきを持つ謎の鳥は洗面所に入れられた。残っていた缶詰めの肉を与えると、美味しそうに食べた。たくさんの乗員がこの珍鳥を一目見ようと集まってきた。しかし急に狭いところへ閉じ込められたせいか、一晩中悲しそうな声で鳴き続けた。「大空が恋しいんだろう、放してやろうよ」という事になり、翌朝に外へと出してやった。ところが何故か飛び立とうとしなかった。そこへ哨戒機6機が現れ、急速潜航。さすがの鳥も飛び立っていった。1月4日午前8時45分、哨戒中のカタリナ飛行艇3機を発見。敵機は気付いておらず、攻撃されなかった。
　
1月6日、ジョンストン・クェゼリン間に敵艦隊が通過するとの情報が入った。午前7時(日本時間。現地は深夜)、敵サーチライトらしき光芒を確認し、僚艦に打電。光芒が見えた方向へ水上航行で接近。1月9日午前3時45分(光人社発刊「伊号潜水艦」では1月8日午前4時40分)、見張り員が左10度に黒い島のようなものを発見。光差さぬ暗雲と鉛色の波の間に、黒い島のようなものが見える。最初は単なる島かと思われたが、別の見張り員が「空母です！」と叫ぶ。潜航を知らせるベルが鳴り響き、艦橋にいた全員が艦内へと飛び込むと、伊25の船体は沈降していった。艦は僅か45秒で深度30mに達し、ただちに潜航して魚雷戦に移行した。「魚雷戦用意」「使用魚雷4本」「聴音用意」「深さ18」と矢継ぎ早に指示と命令が飛ぶ。午前6時に田上艦長が潜望鏡で確認してみると飛行機を収容しているようだ。上甲板にはデリックと3本の煙突が立っている。潜望鏡一杯に映る空母から目を離さず、ひたすら相手の動きを観察。やがて位置取りに成功し、距離2000mの位置から魚雷4本を発射。ズシン、ズシンと振動を残して艦首から離れていく。秒時計が45秒を差した頃、轟然たる命中音が聞こえてきた。1発、2発、3発……。合計3本が命中した。敵駆逐艦の急行を警戒してすぐに潜航。聴音で水上の様子を探ってみたが、何の音源も捉える事が出来なかった。これにより単独で航行していた敵空母を撃沈と判断した。潜望鏡深度まで浮上し、潜望鏡で確認してみると木片らしい浮遊物が浮いていて艦影は見えなかった。15時、浮上して第一戦速でクェゼリンに向かった。撃沈を記念してか、その日の夜は士官だけ「シャワーの試運転を兼ね洗身」したという。日本潜水艦にもシャワーがあった事を示す貴重な一文である。入港が近く、また真水も余っていたので思い切って使ってみたのだろう。
- この戦果は直ちに報告され、大本営発表で「ラングレー型空母撃沈」と公表された。しかし当時ラングレーは東南アジアに所在しており、しかも健在だった。このため空母撃沈は見間違いによる戦果誤認とされている。ちなみに本物のラングレーが撃沈された時は特設空母として発表され、公式記録上では伊25がラングレーを撃沈した事になっている。戦後、アメリカ側の資料と照らし合わせてみるとラングレーの位置が食い違っている事が判明。防衛庁防衛研修所戦史室が引き続き調査したが、該当艦なし。では伊25が沈めたこの敵船は一体何だったのか。未だに謎に包まれている。
1月10日13時、敵空母遊弋中との電報を受け、索敵を行いながらクェゼリンへ航行。味方の哨戒圏に入ったので艦名と日の丸を両舷に記入した。波乱に満ちた初航海はこれで終わり、1月11日午前11時30分に潜水艦基地のマーシャル諸島クェゼリン環礁へ入港した。この日、士官限定で風呂に入ったという。午後、2人の整備員が飛行機格納筒の前扉をレンチで開けようとしたら勢いよく扉が開き、跳ね飛ばされた乗員1名が死亡、もう1人が重傷を負った。内部で揮発油が漏れていて圧力が上昇していた事が原因だった。横須賀を出港して50日余り、乗組員たちは久々に緑の大地を目にした。しかし短期間の入港であるため、休養する間もなく整備が始められた。1月17日に給油船東亜丸から燃料を、平安丸から魚雷の補給を受けた。1月26日には船体を黒色に塗装し、1月29日にメインバラストタンクの修理が完了。午後、零式小型水上機1機を受領して戦闘訓練を行う。
　
1月31日午前3時51分、敵艦上機2機がクェゼリン上空に出現。停泊中の潜水艦に沈降命令が下る。午前4時、9機の敵艦爆が現れ、対空戦闘開始。18分後に14機の敵艦爆が出現し、高度3000mから投弾。在泊艦艇に襲い掛かる。襲撃時、伊25はタンカーに横付けして補給を受けており、甲板の上では生鮮食品やビールを運び込む作業が行われていた。甲板上に乗組員がいるため潜航出来ず、ドーントレスから機銃掃射を受ける。更に爆弾を携えたドーントレスが迫り、グングンと距離を詰めて来る。攻撃される寸前、何とか急速潜航に成功。強引に沈降したため前方に35度傾斜したまま海底に沈座してしまった。敵機が去って浮上してみると、生鮮食品とビールは全て無くなっていた。嗜好品を全損させられ、乗組員は大変悔しがったそうな。午前5時、第6艦隊は伊9、伊15、伊17、伊19、伊23、伊25、伊26、呂61、呂62に敵艦隊の追撃を命じた。伊25は午前7時に出港し、クェゼリンから東進。しかし敵を捕捉できず、2月4日21時にクェゼリンへ帰港した。同時に部隊の再編制が行われ、伊25は第4潜水戦隊へ編入。乙型潜水艦3隻で統一された部隊だった。2月6日午前6時30分、タンカー東西丸から燃料補給を受ける。
　
オダマキの如し
2月7日、伊25はオーストラリア方面偵察のためクェゼリンを出港。オーストラリアは敵軍の撤退路及び反攻の拠点となっていて、東南アジアで行われている蘭印作戦を確実に成功させるには同方面の敵情が必要不可欠だった。平時であれば仮装をして赤道祭を盛大に催すのだが、戦時ではそうは言ってられない。「赤道って言うのは、赤い線が引いてあるんだってな」と軽い冗談を言いながら、2月9日に赤道を南下。ソロモン諸島とニューカレドニアの中間を南西へ進み、シドニーを目指した。2月13日、そろそろ寒くなってきたため艦橋の見張り員は毛糸のセーターを着込んだ。17時以降、25mm対空砲の試射を行った。
2月14日、オーストラリア北東沖で英商船コールドブルックと遭遇したが、偵察を優先して無視している。同日中にシドニー港沖へ到着。昼間は潜航し、夜間飛行が出来る日を待った。シドニー市街地から発せられる夜光は、伊25からもハッキリと見る事が出来たという。艦載機は小型の偵察機なので、波が高いと飛び立てない。辛抱強く待つ必要があった。2月17日午前4時30分、ようやく波が静かになったので艦載機を発進させてシドニーを偵察。南部のラペルーズからボタニー湾を飛行し、港内に停泊している23隻の艦船を確認。そのまま北上し、更に軍艦1隻、駆逐艦2隻、潜水艦5隻を視認。しかし予定の時間を過ぎても艦載機は戻ってこなかった。心配になった伊25側は発煙筒を発射。迷子の艦載機は白煙を確認し、これを頼りに無事帰投。天測がずれ、母艦の位置を見誤ったのが主な原因だった。再発防止のため、田上艦長は空からでも発見しやすい目印を用意する事にした。航空偵察の結果、甲巡1隻、駆逐艦2隻、潜水艦5隻、商船複数が停泊しているのを確認した。午前7時30分、艦載機を収容。14ノットで南に向かった。
2月18日、偵察のためメルボルンへと向かう。20日、メルボルンの沖合い160海里に到着したが波が高く、航空機の発進に適さなかった。2月26日黎明、波が低くなったのを見計らって艦載機を発進。フィリップベイ港内に大型巡洋艦1隻、軽巡5隻、商船20隻以上の停泊を確認。貴重な情報を持ち帰った。対するオーストラリア軍は2機の戦闘機をスクランブル発進させたが、発見できずに取り逃がしている。地上の対空陣地が飛び去る零式小型偵察機を発見していたが、発砲の許可が無かったため見逃した。また重巡1隻と軽巡5隻がメルボルンのドックに向かっているのを目撃している。伊25はウィッカム灯台の東6マイルの地点で浮上し、艦載機を回収した。その後、タスマニアの西海岸を南下。3月1日、夜明けの2時間前に零式小型偵察機が発進。オイスター湾を南下してタスマニア島ホバート港を航空偵察。商船1隻と小型船舶6隻を確認した。軍艦の停泊は見受けられなかった。
