妙高

• ワシントン海軍軍縮条約締結により巡洋艦の排水量が1万トン以下に制限されたため、列強各国は1万トン級の巡洋艦を建造し始めた。どの国も造り始めたばかりなので手本となる艦が存在せず、設計や要目には大変苦労したという。古鷹型や青葉型で得られたノウハウを活かし、帝國海軍は新たに妙高型を設計。生みの親は古鷹型同様平賀造船大佐である。が、融通の利かない平賀大佐を技術調査の名目で欧州に外遊させ、その間に藤本中佐が設計図を書き換えている。結果、居住区が減少。減った居住区を補うために船体の大型化を招き、排水量は1万1300トンに膨れ上がった。条約の制限である1万トンを超過してしまっている。しかし性能は破格で、米英の条約型巡洋艦と比較して強力な存在となっている。

• 1924年10月24日、横須賀工廠で起工。1927年4月16日に進水する。進水式の光景は写真撮影され、雑誌「海軍」の紙面に掲載された。同年8月16日、新潟県中頸城郡の名香山村長川久保助藏より妙高山の写真が寄贈された。そして1929年7月31日竣工。竣工後、呉鎮守府に編入され第二艦隊第四戦隊に配属。ネームシップではあるが、実は竣工は妹の那智の方が早い(前年11月26日竣工)。このため「那智級重巡洋艦」と呼ばれることもあった。余談ではあるが竣工順で言うと彼女は姉妹の中で3番目となる(那智、羽黒、妙高、足柄の順)。
  • 妙高は火力重視の巡洋艦で、今まで6門だった主砲の数を一気に10門まで増やしている。また航空兵装を建造時から装備しており、これが後続の重巡の標準装備となった。

• 1930年10月10日より行われた海軍特別大演習に参加。10月10日から18日にかけては各要港で演習を行い、10月18日からは攻防対抗演習を行った。艦隊は赤軍(攻撃側)と青軍(防御側)に分かれ、妙高は戦艦陸奥率いる青軍に所属した。両軍とも激しい戦いを見せつける中、妙高型4隻は素晴らしい働きを見せ赤軍の攻勢を挫いた。しかし空母と潜水戦隊との連携を密にして虎視眈々と本土を狙う赤軍に青軍は苦戦。妙高隊を土佐湾に移動させて、機を見て南下。何とか決戦を挑もうと模索した。20日早朝より次第に天候が悪化。21日に入ると荒天を無視できなくなり、潮岬沖で最後の決戦を行って演習は中止となった。

• 1932年1月28日、第一次上海事変勃発に伴って佐世保を出撃。上海沖に展開し、嘘八百をばら撒く新聞社の取り締まりを上海市に迫った。2月26日、上海派遣軍に対する補給路を調査し、冊子にまとめている。
  • 5月15日、妙高の乗員・三上卓中尉が反乱を画策し、首相官邸の襲撃を試みる。後の世に言う五・十五事件である。まず靖国神社に集合した第一隊の五人は、三上中尉に率いられて車で首相官邸に向かう。到着すると二手に分かれて行動。三上中尉ら三人は拳銃を携え、正面玄関から侵入。土足で踏みあがった。室内を探索しているうちに犬飼毅首相を発見。「話せば分かる」と冷静に諭す犬飼首相に銃弾を撃ち込み、殺害。同時にチャップリンの暗殺も考えられていたが、これは不成功に終わった。首謀者の三上中尉は捕らえられ、禁錮15年を言い渡された。
• 12月1日から予備艦となる。12月23日、第二艦隊司令部用に小型製氷機械付き冷蔵庫1個が搭載された。

• 1933年10月18日、上海に入港。多くの将兵や日本人学生が駆けつけ、妙高を歓迎した。妙高では来訪した参観者をまとめ、旗艦出雲に宛てている。1934年11月15日、佐世保鎮守府に転属。11月20日から12月15日まで佐世保工廠に入渠し、主砲を20cmから20.3cmに増大する工事を受ける。これを第一次近代化改修と言い、妙高に改良が加えられていくのだが一挙に全て完工するのではなく、逐次改装されていった。1935年2月8日から3月31日にかけて佐世保工廠で上部見張所昇降筒の撤去と高角砲の増設を行った。9月26日、第四艦隊の一員として三陸沖に向かっていたところ、大型台風に巻き込まれる。後の第四艦隊事件である。妙高は荒波に揉まれ、船体中部のリベットが緩んだ。このため10月15日から佐世保工廠に入渠し船体を補強。排水量が増加して吃水が深くなってしまった。ついでに探照灯や高角砲の改装工事も行っている。1936年3月14日、近海郵船株式会社所属の商船淡路丸が洋上に墜落した妙高艦載機から搭乗員を救出。後に海軍は感状を贈っている。5月25日から6月29日にかけて佐世保工廠で後部マストの改修等を行う。

• 1937年7月7日、第二次上海事変が発生。中国国民党軍の攻撃で、窮地に立たされた邦人や守備隊を援護するため妙高も出動。支那事変に参戦する。これに伴って妙高は7月28日、第三艦隊第九戦隊に転属する。8月20日、陸軍の兵員を乗せて多度津を出港。上海に揚陸させた。8月30日からは台湾を拠点に華南方面を遊弋、国民党軍の動向を監視し続ける。12月、公試を行っていた新造駆逐艦朝潮の艦本式タービンに亀裂が生じて破損する事故が発生。これに伴って妙高型にも機関の信頼性に疑問が投げかけられ、調査されている。結果、特に異常は無かった。1938年5月10日、第五艦隊を率いてアモイ上陸作戦に参加。二日後にアモイは占領され、以後終戦まで帝國海軍の支配下に置かれる事となる。

• 1939年2月10日、海南島の上陸を支援。以降、同島は終戦まで日本の支配下に置かれ、重要拠点として機能する。11月15日、第二遣支艦隊第十五戦隊に編入されるも10日後に予備艦。11月28日、佐世保に帰港。1940年3月19日、第二次近代化改修を受ける。先の船体強度補強で吃水が深くなったため、大型のバルジを装備して浮力を増す必要があった。それを踏まえて、砲戦能力の向上、近接防空能力の向上、魚雷兵装の強化拡充、航空兵装の改善、機関部の改正、無線兵装の改善、大型バルジの装着が行われた。妙高と足柄には戦隊旗艦を務められる能力が付与されたが、予算と工期の都合で羽黒と那智には付けられなかった。この改装により排水量は1万3000トンに増加。11月15日、特別役務艦に艦種を変更。工事は続けられた。

• 開戦の時が刻々と迫る1941年4月10日、姉妹艦とともに第二艦隊第五戦隊を編成し旗艦を務める。開戦直前の12月1日にパラオへ進出。第五戦隊はフィリピンを東側から攻める予定だった。
  　
  1941年
• 1941年12月8日、大東亜戦争が始まる。アメリカ軍の退路を塞ぎつつ、ジャワ島攻略の足がかりとするためレガスビー、ダバオ、ホロの3ヶ所が目標地に選定された。まず最初の攻略目標となったのはレガスビーだった。ここは海上交通の中心地で、マニラに通じる鉄道と飛行場をも有する要地であった。パラオを出撃した妙高は12月9日午前6時、攻略部隊を乗せた船団と合流。翌10日午前9時頃、妙高は後方の第二輸送船団と会合。その前方にいる第17戦隊と合流すべく、第二輸送船団の先を捜索したが、この日は霧に覆われていて発見には至らず。連日の荒天により船団の足並みが乱れていたのも一因であった。12月11日夕刻、レガスビーの東方約70浬に到着。天候は快晴、北東の風5m。視界は良好だったが、予想された敵艦隊の出現は無かった。夜に入り、掃海艇や駆逐隊の先導で輸送船団が泊地に進入。23時50分、カバライ岬沖に投錨し木村支隊は上陸準備を開始。翌12日午前2時45分、ビガ海岸に上陸成功。米比軍の抵抗は無く、後詰めも上陸成功。約600名の敵兵は既に退却していたようだ。14時30分にアメリカ軍の戦闘機1機が飛来し、艦艇と飛行場を銃撃していったのが唯一の抵抗であった。高木少将率いる第五戦隊と第十六駆逐隊はレガスビー東方にて全作戦の支援を実施。12月13日、依然敵の抵抗は無く、飛行場も占領できたという事で概ね目的を達成。敵艦隊の出現が全く無いと確信に至った高木少将は指揮下の艦艇を次々にパラオへと帰投させた。妙高も羽黒とともにレガスビー沖を離れ、12月16日にパラオへ到着した。そして同日中に海軍はレガスビーの占領を発表した。