3月3日、ニュージーランドのウェリントンを目指して昼間水上航行を開始。翌4日、敵の哨戒圏内に入った。3月6日20時15分、敵商船と遭遇。攻撃が任務ではなかったので高速航行でやり過ごした。22時30分にも敵商船と遭遇したが、回避。夜陰に隠れて陸地2kmにまで接近し、3月7日午前4時に艦載機の発進準備を開始するも強風に煽られてカタパルト発進ができず。やむなく水上発進に切り替えたが、デリックで吊り上げている時に風に煽られ、主翼が艦橋に接触し破損してしまった。今夜の偵察は急遽中止となり、一時退避。主翼を修復して3月8日に再開。ウェリントン港5海里の地点まで接近し、午前3時に浮上。1時間の準備を経て、艦載機を発進させる。今度は無事成功し、商船2隻の停泊を確認。軍艦はいなかった。3月12日16時30分、敵駆逐艦2隻に発見され追跡を受ける。潜航後、爆雷攻撃を受けたが被害軽微。3月13日午前2時30分、オークランド港を航空偵察すべく艦載機が発進した。約1時間後、近づいてくる商船の光を確認。14cm甲板砲を準備し、いざという時は一戦交える覚悟だったが、商船は伊25に気付かず去っていった。その直後に艦載機が帰投し、商船4隻の停泊を報じた。
　
艦載機を回収した伊25は、先ほどの敵商船を仕留める事を決意。同日13時15分に敵商船を発見し、2万トン級と推測された。日没後、伊25は4本の魚雷を発射。田上艦長は撃沈を報告した。ただ、異説では方位盤が左に4度ずれていたため失敗したとしている。ちなみに敵商船の正体は特設砲艦であり、砲撃を受けたが命中しなかった。3月16日、敵重巡1隻と2万トン級商船を発見。攻撃に移ろうとしたが、先に潜望鏡を発見され、敵の重巡がこちらに迫ってくる。やむなく潜航し、攻撃の機会を逃した。危機が去った後に浮上し、艦載機を飛ばして40分間の索敵を行ったが、見つける事は出来なかった。3月19日、フィジー島スヴァ港の航空偵察を実施。エメラルド一色の綺麗な海が眼下に広がり、サンゴ礁まで見えた。美しき光景は搭乗員2名の心身を癒した。港内にはイギリスのエメラルド級巡洋艦、商船4隻、小型船多数を確認。敵の拠点を偵察中、艦載機がサーチライトの照射を受ける事態に見舞われるも、でたらめな発光信号を送って敵を困惑させ、無事逃げ切った。2マイルの沖合いで待機していた伊25に回収され、海域から離脱した。3月22日午前4時55分、北上する敵重巡を発見。追跡を行ったが、振り切られている。3月23日、アメリカ領サモア諸島のパコパコ沖に到着。しかし海が荒れていたため艦載機の発進ができず、仕方なく潜望鏡で偵察を行った。軍艦はおろか軍事施設の観測すら殆ど叶わなかった。この偵察を以って伊25は帰路につく。3月27日、トラック島まで1200海里の地点まで到達。艦名と日の丸を記入し、軍艦旗を掲げた。3月30日、トラック島に入港。給油艦音戸から燃料補給を受け、乗組員には束の間の休息が与えられた。入港後すぐに横須賀へと戻る事となり、翌31日15時にトラック泊地を出港していった。

4月4日、ようやく横須賀に入港。長きに渡る航海により伊25の塗装は剥げ、色あせていた。在泊の艦艇からは「貴艦の無事入港を祝す」、「赫々たる戦果を祝す」と信号が送られてきた。垢と油にまみれた乗組員たちが、温かな歓迎に応えている。入港後、伊25は整備を受けた。乗組員には半舷上陸と32時間の休暇が与えられ、5日間の熱海休養も二度許可された。今回の修理で伊25は蛍光灯を装備。入港の翌日である4月5日、小田大佐が退艦し、新たな司令として長井満大佐が伊25に乗艦。4月10日、第6艦隊第1潜水戦隊第4潜水隊に編入。4月12日、連合艦隊は第二段作戦への移行を発令し、第1潜水戦隊はアリューシャン列島方面の要地攻略に協力する事となった。4月18日、横須賀に停泊していた伊25はドゥーリットル空襲に遭遇。この時、第5船渠に入渠していた。投弾された爆弾は隣の第4船渠に落ち、空母へ改装中だった大鯨に直撃した。低空で飛行していくB-25を、とある男が間近で見ていた。
- ドゥーリットル空襲は、我が陸海軍の上層部に大きな衝撃を与えた。翌日の4月19日、霞ヶ関にある軍令部第三課では朝から会議が開かれていた。民間人はおろか小中学生をも標的にした鬼畜な敵への憤怒から、報復として敵の本土を爆撃する事が決まった。しかし敵の本土は真珠湾より遥かに遠く、敵艦が大量に待ち受けている。そんな危険な場所へ連合艦隊が貴重な空母を貸してくれるとは思えない。となれば、潜水艦から航空機を飛ばすしかない。会議に出席していた筑土龍男大尉は「あの男しかいない」と思った。1932年から水上機を操縦し、かすり傷一つすら負わない天才的な技術を持つベテラン搭乗員…藤田信雄飛行兵曹長である。4月21日、伊25艦載機パイロットの藤田信雄飛行兵曹長は軍令部に呼び出され、オレゴン山中への空爆命令を受領した。田上艦長と藤田飛行兵曹長は相性抜群で、甲板で行う艦載機の組み立て、カタパルト発進、洋上収容まで迅速に行っていた。この彼の腕が買われた結果だが、本人は成功させる自信が無く、受領したもののひそかに遺書をしたためていた。しかし間近で見たB-25が脳裏に浮かび、作戦立案に思わず熱が入った。完成した計画書を持ち、田上艦長に作戦の概要を説明した。
5月5日、大海令第18号によりミッドウェー及びアリューシャンの攻略が発令。伊25はアリューシャン方面の偵察を行いつつシアトル沖に向かい、監視配備に就くよう命じられた。次なる任地は氷と霧が支配するアリューシャンに定められた。
　
休養と整備を終えた伊25は5月11日13時30分、伊26とともに横須賀を出港して北上。アリューシャン作戦の支援を行うべく直接コジャック方面へ向かった。17日にシベリアの日付変更線を越え、5月19日、ダッチハーバー南400海里に到達。敵の哨戒圏のため、翌20日より昼間は潜航して過ごした。伊25は一時的に北方部隊へ編入された。5月26日、アリューシャン作戦に先立ってアラスカのコジャック港偵察を行う事に。この偵察は重要視されていたため、バックアップに伊26がついた。波のうねりは高く、作業が妨げられる。夜明け前、霧の中で発進準備をしていると距離2000mの地点に敵の戦艦が突如姿を現した。伊25は反転離脱を行いながら準備を急いだが、カタパルト故障で発進不可能に陥る。慌てて艦載機を収容し、最大速力で45分間退避。辛くも逃げ延びた。その後、カタパルトを修理。続いて伊25はアストリア型重巡洋艦がコジャックに入港していくのを目撃した。翌27日20時に艦載機を発進させ、港内に重巡3隻、駆逐艦8隻、商船6隻の停泊を確認。ウーメンスベイに兵舎以外の施設は無い事、ブスキレ河に建設作業中らしき強力な灯火が光っている事を報告し、本隊の第二機動部隊に貴重な情報を送った。艦載機を収容後、伊25は潜航。40分後、敵の駆逐艦2隻が接近。爆雷防御を下令し、深度60mにまで沈降したが発見されていなかったらしく敵は素通りして行った。やがて「米本土の主要な施設を砲撃せよ」との命令を受け、シアトルに向けて航行。
5月29日、シアトルの西北西700海里地点で巡洋艦に護衛された輸送船1隻を確認。魚雷戦用意の号令が下され、6本の魚雷が装填されたが見失う。艦載機を発進させて周囲を捜索しても見つからなかった。5月30日、シアトルの西北西700海里で大型巡洋艦2隻を確認。だが哨戒機6機から爆撃を受け、急速潜航でやり過ごす。6月2日、シアトルの沖合いに到着し、通商破壊を開始。撹乱のため、伊25は予め擬潜望鏡というものを大量に用意していた。青竹の下に石の重しを付け、上部には斜めにガラスが装着されている代物で、これを敵の通商路へばら撒いた。日本の潜水艦が大量に出現しているとの心理的恐怖を与えるのが狙いだった。
　
6月5日午後12時、音源を探知。潜望鏡を上げてみると1万2000トン級の商船を視認、14時に魚雷2本を撃ち込んで撃沈した。伊25がアメリカ西海岸で通商破壊している頃、ちょうどミッドウェー海戦が行われていた。戦況は伊25にも届き、「我、空母大破4、小破1。伊168潜がヨークタウン型空母を撃沈せり」と報告を受けた。6月11日、艦隊旗艦から空母4隻喪失の悲報が届き、艦内は沈痛な空気に包まれた。翌12日、発見した大型商船に魚雷1本を命中させ、大破。6月13日には8000トン級商船に魚雷2本を命中させ、更に同日中に油槽船1隻を大破させる。浮上し、14cm砲8発を撃ち込んで油槽船にトドメを刺した。6月18日、伊25と伊26に主要施設砲撃が改めて下令される。
6月20日午前10時、フラッタリー岬の南西でイギリス商船フォート・カモザン(7126トン)を攻撃。左舷の第二船倉に魚雷を命中させ、さらに甲板砲18発を撃ち込んで大破させた。だが敵船は木材といった水に浮く材質を大量に積み込んでいたため沈没には至らず、曳航されてしまっている。カナダ海軍のコルベット艦クイネルとエドマンズトンが伊25の追跡を行ったが、逃れる事に成功した。6月21日夜、伊25は機雷源を突破するため地元の漁船団を追跡し、アメリカ本土のアストリア沖に到着。深夜、田上艦長は浮上を命じ、コロンビア河口沖に占位。そしてスティーブンス沿岸要塞に向けて14cm砲弾17発を発射した。*4砲撃を受けた要塞側は即座に全ての照明を落としたため、有効的な砲撃が出来なかった。だが敵をパニックに陥らせ、慌てて駆け出してきた敵の守備隊が転んだり、トラックに轢かれるなどして負傷。ジャック・R・ウッド大尉は「私たちには地獄のように見えた」と語っている。砲弾の多くは野球場や沼地に落ちたが、1発が電力装置の付近で炸裂。複数の大きな電話線と電力線が切断され、広範囲に渡って通信障害を引き起こした。これが唯一の損害であった。一方、要塞側は陸砲があったにも関わらず反撃が行えなかった。基地司令が10インチ砲の射程では届かないと判断したとも、砲撃の光で位置を特定されるのを嫌がったとも言われる。発射された砲弾のうち、1発がゴルフ場に着弾。現在そこには記念碑が建てられている。微小な損害しか与えられなかったが、この砲撃は米英戦争以来130年ぶりの本土攻撃となり、西海岸への本格的侵攻を想起させて敵国を恐怖させた。通報を受けたハドソン攻撃機が急行、爆撃をしてきたが損害は無かった。漁業灯を付け、操業中のアメリカ漁船の間に紛れ込み、水上航行で沖まで脱出した。
- 同日中に伊25はアメリカ貨物船(7100トン。船名不明)を撃沈している(戦史叢書第098巻92頁)。またサンフランシスコ沖を航行していた時に敵の日本語宣伝放送を傍受。日本本土に向けたプロパガンダ放送であり、内地では聴取が厳禁されているが、伊25では耳を傾ける事が出来た。真珠湾攻撃の際に捕虜第一号となった酒巻和男少尉の事が語られていた。

西海岸から離れ、ダッチハーバーを偵察。6月25日、哨戒機編隊6機を発見し、潜航退避した。6月30日夜、横須賀への帰投命令を受領。伊5と交代し、内地を目指した。長期の作戦から解放されたため、7月8日に飛行機格納筒に白の識別線を記入し、日の丸を描いたキャンバスを両舷に貼り付け、軍艦旗を掲げた。翌9日、艦内の大掃除を実施。3升分の真水が振る舞われ、乗員は洗面所で入浴した。7月11日、横須賀に帰投。入港した伊25が見たのは、異様な光景だった。出撃前にはいなかった多数の補助艦艇や傷ついた艦が各所に停泊し、工廠はその修理に追われて不眠不休の工事を行っている。横須賀市も灯火管制が敷かれ、夜間は真っ暗になって活気が失われていた。ちなみに戦後の1971年5月に刊行された戦史叢書第46巻「海上護衛戦」では、伊25が敵潜グランパスを撃沈した事になっていた。グランパスの喪失位置はキスカ島近海であり、ちょうどアリューシャン方面に立ち寄っていた伊25が仕留めたと判断されたと思われる。のちに運送船鹿屋丸に撃沈されていた事が判明した。
- 7月27日、藤田飛行兵曹長は入湯上陸(泊まりがけの外出)が許された。家族を山口県から横須賀に呼び寄せ、久々の休暇を楽しんでいたが、8月上旬に突然田上艦長から伊25へ戻るよう言われる。横須賀軍港の岸壁に係留中の伊25に戻ると士官室に田上艦長が現れ、1枚の電報を見せる。それには「伊二十五号潜水艦飛行長、本日軍令部第三課に出頭せよ」と書かれていた。藤田飛行兵曹長は意図が理解できず、田上艦長に訊くが彼も分からないのだという。とりあえず田上艦長の知り合いであり、潜水艦作戦の参謀を務める井浦祥二郎中佐に会えば真意が分かるだろう。命令どおり出頭すべく、藤田飛行兵曹長は横須賀駅から新橋へ向かった。海軍省の2階にある第三課の部屋に入り、案内された部屋で待っていると井浦中佐が姿を現した。彼は藤田飛行兵曹長を会議室に通した。そこには大佐・中佐クラスのお偉いさんが集結。その中には皇族の高松宮殿下(中佐相当)の姿もあった。シアトル駐在の経験がある副官が円筒から1枚の地図を取り出し、机の上に広げる。地図にはアメリカ西海岸の地形が記されていた。
- 「米国の西海岸は山林が多く、殆どが原生林。敵さんが最も恐れているのは山火事である。自然発火する事も稀にある。西海岸の大森林で一旦火災が起きると、消しようが無い。猛烈な熱風が近隣の町を襲い、炎は全てを焼き尽くす。こうなると、多くの住民は命からがら避難しなければならない。焦熱地獄で心身ともに疲労困憊してしまうのだ。したがって敵の最も苦痛とする森林火災を飛行機から焼夷弾を投下して発生させれば、効果は絶大である」。目標が軍事基地ではない事に最初は嘆息した藤田飛行兵曹長だったが、森林火災の重大さを説明され、俄然やる気が出てきた。潜水艦1隻の艦載機1機では、仮に市街地へ爆弾を投下しても程度は知れている。そこで森林火災を引き起せば、消火までに多大な労力と時間を割かせられる上、民心へ恐怖を与える事も出来る。理に適った作戦目標だった。また、ドゥーリットル空襲で小学生を銃撃して殺害した敵軍と違って、民間人を直接攻撃しないという武士道精神も込められていた。会議が終わった後、藤田飛行兵曹長は最敬礼して退室。帰りの電車の中で一人興奮していたという。伊25に帰艦後、藤田飛行兵曹長は田上艦長に地図を渡した。地図はすぐに金庫の中へとしまわれた。アメリカ本土爆撃の事を知るのはパイロット本人の藤田兵曹長と田上艦長以下数名の士官のみだった。戦後、井浦中佐は伊25を選んだ理由として、艦長の田上少佐が極めて優秀である事、神がかり的な操縦技術を持っている藤田飛行兵曹長が伊25に乗っていた事を挙げている。
- 作戦に備え、伊25には三か月分の食糧、医薬品、被服、兵器が積載された。艦内の通路上に食糧や被服が積み重ねられ、その上に幅の狭い板が置かれた。8月上旬に横須賀の航空技術廠で搭載機の改造が行われ、76kgテルミット焼夷弾6発を搭載できるようにした。1発の爆弾の中に520個の焼夷弾が入っており、着弾と同時に100m四方に散乱。2000度の高温で1分間燃焼する代物だった。
8月10日に第4潜水隊は解隊した。
　
敵の足元に咲くジンチョウゲ
8月15日、アメリカ本土爆撃という大任を帯びて横須賀を出港。この作戦はドゥーリットル空襲の意趣返しでもあった。作戦に伴って、伊25は第6艦隊直轄となった。大任とは裏腹に、伊25を見送ってくれたのは在泊中の小型艦艇の乗員だけと寂しい出撃だった。死地に赴く伊25は、ただ静かに湾口へと向かっていった。全ての乗組員が死を覚悟し、見納めと言わんばかりに祖国の大地を見続けていた。再び生きて母港に帰れるとは思えない。ただ敵に大打撃を与え、その任務を全うする殉国の精神が見て取れた。懐かしの故国よ、幸いあれ。永遠に栄えよ。我々は祖国の繁栄を祈りつつ、喜び勇んで戦場へと向かうのだった。三陸沖からアリューシャン列島の南を進む伊25。これがオレゴンへの最短ルートだった。いつ敵に出会うか分からない。艦内は三直哨戒の厳重な見張りが立てられた。