• 次の攻略目標は連合軍の重要拠点であるダバオだった。事前に空襲を行った結果、極めて反撃が弱かった事から大した戦力は無いと判断。作戦決行日の繰り上げを行った。12月18日午前10時、那智や羽黒、神通、駆逐艦9隻等とともに出撃。偵察と対潜掃討を繰り返しながらダバオに接近する。12月20日午前1時45分、船団はチブンコ沖に到達。午前4時に右翼隊が上陸。左翼隊も午前5時15分に上陸成功した。当初、敵の抵抗は無かった。しかし右翼隊が米比軍の攻撃を受け、また海軍機の誤爆で約50名の死傷者を出した。思わぬ抵抗を受けた事により飛行場の占領に失敗。坂口支隊長は松本大隊を増援として呼び寄せ、午前10時に上陸した。健闘により17時までにダバオを占領。残余の米比軍は山中に逃走した。一方、妙高は搭載機を発進。羽黒機や空母機とともにダバオ湾南方とセレベス海の索敵を行った。翌21日、ダバオ占領。勝利したものの連合軍の空襲が激しく、戦闘機隊の進出が急務となった。12月22日午前、高木少将はホロ島攻略を下令。第二水雷戦隊と輸送船団がダバオから出撃していった。妙高は翌23日夕刻までダバオ南東海域を警備した後、夜に西進を開始。セレベス海に入った。12月24日午前6時30分、第五戦隊から艦載機3機を発進させ、セレベス島北部とスール諸島の間を索敵した。午前8時7分、ダバオを発進した味方の飛行艇が敵巡洋艦1隻を発見。この通報は旗艦妙高の下に届いた。位置情報によると、ちょうど南方約170浬だった。敵巡洋艦はモルッカ海峡かマカッサル海峡に逃走したと考え、高木少将は妙高を那智及び羽黒から分離。念のため、ホロ攻略に向かっている船団の援護に向かった。
• 12月25日正午、敵の姿は見えなかったため、羽黒はパラオへ向かわせて補給。那智には合流を命じた。16時、那智と妙高は合流。索敵を続けたが、18時に燃料が三割に減少したため支援を中止してダバオに向かった。ホロは難なく攻略され、ダバオともども蘭印東方進撃への足がかりが構築された。12月31日、占領したばかりのダバオ・マララグ湾に入港。以降、ダバオは蘭印部隊の拠点として機能する。
  　
  1942年
• 1942年1月4日、妙高はいきなり手荒い歓迎を受ける。ジャワ島から飛来した米陸軍のB-17が、マララグ停泊中の妙高を爆撃。高度からの爆撃だったが、まぐれ当たり。第二砲塔左舷に爆弾が命中し、約50名が死傷。旗艦任務の続行が困難となり、那智に旗艦の座を譲渡。応急修理をした後、佐世保を目指して退却した。1月9日、佐世保に辿り着き早速修理を受ける。2月20日、修理完了。2月26日よりマカッサルに進出し、ジャワ島攻略を支援し始める。2月27日黎明、第五戦隊(妙高欠)と第二水雷戦隊は第一護衛隊を援護しつつ西進していた。午前11時50分頃、第二空襲部隊より「敵巡洋艦5隻、駆逐艦6隻発見」との通報が入る。第五戦隊との距離は約120浬である。これを受けて第五戦隊は午後12時30分に150度へ変針。増速した。触接のため那智から艦載機が発進。より細かな情報が入ってくる。迎撃には第二水雷戦隊と羽黒、那智が向かった。夕刻、佐世保から来着したばかりで遅れていた妙高はカンゲアン島北方海域から戦場へ急行していた。

• 3月1日午前、第五戦隊(妙高、足柄欠)はバウエアン島西方約90浬にて敵巡洋艦1隻を発見。那智と羽黒は連日の戦闘で弾薬を消費していたので、妙高と足柄の合流を待つ事にした。敵の正体は、敗走する巡洋艦エクセターと護衛の駆逐艦2隻であった。午前11時5分、エクセター側も接近する妙高と足柄を確認。北西に針路を向け、出来る限りの速力で回避しようとしたが逃げられなかった。会敵不可避と見るや煙幕を張って逃走を図る。これに対し妙高と足柄は北方に回り込み、主力隊は南から攻め上がる挟撃の体勢を整える。午後12時26分、エクゼターへの砲撃が始まった。妙高は約200発の主砲弾を放ち、およそ10分の間に多数の命中弾を浴びせる。船体が炎上し、重傷を負うエクゼターは魚雷で反撃してきたが、あまりにも遠すぎて命中しなかった。更に機関室にも砲弾が命中。主砲や副砲が動かなくなり、速力も低下。23ノットあった速力は4ノットにまで減少し、追撃の砲弾を喰らったためゴートン艦長は総員退艦を命じる。その数分後に魚雷が突き刺さり、転覆して沈んだ。放たれた魚雷は合計27本、妙高は魚雷を8本発射しているが命中したのは、たったの1本だけだった。こうしてスラバヤ沖海戦は終結し、連合軍艦隊は壊滅したのだった。

• 3月6日、マカッサルを出撃。ナウルオーシャンの攻略支援を実施した。3月13日、マカッサルを出港し、第二七駆逐隊に護衛されて佐世保に入港。整備を受ける。4月9日からは柱島で訓練に従事していたが、4月18日にドゥーリットル空襲が発生。空襲を行った米機動部隊を追撃するため柱島から出撃、索敵するも発見できず。4月22日、横須賀に帰港。ポートモレスビー攻略のためトラック島に進出。4月28日、東邦丸より燃料補給を受ける。5月4日午前6時、東邦丸から燃料補給を受けるが30分後に中止。150トンのみの送油に留まった。ポートモレスビー攻略のため、珊瑚海に進出。そこで米艦隊の待ち伏せを受け、5月8日に珊瑚海海戦が生起する。戦闘の結果、祥鳳が撃沈され作戦中止。トラックへ後退し、5月17日に東邦丸から燃料補給を受けた。そして呉に帰投する。整備を受けた後、5月29日に柱島を出撃。ミッドウェー作戦に参加した。

• 6月5日のミッドウェー海戦では牽制部隊の一員として参戦するも、特に戦闘は生起せず主力空母の壊滅に伴って後退。6月9日午後、第五戦隊(那智欠)は第九駆逐隊や給油艦玄洋丸とともに本隊から分離。主力艦隊の後退を支援するため、牽制部隊となる。ウェーク島基地航空隊の前路哨戒を受けながら南下を行った。牽制部隊は偽電を繰り返し、主力艦隊の後退を支援。6月13日、連合艦隊から北方部隊への編入を命じられる。翌14日午前5時50分、ウェーク島航空隊は妙高の後方1500mに潜航中の敵潜水艦を発見し、これを攻撃。更に駆逐艦が爆雷を投じ、効果ありと報じた。辛くも窮地を脱した妙高であった。同日18時に別行動を取っていた玄洋丸及び駆逐艦峯風と合流。15日に北上を開始した。敵潜水艦が跳梁跋扈する危険な海域を突っ切る必要があったため、緊張の航海が続いた。だが幸いな事に襲撃は無かった。第二艦隊と合流し、アリューシャン作戦の支援を行った。7月12日、柱島に帰投する。

• 8月7日、米軍がガダルカナル島に襲来。橋頭堡を築き、建造中の飛行場を奪取した。この報を受け、柱島で訓練をしていた妙高は急遽出撃。8月11日、柱島を後にし前線基地となっているトラック諸島へ向けて急行。20日、トラックを出撃して南下。米機動部隊と会敵し、24日に第二次ソロモン海戦が生起する。戦闘後の9月5日、トラックに帰投する。ガダルカナル島近海で活動中の9月14日、B-17の爆撃を受け高角砲を損傷。10月15日、重巡麻耶とともに殴りこみをかけ、ヘンダーソン飛行場に対し主砲弾462発を発射し滑走路にダメージを与える。そして10月26日に生起した南太平洋海戦に参加。11月4日、トラックを出港し佐世保に帰投。整備を受ける。11月29日に横須賀へ回航され、増援の呉第六特別陸戦隊を乗せてラバウルに向かう。トラックを経由し、12月8日にラバウル到着。便乗の第六特別陸戦隊を揚陸した。
  　
  1943年
• 1943年1月31日、ガダルカナル島撤退作戦を支援。支援を終えた後、2月8日にトラックへ帰投。5月13日、横須賀まで戻った。その頃、アッツ島に米軍が襲来。増援を送り込むため妙高と羽黒は護衛艦艇とともに出撃。アッツ島に兵力を揚陸する事に成功し、幌筵へ帰投した。7月1日、佐世保工廠でレーダーを増設。7月30日、呉を出港。戦艦武蔵等とともに陸軍部隊を乗せ、8月5日にトラック到着。そのままラバウルへ向かい、兵員を揚陸させた。