出港して一週間、アリューシャン列島沖を航行している時に田上艦長と藤田飛行兵曹長、先任将校福本大尉の三者で作戦の打ち合わせを行った。この協議では偵察機の回収ポイントを3つ設定した。決して敵に見つからないよう、忍者のような隠密航行が続く。アメリカ西海岸が近付くにつれ、緊張は高まっていった。伊25や伊17が暴れたのは僅か2ヶ月前。敵は警戒を強め、侵入してくる日本潜水艦を叩き潰そうとしているに違いない。盛んに哨戒機を飛ばし、迎撃のための艦船もいるかもしれぬ。そこへ飛び込んでいく訳なのだから、自ら好んで死地に赴くようなものだった。藤田飛行兵曹長と奥田兵曹も、顔には出さないが生還を期さない覚悟を抱いていた。しかし艦内の緊張とは裏腹に、平穏な航海が続いた。そろそろ敵の哨戒圏に入るので、昼間は潜航し、夜間のみ水上航行する手段を取った。
恐るべき勇敢さを発揮して敵地へと進軍する伊25。いよいよアメリカ大陸が見えてきた。更に近付くと山岳も見えるようになった。季節は9月に入り、すっかり秋めいていた。晴れた空、澄んだ空気、吹きぬける秋風。夜空には星がきらめき、沿岸の民家から明かりが見えるほど穏やかな光景だったが海上は大荒れで波が高かった。これでは偵察機の組み立てが出来ないとして発進を見合わせる。メンドシノの灯台から投げかけられる光が、闇夜を切り裂いて回るのが見えた。到着したばかりなので焦る必要は無かった。だが、いつ敵と遭遇するか分からない。艦橋の見張り員が緊張しながら、周囲を警戒している。敵に有利な情報を与えないよう、田上艦長は民間ラジオを傍聴する事を禁じていた。ゆえに現地の天候情報が手に入らず、これが暗い影を落とした。来る日も来る日も天候に恵まれず、発進を延期。夜明けとともに潜航し、次の夜を待つ。さすがに艦内でも焦りの色が見えてきた。波が穏やかな場所を求めて西海岸を北上。移動中に何隻か大型タンカーを発見したが、田上艦長の意向で偵察機を発進させるまでは手出ししなかった。
- 藤田飛行兵曹長は、甲板に出て見張りに参加していた。爆撃を行う搭乗員は休養を命じられていたが、体が鈍ってしまうという事で彼は視力の訓練と見張りを兼ねて水平線や星空を見つめていた。灯火管制をしているので夜は真っ暗であり、隣に来た人ですら顔が見えない。火を隠しながらタバコを吸っていると田上艦長がやってきて、二人で喫煙する。今回の作戦では生還は絶望的だ。しかし藤田飛行兵曹長はベテラン中のベテランで、そんな貴重な人材を海軍が使い潰すはずが無いと田上艦長は考えていた。海面には光を放つ夜光虫が揺られている。その夜光虫が突如変則的な動きを見せ、藤田飛行兵曹長は魚雷かと思って緊張するが、田上艦長は冷静に「鮭だよ」と言って乾いた笑い声を上げた。この辺りは鮭の大群が回遊しているようだった。敵地の眼前で他愛の無い会話をしながら、夜が更けていった。

9月7日、ついにオレゴン州沖合いに到達。その日の夜、艦が発進位置へと移動した事から、艦内に活気が戻った。明朝、夜更けとともに偵察機を発進させるのだ。だが天候は突如としてそっぽを向いた。夜明けが近づくにつれ、急に霧が出始める。だんだん霧が濃くなり、艦橋から艦首が見られないほど視野が悪くなった。夜明けを迎えても濃霧は晴れず、発進は急遽取りやめ。無念の潜航へと移った。ああ、またなのか。肩透かしを食らった乗組員は落胆し、次の機会を辛抱強く待った。
　
9月9日未明、ブランコ岬西方25海里で浮上。潜航中は空気が汚れるので艦内は禁煙だった。浮上と同時に藤田飛行兵曹長は発令所にタバコ盆を出し、すぱすぱと吸った。そして霧が出ないよう一心に願った。夜明けが近くなるにつれ、波は静かになっていった。頭上には澄んだ星空が広がっている。待ちに待った好機がやってきたのだ。藤田飛行兵曹長は遺書をしたため、遺体代わりとなる髪の毛と爪も用意。汚れた下着や服は洗濯できないのでそのままだが、畳んで整理してある。いつ死んでも良いように準備を万全にする。午前4時、「飛行機発進用意、作業員前甲板」の号令が下った。さっそく作業員が前甲板に集合し、先任将校指揮の下、飛行機格納筒が開かれる。中から零式小型偵察機が引き出され、前甲板に設置。組立作業が始まった。その間に藤田飛行兵曹長は飛行服に着替える。迅速かつ確実な作業により、僅か30分で作業は完了。操作マニュアルに記載されている所要時間よりも短く、整備班の錬度の高さが窺える。次に試運転へと移り、パタパタと小気味良いエンジン音が鳴り始める。田上艦長が「前進微速、針路270度」と命令し、停止していた伊25の船体が動き始める。東の空が白んできた。艦は速力16ノットくらいに加速し、白波を立てている。藤田飛行兵曹長が「艦長、出発します」と短く告げると、田上艦長が緊張した面持ちで「爆撃地点は予め命令したとおり、慎重にやれ、成功を祈る。出発。」と返した。敵機の攻撃で民間人に少なくない犠牲が出ているが、私憤に駆られず予定通りに森林を爆撃せよ、という意味が込められていた。彼は400年前から代々伝わる日本刀を携え、偵察機に乗り込んだ。

藤田飛行兵曹長と奥田兵曹が偵察機に搭乗すると、各部のチェックを始めた。エンジン始動。周囲が曙光に照らされ、はっきりと見えるようになった。まるで太陽が伊25を祝福しているかのように――。先任将校へ「発進準備良し」と報告し、整備員が風車止めピンを外す。午前5時34分、エンジンを全開にし、カタパルト上を滑走して艦から飛び上がった。爆弾を積んでいるため、機体が重い。海面にグングンと近づいていったが、やがてエンジン出力が勝って上昇。朝日が海を赤く染める頃にはエンジン音も軽快なものになる。機体を見送ったあと、伊25は静かに潜航していった。次に会う時は会合地点だ。爆撃地点へ向かうのに、ブランコ岬の灯台は大変便利な目印だった。零式小型偵察機は灯台の横を通過し、針路を南南東に向けてアメリカ本土へと突入した。高度2500mまで上昇し、機体を水平に整える。時速180km/h、爆撃機にも劣る鈍足に、ピストルでも撃ち落とされる危険性がある脆弱な防御力。加えて自衛用の武装は7.7mm機銃のみであり、もし敵戦闘機にでも捕捉されたら一瞬で終わりである。果たして任務を完遂し、生還する事は出来るのだろうか。飛び去っていく零式小型偵察機を、沿岸の町ブルッキングスの市民は目撃していた。幸い迎撃される様子は無く、ブランコ岬から80kmの地点まで到達。眼下にはオレゴン州の森林が広がっている。
- この日の朝は、例年と違って霧が深かった。火災監視員のハワード・ガードナーはエミリー山脈にある監視台に乗って、霧に覆われた森林に目をやっていた。午前6時過ぎ、彼はブルッキングスの市街地方面から聞こえてくる大きなエンジン音を耳にする。このエンジン音こそ零式小型偵察機であった。アメリカ陸軍航空隊の警戒は海岸方面に向けられており、シスキュー国有林は全くの無警戒だった。
爆弾の投下を決めた藤田飛行兵曹長は奥田兵曹に準備を命じ、エミリー山に1発目の76kg焼夷弾を投下した。着弾点に爆発の花が開き、炎上。狙い通り山火事が発生した。投下地点から東に5km移動したところで2発目を投下。軽くなった機体をフルスロットルにし、240km/hのスピードを出してブランコ岬を目指した。発覚を避けるため、ブルッキングス市付近ではスロットルを絞ってエンジン音を小さくする。ブランコ岬灯台を旋回して無事海上へ脱出できたが、不運にも国籍不明の商船が2隻、9m間隔で北上していた。ここに来て敵に気付かれないよう15mの低空飛行を行い、2隻の間を通り抜けた。異説では2隻が見えなくなる所まで欺瞞針路を取り、のちに母艦のいる方角へ変針した事になっている。
- 遠方で煙が上がるのを目撃したハワードは「落雷によって山火事が発生した」と思い、ゴールドビーチにあるレンジャー部隊本部に通報。現場の状況を確認するよう命じられ、荷物をまとめて現場に急行。小火を消火した。煙が晴れると、彼は地面にクレーターが出来ている事に気付く。更に爆弾の破片が落ちていて、拾い上げると日本語が書かれていた。この事は直ちに報告された。当時のオレゴン州は雨季だった上、作戦の前日に大雨が降っていた事も手伝って延焼には至らず、自然鎮火させられてしまった。午前6時30分、陸軍の沿岸監視員もブランコ岬から洋上に向かう零式小型偵察機を目撃しており、バンドン市の第174歩兵分遣隊司令部に通報。すかさず防空警戒本部に通達され、P-38戦闘機が出撃した。ところが太平洋から来たとは思わなかったようで、報告とは全く違う反対方向へ行ってしまった。第174歩兵分遣隊は日本兵の上陸を警戒してバンドンからブルッキングスまでの沿岸を捜索したが、痕跡すら無かった。爆撃の件は報道管制が敷かれ、極秘とされたがマスコミにすっぱ抜かれて国民にも知れ渡った。まさか太平洋を潜水艦で渡った来たとは夢にも思っておらず、FBIですら付近の湖で組み立てたと断定してオレゴン州内の湖を徹底的に調べた。