• 9月17日、神出鬼没な米機動部隊に艦隊決戦を挑むべくZ作戦を発令。トラックに停泊中の主力艦艇を出撃させる事になり、妙高もこれに参加した。敵を求めて東に向かうも、米軍の主力艦はハワイに停泊しているとの情報を受け、空振り。貴重な重油だけを消費して終わった。9月25日、トラックに帰投。その後、駆逐艦涼風、長波とともにトラックを出港。輸送船団をラバウルまで護衛した。ラバウルに入港していた11月1日、米軍がブーゲンビル島タロキナ地区に上陸したとの報告が入り、14時30分に出撃。第五戦隊と第十戦隊は迎撃任務と、逆上陸をする兵員を乗せた船団の護衛に就いた。小雨が降る視界の悪い夜だった。翌2日午前0時45分、ブーゲンビル島沖海戦が生起。敵発見により船団は既に引き返していたため、戦闘艦同士の海戦となった。この海戦でも米軍のレーダー射撃が猛威を振るい、決死の回避運動をしていた妙高だったが、同じく回避中の駆逐艦初風と衝突事故を起こす。大型艦の妙高は軽傷で済んだが、初風の方は艦首を切断し航行不能。そこへ米艦隊の集中攻撃を受けて撃沈された。妙高は敵の発砲尖光を確認すると、すかさず距離を測った。そして照明弾を打ち上げる。
• 午前1時15分、妙高は反撃に出た。羽黒とともに徹甲弾を発射し、その3分後には6本の魚雷を発射。羽黒の分も合わせ、14本が敵艦隊を貫いた。やがて4本の水柱が立つ。敵巡洋艦1隻が轟沈、1隻に魚雷と砲弾数発が命中。さらに後方の敵艦に被雷による大火災を認め、艦内では一同が快哉を上げた。敵のレーダーは凄まじかったが、盲弾(不発弾)が多かったため妙高は少ない損傷で生き延びた。敵艦隊は煙幕を張り、徐々に遠ざかっていった。諸事情を考慮し、午前1時40分に西へ針路を取る。海戦後、何とかラバウルに戻った。ところが11月5日、そのラバウルが米機動部隊の艦載機と、陸上からの大型爆撃機によって大空襲を受けた。幸いにして妙高に艦上機の襲来は無く、基地施設や油槽船への攻撃を終えたB-26が、ついでと言わんばかりに超低空からの機銃掃射を仕掛けてきた程度だった。普段から月月火水木金金の猛訓練を受けていた乗員は、いたって冷静に対空戦闘に従事。激しい雨のように銃弾を浴びせてくる敵機に怯む事無く黙々と発射し、そして給弾した。
• 損傷を修理するため11月17日に佐世保へ入港し、修理を受ける。同時に高角砲を8基増やした。まるでハリネズミのように、空間という空間が機銃で埋め尽くされた。それに伴って高角砲要員は100名を超す大所帯となった。それでも人手が足りず、対空戦闘時は水雷科分隊員から応援が来ていた。出渠後、羽黒や利根とともに徳島を出発。トラックへ舳先を向けた。
  　
  1944年
• 1944年1月2日、トラックに到着。戌二号作戦に参加し、陸軍部隊を積載。二日後、駆逐艦皐月及び文月の対潜警戒を受けながらカビエンに部隊を揚陸した。米軍の反攻が激しくなり、マーシャル諸島やトラックが攻撃を受けそうになったため、古賀連合艦隊司令はトラック在泊の主力艦艇をパラオに退避させる。2月10日、戦艦武蔵等とともにトラックを出発。その道中で米潜水艦パーミットに捕捉され、魚雷4本を放たれるも命中しなかった。2月13日、パラオに入港する。3月9日、パラオにも米機動部隊の魔手が迫ったため、脱出。バリクパパンへ滑り込む。そこからタラカン、パラオ、ダバオを経由してリンガ泊地に入る。
  4月1日、特設運送船北上丸より補給を受ける。

• 5月27日、米軍がビアク島に上陸し、守備隊と交戦。ビアク島に増援を送る渾作戦への参加が決まり、5月31日にダバオに回航。その前日にはタウイタウイ沖で米潜水艦ブルーフィッシュとカブリラに捕捉されていたが、幸運にも雷撃は免れた。6月2日、増援部隊を乗せた駆逐隊を護衛してダバオを出港する。一路、ビアク島へ向かうが、敵機動部隊出現の誤報が出され作戦中止。6月5日に出発点のダバオへ戻った。6月7日、第二次渾作戦に参加。再びビアク島を目指して進撃する。11日、ハルマヘラ島バチヤンに入港。ところが米軍がサイパン島に襲来し、渾作戦そのものが中止。連合艦隊は原隊への復帰を命じ、あ号作戦準備を下令したため妙高は反転した。

• 6月19日、マリアナ沖海戦に参加。本隊の護衛についたが、大型空母の翔鶴や大鳳が撃沈されたため、小沢司令は妙高に移乗し将旗を掲げた。翌20日夕刻、米機動部隊の反撃が始まった。数の暴力で攻めてくる敵機に対し、自慢の対空砲火を放った。対空戦闘中は機銃の音で全く声が通じず、疎通を難しくした。高射指揮官は手に持つ指揮棒で要員を小突き、敵を指し示す。6月24日、柱島に帰還。五日後、陸軍部隊を乗せて呉を出港。7月12日にシンガポールへ到達し、部隊を揚陸。その後、リンガ泊地に回航され、訓練に従事する。10月1日、特設運送船北上丸より補給を受ける。

• 10月17日、米軍がレイテ湾に橋頭堡を築く。これを受けて大本営は生き残っていた艦艇をかき集めて捷一号作戦を発令。翌18日、妙高はリンガ泊地を出港。対潜警戒を行いながらリオー水道を通過し、20日にブルネイへ入港。燃料補給を受ける。妙高は主力艦隊である栗田艦隊に編入され、10月22日に出撃。レイテ沖海戦に参加する。24日午前10時から米艦載機による空襲が始まり、シブヤン海海戦が生起する。午前10時29分、第38任務部隊所属の空母イントレピッド艦載機の攻撃を受け、魚雷1本を右舷後部に喰らう。速力が18ノットに低下し、23名の戦死者を出す。艦の傾斜も15度に達した。作戦の続行が困難になり、第五戦隊の司令部要員を駆逐艦秋霜経由で羽黒に継承。浸水によって左舷に傾斜していく。レイテへの突入を諦め、艦隊から分離。単独でコロン島を目指す。道中で駆逐艦長波と合流し、無事にコロンへ入港した。応急修理の後、翌25日に出港。ブルネイへ向けて退却する。途中、戦艦武蔵の生存者を乗せた清霜、浜風が横を追い抜いていく。「沈まなくて良かった」「沈まなかった事がせめてもの慰めだ」と武蔵生存者は呟いた。11月3日にシンガポールへ入港、臨時修理を受ける。片舷だけで20ノットを出せるようになり、本格的な修理のため佐世保へ帰港する事になる。12月12日、駆逐艦潮と重巡羽黒に護衛されて出港。

• しかし12月13日、サンジャックの南西で米潜水艦バーゴールの雷撃を受ける。魚雷は艦尾に命中し、乗員12名が死亡。左舷外軸や内軸を破損して航行不能となる。だが妙高も反撃し、レーダー射撃で主砲弾を1発ぶち込んで撃破している。大東亜戦争中、大型艦艇が潜水艦を撃破した唯一の例だが不発だったため、撃沈には至らなかった。不発弾で命だけは助かったバーゴールであるが、主砲弾が船体を貫通し潜行不能。妙高攻撃どころではなくなってしまう。その後、バーゴール艦長は上層部に助けを求める。付近を哨戒していた米潜水艦アングラーが救援に駆けつけ、曳航される事になった。妙高の活躍は副次効果を生んだ。カムラン湾に向かっていた伊勢ら第四航空戦隊は、ひそかに米潜水艦バッショーの追跡を受けていた。バッショーは敵戦艦の存在を司令部に報告したが、バーゴール撃破に伴って付近の潜水艦は全て救助に向かっていたため、誰も攻撃できなかった。知らないところで伊勢や日向の窮地を救っていた事になる。