  　
窮地を脱した偵察機は高度50mを維持しつつ、洋上のランデブー地点に向かった。やがて洋上に黒い点を確認、伊25が帰りを待っていた。無線封鎖をしているため通信は使えず、あらかじめ決めていたバンク(左右に翼を振る味方識別信号)を行って艦の右舷艦尾側に着水。ゆっくりと揚収用デリックのもとへ接近する。奥田兵曹が主翼の上に乗り、デリックのフックに機体を引っ掛けて吊り上げる。甲板上には整備班が待っていて、すぐに分解作業が始まる。敵に見つかれば一巻の終わりなので、司令塔では見張り員が目を光らせている。機体はクレーンに吊られ、上甲板にて分解。格納筒へと収納された。その間、わずか15分。迅速な作業だった。田上艦長は藤田飛行兵曹長から報告を聞き、帰投直前に遭遇した国籍不明のタンカー2隻を攻撃すると宣言。航海長に前進を命じ、見張り員には空中見張りを厳重にするよう命じた。伊25は水上を18ノットで走りながらタンカーに追いすがる。

爆撃から一日が経った9月10日。この日は雲一つ無い快晴で、波も静かだった。現在18ノットの速力で波を蹴っている。針路は北北東。敵地の真っ只中にも関わらず平穏だった。秋の朝を吹き抜ける涼しい風を受けながら航行していると、右の見張り員が「マスト見えます、右90度」と叫んだ。2隻のタンカーに追いついたのだ。「魚雷戦用意」の号令が下り、艦内はお盆と正月が同時に来たかのような忙しさになった。伊25は潜航して前方に回り込み、2隻とも撃沈する作戦を立てた。ところが水上航行中、後方見張り員が「敵機！」と絶叫。爆撃されたとの連絡を受けたロッキードA-29ハドソン攻撃機3機が、タコマのマッコード飛行場から緊急発進してきたのだ。艦橋の見張り員が艦内に滑り込むと、ベントを開いて急速潜航を行った。迅速な行動により、敵機が急降下してくる前に海中へ没する事が出来た。緊急発進だったためハドソンは爆雷ではなく140kg爆弾を懸架しており、見えない目標に対して投下した。深度計が18mを差した所へ激しい振動が襲い掛かった。爆発音とともに、ぐらりと揺れる艦内。続けざまに爆発音が響き、やられたと思うくらい艦が大きく軋んで揺れた。艦内の深度30mに達したところで150kg爆弾3発を喰らい、電信室の電線引き込み口が損傷して浸水。数名が負傷した。士官室の電灯が消失し、電気長が懐中電灯を片手に電池室へと飛び込んでいく。伝声管からは何やら叫び声が聞こえてくるが、混乱しているのか聞き取れない。艦が左に傾きながら沈んでいくのが分かる。やられたか。ここで艦は沈没するのか？嫌な予感と最悪の結末が脳裏によぎる。発令所からは「潜舵上げ舵！」「メインタンクブロー！」「電信室浸水！」といった怒号が飛び交う。様々な努力が続けられているが、伊25が沈んでいくのを食い止められない。乗組員の不断の努力により浸水は食い止められ、沈下も停止。艦内にはホッとした空気が流れた。暗闇の中、夜光塗料で塗られた計器類の文字が白色に浮かび上がる。頭上では敵機が投弾しているのか、爆発音が響いている。潜水艦は上からの攻撃には強いが、それでも水圧で艦体が軋むたびに押し潰されそうな恐怖が胸を掴む。電灯も復活したが、一部計器類が故障してしまったので復旧を急ぐ。更に7発の投弾を受けたが、かろうじて深度80mにまで逃げ込み、敵機を振り切った。
だが、伊25はまだ虎口を脱し切れていなかった。午後には敵の駆逐艦3隻が現れ、スクリュー音が次第に大きくなってくる。既に発見されているらしい。海中に身を潜めている伊25は移動しようとするが、水上艦の速力には遠く及ばない。感三…感四……感五！直上から爆雷が投下され、聴音長は慌てて耳からレシーバーを離しつつ聴音機の電源を落とす。耳をつんざく爆発音が轟き、艦を揺さぶる。潜水艦にとっての恐怖の時間が始まった。だが、田上艦長と先任将校の福本大尉は平気な顔をしている。爆雷は遠くで炸裂しており、致命傷にはならない。敵駆逐艦は時折移動し、伊25の位置を探ってくる。今も艦尾から左舷方向へ1隻が移動している。大胆にも伊25は深度40mに浮上し、急速回頭を始める。こうする事でスクリュー音と水泡がソナーの反響音を消し、一時的だが撹乱できる。一旦は伊25を見失い、敵駆逐艦は頭上を素通りした。しかしすぐに探知が始まり、伊25の頭上へと向かってくる。頭上を通り抜けると同時に爆雷を投下、今度は伊25の下で爆雷が炸裂する。潜水艦は下からの攻撃に弱いため、今の攻撃は危険だ。艦が千切れると思うほどの衝撃に見舞われる。更に3隻目の敵駆逐艦が右舷より接近し、執拗に爆雷を投下。確固たる殺意が伊25を捕らえて離さない。一通り爆雷投射を終えると、敵艦は海が静かになるまで待機。獲物を仕留めたかどうか、くまなく海中を捜索する。そして伊25の生存を確認するや、熾烈な爆雷投射を再開。まさに袋叩きだ。伊25が出来る事は、右へ左へ身をよじって回避する事だけだ。永遠とも思える恐怖の時間。一体どれほどの時間が流れたのだろうか。爆雷200発ほどが投下されたところで、いよいよ敵艦も疲れてきたようだ。爆雷投射は正確さを欠き、散漫になりつつある。ようやく解放されると思いきや、福本大尉は「爆雷が無くなれば、交代の新手が来るだけさ」と長期戦を予期した。だが敵艦の疲れは、伊25に僅かながらの余裕をもたらした。続いて福本大尉の言葉通り、応援の敵駆逐艦が出現。元気良く爆雷投射を開始した。
爆雷攻撃開始から10時間は経っただろうか。発電機や電路等から発せられる熱により、艦内の温度は上昇の一途を辿っていた。乗組員は一様に滝のような汗を流し、各々職務についている。喉を潤す飲料水はとっくに無くなり、水を得るにはポンプで汲み上げる必要があるのだが凄まじい騒音を引き起こすため、使用したら一発で場所を特定されてしまうだろう。やむなくサイダーで喉を潤すが、暑さによって生ぬるくなり、喉に張り付くような甘さがサイダーを絶望的に不味くしていた。高温多湿の環境は、人間もネズミも瀕死にする。体内に寄生する回虫ですら、命の危険を感じて飛び出してくる程だ。潜航時間が30時間を超えた頃、当直を終えた者が通路に倒れ、痙攣を起こしている。すかさず軍医長がカンフル剤を打ち、田上艦長に酸素放出を進言。酸素放出も音が出るので無音航行中は避けたいところだが、人が倒れてしまっては艦も動かせない。田上艦長は許可を出し、艦内に酸素を放出。少しばかり呼吸が楽になるが、一時しのぎに過ぎない。潜舵手など重要な配置についている者には炭酸ガス吸収用の防毒マスクが配布されたが、空気清浄缶に苛性ソーダが入っていて化学反応でとんでもない高熱を放ってしまう事から誰もが外していた。艦内温度は最も涼しい司令塔ですら30度、電動機室は40度を超えている。まさに生き地獄と言える。兵員室では、錯乱した乗組員が叫び声を上げてハッチを開けようとする。どのみち水圧でハッチは開かないが、ラッタルから引きずり下ろされた。
潜航から丸二日が経過した。未だ敵艦のスクリュー音が聞こえているが、爆雷の音が遠ざかりつつある。さすがの田上艦長も、ここまで敵艦に追い回された事は無かった。乗組員の大半は炭酸ガスの中毒症状を訴え、今や伊25は半身不随の状態だ。これ以上は潜航できないと思ったのか、それとも敵艦が去ったと考えたのか田上艦長は日没後に浮上を命じた。夜の帳が下りた海上に、伊25が姿を現した。敵艦の姿は無く、秋の爽やかな風が艦体を撫でる。伊25は命がけの根比べに勝利したのだ。ディーゼルエンジンの轟音が響き、ゆっくりと動き出す。どれだけ渇望したか分からない新鮮な空気。吸い込むと、甘い味がした。幽鬼のようだった乗組員は見る見るうちに生気を取り戻していく。波除け鉄板と電線引き込み柱が吹き飛んでいたため、徹夜の応急修理が行われた。飛び出る溶接の炎はシートを使って覆い隠した。軍令部から伊25宛にサンフランシスコ・ラジオの内容を記した電文が届き、相応の効果があった事が伝えられた。「敵側サンフランシスコ・ラジオ放送。日本潜水艦より発したと思われる小型飛行機がオレゴン州の山林に焼夷弾投下、数人の死傷者と相当の被害を受く。わが爆撃機は直ちに浮上航行中の敵潜水艦を爆撃、相当の被害を与えた。」
　
伊25は応急修理を行いつつ北上するが、次第に敵の沿岸警備が強くなってきた。少しも油断はできない。潜望鏡を上げようものなら敵の駆逐艦と哨戒機がすっ飛んできて、すぐに追い回される。昼間は潜航、夜間は浮上して航行し、獲物を捜し求めた。荒れ模様の暗夜に、北進する敵中型商船を発見。雷撃を行ったが、外れてしまった。その後、伊25はコロンビア川の下流に入った。ところが潜航中に浅瀬へ乗り上げてしまう。絶体絶命の危機だったが、何とか離礁に成功。その後、「ハワイ・サンフランシスコ間の航路を遮断せよ」との命令を受ける。伊25は南下し始め、9月23日にサンフランシスコ沖で商船1隻を撃沈。そこへ再び「アメリカ本土を爆撃せよ」と命じられる。今度は敵軍の配備を警戒して夜間に爆撃を行う事にした。9月11日、敵商船を発見し、魚雷1本を命中させて撃沈。艦載機発進に適した天候を求めて西海岸沖を移動する伊25だが、なかなか適した日が来ない。敵は既に伊25が活動している事を知っている。しきりに哨戒機を飛ばし、撃沈のための駆逐艦も待機している。長居すれば確実に殺されるであろう。伊25の焦燥を嘲笑うかのように、飛行不適の日が続く。
　
9月29日夜、浮上してみると穏やかな海が広がっていた。ようやく天候に恵まれたのだ。すかさず伊25はブランコ岬沖へと急行。夜間とはいえ月光に照らされ、かなり明るい。次第に夜が更けていく。厳重な警戒の下、艦載機の組立作業が行われた。そして二度目のアメリカ本土空襲を敢行。夜陰に紛れて艦載機がオレゴン州に侵入、市街地は灯火管制が敷かれて真っ暗だった。伊25と陸地との距離が90kmも離れている事から、今回は深入りせずオーフォード近くに投弾。花火のような炎がパッと開いた。火災は伊25からも見えた。敵に見つからないようエンジンを切り、グライダーの要領で滑空。目印のブランコ岬を通過し、海上に出た。しかし伊25の姿が見当たらない。一旦ブランコ岬まで戻り、方角を修正して伊25を探してみるもやはり見つからない。捜索を続けているうちに燃料が残り少なくなってきた。いよいよ自爆か、と藤田兵曹長は覚悟した。その時、奇跡は起こった。うす雲の間から月が顔を出し、海を青色に照らし出した。よく見てみると、海に油膜のような尾が浮いている。それを目で追っていくと、その先に伊25らしき姿があった。すかさず信号用電灯で合図を送ると、伊25も返信してきた。こうして無事に母艦と合流を果たし、藤田機は生還。艦内にはまだ予備の爆弾が2発残されていたが、内地へ帰投する事にした。油の流出は損傷によるもので、伊25側は気付いていなかった。帰投の際に重要な役割を果たしたものの、これでは敵に発見されると藤田飛行兵曹長は報告。田上艦長は「それでやたらと飛行機や駆逐艦に追い回されていたのか」と苦笑し、機関長に命じて直ちに応急修理が行われた。この日以降は荒天に見舞われ、零式小型偵察機の発進が出来なかったため、通商破壊に専念する事にした。
- アメリカ本土への攻撃成功は日米双方に大きな衝撃を与えた。潜水艦に艦載機を載せる事は有用であると確信した山本五十六長官は、伊25を拡大発展させた伊400型と、その艦載機晴嵐の開発に乗り出した。中島飛行機創設者の中島知久平氏は伊25の爆撃成功を受け、アメリカを直接爆撃する超大型戦略爆撃機「Z機」の構想を得る。これが後の富嶽となる。アメリカ本土爆撃は9月17日付けの朝日新聞で発表され、臣民にも知れ渡った。一方、被害は微々たるものだが本土を攻撃されたアメリカ国民は不安と恐怖に駆られ、西海岸の大都市にシェルターや防空壕が大量に設置された。日本人及び日系人の協力は無かったにも関わらず、日本人嫌いなルーズベルトは日系人の強制収容を正当化して実行した。この爆撃を機に沿岸部の警備が急激に厳重となったため、2回目以降の爆撃は中止になった。

9月30日、敵商船に魚雷2本を命中させ撃沈。10月4日、オレゴン沖で機関が故障して漂流していた石油タンカーキャムデン(6653トン)を捕捉し、魚雷2本を発射。うち1本が右舷船首に直撃し、大破炎上させる。衝撃で船員のスチュワードが吹き飛ばされ、唯一の行方不明者となった。田上艦長は休息の名目で乗員を3名ずつ艦橋に上がらせ、敵船が沈み行く様子を見物させた。トドメを刺すべく2回目の攻撃を考えていた艦長だが、聴音手が北方より新たにスクリュー音を探知したと報告してきた。やむなく2回目の攻撃を断念し、新たな標的へと向かった。午前7時36分、遠方から爆雷の炸裂音が聞こえてきた。伊25を狙った対潜攻撃だったが、場所は的外れであった。午前9時以降は爆雷の投下数が増えた。
- 伊25が去った後もキャムデンはしばらく浮いており、遭難信号を発していた。やって来たダグボートによってコロンビア河口方面へ曳航されていった。しかし船がでかすぎて河口の先にあるポートランドの修理施設に入れず、曳航船を手配した上でピュージェット湾に回航。ここで二度目の曳航を受けてシアトルへ向かっていたが、道中の10月10日に突如炎上して放棄された。謎の出火は被雷の影響と言われている。
10月6日21時20分、シアトル沖で大型武装油槽船ラリー・ドヘニー(7038トン)を発見。ロングビーチからポートランドに向かっている途上だった。至近距離から雷撃戦を仕掛けるが、最初の雷撃は外れてしまう。伊25は闇夜に紛れて浮上し、ラリー・ドヘニーを追跡。だが暗闇の中では視認が難しく、一度見失ってしまった。ところが22時6分、前方に突然大きな船影が姿を現した。ラリー・ドヘニーだ。すかさず魚雷1本を発射し、18秒後に敵船の左舷に命中。14フィートに及ぶ大穴を開けた。ラリー・ドヘニーは6万6000バレルの重油を積載していて、貯蔵タンクへの引火で一気に大爆発を引き起こした。爆発の際に飛散した破片は伊25の甲板と司令塔に降り注いだ他、船員2名と米国海軍武装親衛隊員4名が死亡。大火災に見舞われた敵船は一切の通信を打てなくなり、乗組員40名は救命艇2隻に分乗して船から脱出。伊25は18ノットの速力で北方へと離脱した。翌7日早朝、海中からラリー・ドヘニーの最期を看取っていると生存者を救助しに現れた雑役艦アナカパを発見。また駆逐艦2隻も発見している。21時45分、敵駆逐艦に発見され、追跡と爆雷攻撃を受けるが被害なし。ラリー・ドヘニーの生存者は救助されたが、船体は沈没していった。10月8日、敵国のラジオ放送を傍受しているとラリー・ドヘニーの沈没が発表された。しかし悲壮感は無く、深夜まで暢気な音楽が流れていた事から藤田飛行兵曹長は「日本ほど緊張しておらぬと思う」と手記に残している。10月10日、内地への帰投命令を受ける。
　