• 敵の脅威は去ったが、火災と浸水は妙高を蝕んだ。舵を失っているため、漂流を防ぐべく投錨。三日間はダメージコントロールに奔走した。建部丸が救援に現れ、サンジャックへ向けて曳航を始める。12月16日、駆逐艦2隻が護衛に駆けつけ、行き先をシンガポールへ変更。が、17日に荒天となり艦尾が破断し脱落。12月23日、曳航艦が羽黒に変更。25日午前2時30分、ようやくシンガポールへ辿り着く。ところが妙高の損傷は、工作部の修理できる範疇を超えており遂に海上戦闘への復帰を断念。以降、防空艦として高雄とともに係留される。同時に高角砲を取り外し陸揚げしている。シンガポールには高雄、妙高、足柄、羽黒の重巡4隻と若干の旧式駆逐艦、そして水上機母艦が停泊。いずれも本土への帰還の望みを断たれた孤立無援の艦艇であった。船体にセレター迷彩と呼ばれる塗装を施し、係留され続けた。乗組員は退艦し、陸戦隊となって日夜陣地構築に精を出した。戦線が後退していく中、シンガポールは比較的平穏であった。時折B-29が飛来するも、燃料の心配が無い味方航空隊が迎撃を担当。妙高の12.7cm高角砲では、高高度を飛ぶ敵機に弾が届かない。まるで出番が無かった。
  　
  1945年
• 1945年1月15日、高雄の小野田大佐が妙高艦長を兼任。1月20日、第一南遣艦隊に転属。2月1日、ジョホール水道でB-29爆撃機113機による空襲が行われ、艦尾に至近弾を受ける。空襲後、キングジョージ六世乾ドックに入渠。入渠中にもB-29の編隊は襲い掛かってきた。乗組員の大半は陸地に移動していたが、高角砲戦闘員と電機関連の乗員を最低限残していた。計算上砲撃は当たらなくとも、執念はぶつけてやるという妙高乗員の覚悟の表れだった。味方機が食い下がるが、B-29は悠々と飛んでいた。そこへ妙高から対空砲火が放たれた。しかし命中せず、敵機の周囲に白い爆発の花を咲かせただけだった。5月初旬、アンダマン諸島にて孤立する陸軍部隊の救援のため、羽黒が出撃する事になった。その羽黒に残っていた弾薬を供給。死出の旅路を見送った。

• 7月31日、シンガポールの奪還を虎視眈々と狙うイギリス軍は停泊中の妙高と高雄を脅威としていた。この2隻が保有する20.3cm砲はマレー地区全体を射程圏内に収めるため奪還作戦の際に障害になると判断。無力化するべくストラグル作戦を発令する。英潜水艇XE-1とXE-3が11時間かけてシンガポールに潜入、吸着式時限機雷を艦底に設置しようとしたが、高雄の砲塔が旋回したため妙高を狙っていたXE-1は作戦を中止して撤退した。高雄のおかげで難を逃れた妙高であった。8月15日の敗戦時、セレター軍港で残存。9月21日、進駐してきたイギリス軍によって接収される。戦後は居住や修理、通信等を請け負う母艦として運用。
  妙高の居住性があまりにも低すぎる事から、イギリス軍は処分を決定。
  　
• 1946年7月2日、シンガポールを出港。7月8日、マレーシア西部のマラッカ水道で海没処分。8月10日、除籍。
  　
• 余談だが、妙高の名は海上自衛隊の護衛艦に受け継がれている。映画「バトルシップ」では宇宙人とも戦っている(作中の艦名はみょうこうだが、実際に出演したのはあたご。)2019年7月26日に公開された映画「アルキメデスの大戦」では名前だけ登場している。

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