10月11日、西海岸から600海里の所まで来た。ここまで離れれば敵艦に見つかる事は無いだろう。雲は低く、哨戒機に見つかる危険性も低かった。それでも田上艦長は「横須賀に帰港するまでは戦場と思え」と訓示し、乗組員の気持ちを引き締めた。今まで水上航行は夜間のみに限定していたが、昼間も浮上するようになり、甲板で喫煙する余裕まで出てきていた。そんな中、「左艦首、主力艦マスト2本！」と見張り員が叫んだ。まさかこんな所で敵戦艦と遭遇するとは。午前11時、「魚雷戦用意！」と田上艦長が叫び、急速潜航。深度18mまで沈んだところで潜望鏡を上げる。田上艦長は最初戦艦と認識したが、アメリカの潜水艦と改めた。敵の潜水艦は2隻で単縦陣を組みながらアメリカ方面に向かっているようだ。これまでの通商破壊で伊25は魚雷を使い果たしており、残っていたのは不調のため使用されなかった魚雷1本のみだった。連管長が丹精込めてずっと調整していたその1本を使う事にした。田上艦長の指示で先頭を走る敵潜に接近。波が高いため、距離500mまで忍び寄るのに一苦労する。攻撃位置についた伊25は深度15mに浮上し、最後の魚雷を発射。30秒も経たないうちに、魚雷は吸い込まれるように潜水艦へ命中。まるで眼前で爆発したかのような轟音が伊25に届いた。敵潜は艦首を45度上げ、艦尾より急速に沈没。艦内は歓声に包まれた。間もなく2回目の爆発が起こり、搭載魚雷に引火した事に起因する連鎖的な爆発が伊25を揺さぶる。衝撃で艦内のペンキが剥がれ落ち、電灯は消え、乗組員は思わず近くの物にしがみ付く。爆発の余波で、甲板上にあるトイレは破損した。海中からは金属がひしゃげる音が鳴り響く。敵の潜水艦が水圧で潰されていく音だ。潜水艦の断末魔を聞くや否や、艦内からは歓声が聞こえなくなった。敵とはいえ同じ潜水艦を仕留めた事で、艦内には何とも言えない普段と違った空気が流れた。煙が消え去った時には油膜しか残っていなかった。残った1隻は恐怖に駆られて45mm砲弾を海中に向けて5発発射したが、位置を掴めていなかったのか爆発音は遠い。伊25は息を潜めながら離脱した。敵潜を仕留めた日の夜は荒天となり、歴戦の乗組員ですら船酔いに苦しめられた。
翌日の10月12日、本土に向けて航行中の伊25は右方向に漂流物を発見。近づいてみると、転覆した水上機であった。既に機体は水没しかけており、1人の男がフロートにしがみ付いているのが見える。国籍マークは海の中にあり、識別する事は出来ない。とりあえず男を艦上に引き上げて救助するが、どうも英語以外の言語を喋っていて米兵のようではない。先任将校の福本大尉は藤田飛行兵曹長を呼び出し、転覆している水上機を指差して機種を尋ねた。藤田飛行兵曹長が言うには、どうやらソ連軍の複葉機のようだ。だがここは東太平洋。ソビエトの領土から遠く離れた場所に何故ソ連軍機がいるのか、皆目見当も付かなかった。盟友ドイツの敵であり、支那を支援しているとはいえソビエトと日本は中立条約を結んでいる。捕虜とする訳にはいかず、待遇は士官相当となった。軍医長から検査を受けた後、救助された男は士官室に通された。名前はアルセン・バカーチンと言い、ソビエト海軍の少尉であった。海軍兵学校を出て英語が使える田上艦長と、語学に堪能な軍医長が通訳を担った。事情聴取の結果、アルセン少尉はソ連海軍の巡洋艦から飛来した水上機のパイロットで、味方の潜水艦が襲われた事で哨戒していたのだが、墜落してしまったとの事。味方の潜水艦とは昨日伊25が撃沈した潜水艦であり、相手はソ連軍の機雷敷設用潜水艦L-16(1095トン)だと判明した。さすがの田上艦長も「まずい事になったぞ」と表情を変えずに言った。中立国のソ連潜水艦を撃沈したとあっては、重大な国際問題となる。困惑するのは当然だった。話を聞いていた福本大尉はアルセン大尉を海に放り投げて殺す事を提案したが、田上艦長は「一度救助した者を殺すのは如何なものか」と却下。代わりに潜水艦を撃沈した事は秘密とし、アルセン大尉には話さないよう口止めを求めた。それからと言うもの、アルセン大尉とは和やかな国際交流が行われた。日本の雑誌を読ませたり、出された日本食に困惑したりと平和な日々が続く。秘密は守り通せたらしく、アルセン大尉は触雷で沈んだと思っていたようだった。奇妙な人間関係を築くうちに、伊25は本土近海まで戻ってきていた。10月18日、内地が近づいてきたため艦名記入、軍艦旗掲揚、舷灯を設置した。
10月24日朝、霧の中を航行しながら房総半島を回り込み、浦賀水道へと入る。上空には日の丸を付けた哨戒機が飛び、周囲には日本の漁船が点在。手を振る船員に向けて、伊25乗員も手を振り返した。殊勲の零式小型偵察機は横須賀入港前に発進させ、追浜の水上機基地へ送る予定だった。このため格納庫を開いて偵察機を組み立てる必要があるのだが、軍機の塊である格納庫をアルセン大尉に見られる訳にはいかない。一時は閉じ込める事も検討されたが、田上艦長が見物を許可した事で艦橋前に立った。ところが浸水したようで格納庫の前扉が開かない。密閉用のゴム部分をハンマーで叩いてもビクともしない。整備員数人が扉を力ずくで開けようとしたところ、突如勢い良く扉が開いた。その弾みで1人の整備員が飛ばされ、海面へと転落しかける。ぎりぎりのところで手を掴んだのは、アルセン大尉であった。乗組員が次々に駆け寄ってアルセン大尉に助力し、整備員は助け出された。整備員は肋骨と腕を骨折したようで、軍医長の指示で後甲板にて横になった。掌整備長が格納庫を調査したところ揮発缶がひっくり返っていて、それが原因で格納庫内の圧力を高くなって扉が開かなくなっていた。福本大尉はアルセン大尉に礼を言い、タバコを与えた。
零式小型偵察機を格納庫から引き出し、異常が無いか調べる。海水はかぶっていたが、各部異常は無いようだ。先任の整備下士官が機体に乗り、エンジンを始動させる。パタパタと音が鳴った事でエンジン部も大丈夫だと分かった。発進準備を見ていたアルセン大尉は「オンボロのベリエフBe-2とは違う」と感嘆していた。今回は水上発進という事で、機体はデリックで吊り上げられ、海面に着水。藤田飛行兵曹長と奥田兵曹が乗り込み、準備を整える。最後にアルセン大尉の方へと振り返り、藤田飛行兵曹長は敬礼をする。実に不思議な縁であった。別れを終えると、零式小型偵察機は水上を滑走し始め、何事も無く飛翔。伊25の上を旋回して異常が無い事を伝え、手を振る乗組員に見送られながら追浜へと飛び去った。同日、横須賀に到着。アルセン大尉は大船の海軍警備隊植木分遣隊へ送られ、のちに捕虜収容所がある横浜に移送されたという。大任を成し遂げた藤田飛行兵曹長は伊25を退艦し、異動となった。
- ちなみにL-16はヨーロッパ戦線支援のため太平洋艦隊から北洋艦隊に転属し、ダッチハーバーを経由してパナマ運河へ向かっているところだった。当時、日本とソ連は中立条約を結んでおり、撃沈した事は国際問題に発展しかねない危うい行為だった。しかしL-16には通訳のアメリカ軍将校が乗艦しており、国際法違反の発覚を恐れた敵はL-16の喪失を伏せた。このためソビエトに喪失が伝わらず、抗議も賠償請求も無かった。乗組員55名と通訳は全員死亡している。
  　
12月1日、横須賀を出港。伊3潜の沈没以降、潜水艦によるガダルカナル島への輸送は取りやめられていたが、ガ島及びブナへの輸送は急務になりつつあった。第8方面軍は連合艦隊司令部に対し潜水艦による輸送任務再開を申し入れ、ソロモン諸島方面に展開中の潜水艦は乙潜水部隊に編入される事になった。12月8日、伊25も伊32潜とともに乙潜水部隊へ編入。ソロモン戦線に身を投じる事になる。トラックを経由したのち、12月12日にショートランドへ到着。現地で物資を積み込み、モグラ輸送に参加したが途中で中止。引き返し、12月14日にラバウルへ入港した。ゴム袋に食糧を入れて上甲板に固縛し、12月17日にラバウルを出港。3日後にブナへ入港し、物資8トンを揚陸したが、米魚雷艇2隻の接近を受けて揚陸中止。先の伊3潜は魚雷艇に殺られており、十分な脅威であった。このため一度は退却したが、隙を見て再度接近。12月21日に陸上の味方と合流し、大発を使って残りの物資12トンを揚陸。14名の傷病者を収容した。12月23日、ラバウルに帰投。12月25日に出港して再びブナ輸送に従事、27日にマンバレ河へ到着するが守備隊との連絡がつかず。更に米魚雷艇まで出現したため一旦退却した。翌28日、物資揚陸のため努力するが、やはり守備隊との連絡がつかず失敗。長居は危険なので仕方なく帰路につき、12月31日にラバウルへ帰投した。
　
1943年
1943年1月5日、輸送物資25トンを積載してラバウルを出港。連合軍の攻撃で壊滅したブナ地区へ物資を揚陸し、生き残っていた負傷兵70名を収容。帰路についた。1月8日夕方、潜望鏡深度で潜航していると海上に集団漂流者を認めた。2日前にカタリナ飛行艇によって沈められた日龍丸の陸軍兵のようだった。伊25は急速浮上し、第51師団117名を救出。水上航行でラバウルを目指した。1月9日14時6分、ラバウル北方110kmを浮上航行中に敵潜水艦グランパスによって捕捉される。グランパスは伊25を「新型の潜水艦」と報告し、追跡。14時26分、距離2800mの地点から3本の魚雷が扇状に伸びてきた。偶然司令塔で喫煙していた田上艦長が雷跡を発見。面舵一杯を下令し、右へ回頭。2本目までは回避したが1本が右舷中央部に直撃。あわや撃沈かと思われたが、強運を発揮して不発で済んだ。数時間後、魚雷が突き刺さったままラバウルに入港した。異説では全て外れたとしている。1月11日、ブナ輸送のためラバウルを出港。1月13日にマンバレ河口に到着し、物資を揚陸。37名の傷病兵を回収してトラック島へと向かった。1月17日にトラック入港。
日に日に悪化するソロモン戦線の戦況は、伊25に十分な休息を与えなかった。1月23日、トラック島を出港して一路南下。ガダルカナル島南東沖に進出する。ガ島方面は撤退作戦の準備真っ只中で、陸海軍が総力を挙げて連合軍を食い止めていた。1月29日、その一環であるレンネル島沖海戦が生起。小松中将の命令で伊25は伊11、伊16、伊17、伊20、伊26、伊32、伊176とともに海戦に参加。日没から40分後、伊25の約30マイル先で敵艦隊を攻撃する一式陸攻隊を視認。空襲により敵巡洋艦シカゴが大破し、ルイビルが曳航を始める。間もなく空襲の支援を命じられたが、突然発生したスコールにより接近を断念せざるを得なかった。翌30日、伊25を含む4隻の潜水艦は曳航中の敵重巡シカゴを討ち取るよう命じられる。伊25はシカゴが向かっていると思われる海域に先回りし、浮上。獲物を待ち伏せていたが、16時40分に一式陸攻隊が飛来するのを目撃。4本の航空魚雷をぶち込んでシカゴを仕留めた。その様子は伊25からも観察出来た。この日の午後、米駆逐艦に発見され計40発もの爆雷投射を受けたが被害なし。
1月31日、ガダルカナル島撤退作戦が開始。海軍の総力を挙げて、ガダルカナル島からの決死の撤収が始まった。伊25は、伊11、伊16、伊17、伊18、伊26、伊32とともレンネル島の北方に配備。このうち伊11、伊16、伊32と組んでガダルカナル島南東を遊弋して敵艦の出現に備えた。2月7日、小松中将は伊25と伊21にエスピリット・サント島のアメリカ軍を偵察するよう下令。こに伴って2月9日18時に伊25は甲潜水部隊から除かれ、散開線から外れて独自に行動を開始。2月16日の日没後、伊25は零式小型偵察機を発進。ちょうど月明期であり、海面は月光で明るく照らされていた。翌17日午前0時15分頃、艦載機が敵軍基地上空に到達し、航空偵察を実施。多数の艦艇が在泊しているとの情報を発信している。2月24日、トラックに帰投。船体の整備を受ける。
　
ガダルカナル島撤退作戦が終わったあと、ハワイ方面からソロモン諸島に向かう敵の増援部隊を遮断するため第一潜水戦隊から伊25、伊32、伊17、伊19が抽出されて乙潜水部隊を編成。3月25日、大本営は第三段作戦方針を指示し、予期される敵軍の本格的反攻に備えるべく防衛体勢を確立する事になった。潜水艦隊に対しては海上輸送路を破壊して敵の進攻意図を挫く指令が与えられた。準備が終わった潜水艦から逐次出撃し、伊25は3月29日にトラック島を出港。フィジー島方面に進出し、通商破壊作戦に従事。しかし太平洋は広くて中々戦果が振るわない。4月18日、伊19、伊25、伊32はフィジー及びサモア方面での通商破壊を命じられる。5月18日にフィジー島西方でようやく米大型タンカーH・M・ストーリー(1万763トン)を発見。敵船はニューカレドニアのヌメアからロサンゼルスに向けて石油を運んでいるところだった。魚雷と砲撃で敵タンカーを撃沈。生存者63名は救命艇に乗って脱出していった。ちなみにH・M・ストーリーは開戦劈頭の12月23日に伊19の雷撃で撃破された過去を持つ。任務を終え、6月2日にトラック島へ入港。乙潜水部隊は第一潜水部隊へと改名した。7月1日、第二潜水戦隊へ転属。3日後、連合艦隊は電令作第618号を発令。搭載機を持つ潜水艦にフィジー諸島及びエスピリット・サント島の偵察と通商破壊を命じた。7月15日に艦長が交代し、二代目艦長小比賀勝中佐が着任する。7月20日、宮崎武治大佐が乗艦して第2潜水隊の旗艦となる。
- 7月12日夕刻、クラ湾にて呂101潜が敵艦から対潜攻撃を受けた。敵側の資料には何故か伊25または呂107潜を撃沈したと記録され、長らく是正されなかったという。ちなみに呂101潜は窮地を脱して無事逃げ延びている。
7月25日にトラック出撃。8月15日、連合艦隊は第三段作戦を発令。ソロモン諸島ベララベラ島に連合軍が上陸し、敵の動きが活発化していた。このため現行任務に加えて要地偵察と敵艦隊監視・要撃を命じられ、伊25と伊26はエスピリット・サント方面の偵察を担当した。8月23日、エスピリット・サントを飛行偵察。翌24日、3隻の戦艦と小型船の停泊情報を打電し、スヴァへ向かう。だがこの電文が伊25が発した最後の電文となってしまう。
　
背負った葉っぱが落ちる時
1943年9月16日、第6艦隊は4日後にスヴァを航空偵察後、トラックに帰投するよう命じた。しかし伊25からの応答は無かった。戦没日は諸説あり、8月25日とも9月3日とも言われている。近海では呂35潜も撃沈されており、8月25日に死亡した潜水艦は呂35潜とする資料もある。沈没原因も不明瞭で、触雷説か敵駆逐艦パターソンの爆雷攻撃説が有力。小比賀艦長、福本水雷長、平野航海長以下士官10名、乗組員90名全員が戦死。参加した潜水艦9隻のうち5隻が未帰還になるという手痛い犠牲をこうむった。帝國海軍は10月24日、エスピリサント方面ニューヘブリデス諸島付近で亡失と認定した。12月1日、除籍。
　
余談だが、アメリカ本土を爆撃した藤田信雄中尉(最終階級)は無事戦争を生き残った。1962年5月、日米親善の形でオレゴン州ブルッキングス市長からアゼリア祭りに招待された。そこは、かつて焼夷弾を落とした場所の近くだった。ついに非難される時か来たと覚悟した藤田元中尉は、渡米する事を決意。身の安全は保障できないとして日本政府に止められたが、けじめを付けるために敢えて旧敵国に渡った。彼は400年前から伝わる家宝の日本刀を携えており、いざという時は切腹する決心さえしていた。しかしフタを開けてみると、「たった一人でアメリカを爆撃した勇敢な元兵士」だと盛大な歓迎を受けた。元中尉は謝意を表し、持参した日本刀をブルッキングス市に寄贈した。この日本刀は図書館に展示され、現在でも見る事が出来る。パーティには元アメリカ軍陸軍少尉のローガン・ケイも参加しており、藤田元中尉のもとへ歩み寄って「過去を忘れてお互いの祖国の繁栄と、引いては人類の幸福という大きな目的に向けて努力しましょう」と言って両者は握手を交わした。これをきっかけに同市との交流が始まり、平和と友好の非公式大使と名乗って何度もブルッキングス市を訪ねた。1985年には藤田元中尉の手によってブルッキングスの高校生3名を日本に招待。この時、高校生は時の大統領レーガンが書いた感謝状と星条旗を携えており、元中尉に贈られた。1992年、彼は爆弾が落ちた場所に植樹を行った。
　
彼は1997年に肺がんで亡くなったが、その死はニューヨークタイムズ紙に掲載された。亡くなる数日前にはブルッキングス市の名誉市民になり、遺骨はエミリー山の爆撃地点に散骨された。藤田元中尉がアゼリア祭に訪れた5月25日は「藤田信雄デー」として、現在でもブルッキングス市で祝われている。伊25の古今独歩の功績を称え、広島県呉市にある大和ミュージアムでは伊25の模型が展示されている。

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