朝潮

• ロンドン海軍軍縮条約を見越した1934年度第二次補充計画にて、甲型一等駆逐艦第75号駆逐艦として建造が決定。帝國海軍は、特型駆逐艦に代わる次世代の駆逐艦の建造に着手した。いまいち性能が振るわなかった白露型駆逐艦の10隻を全く新しい新型に変更し、その第一弾が朝潮型である。特型から魚雷発射管一門が減らされたが、代わりに次発装填装置を搭載。主砲は五門から六門に増やされ、火力を増強。初春型の失敗を活かし、復元性能を損なわずに強化している。むしろ小型艦橋を採用し、喫水を深くする事で復元性能をも向上させた。乾舷の低下は凌波性の悪化を招いたが、艦首乾舷を十分に取る事で対処している。朝潮型の特徴として、新機軸の高温高圧缶を採用。従来の艦本式艦と比べ、約10％の低燃費を実現。航続距離の長大化に一役買い、後発の駆逐艦の標準装備となった。また艦内電力の交流化を行い、軽量化。これも後発の駆逐艦に採用されていった。速力も計画では35ノット未満とされていたが、公試では36ノットを発揮。次世代の駆逐艦に相応しい優等生っぷりを見せた。
  　
• 1935年9月6日に駆逐艦朝潮と命名され、9月7日に佐世保工廠で起工。しかし起工から一ヶ月も経たないうちに第四艦隊事件が発生。船体強度の問題が露わになり、朝潮は再設計を強いられた。このため工事の再開がかなり遅れている。1936年12月16日に進水、1937年8月31日に竣工した。艦名はそのまま「朝の潮」の意味で、1922年除籍された先代に続き2代目となる。朝潮型は同型10隻で、4番艦までは「潮」の字が名前に入るという共通点がある。余談だが「潮」と書いて「うしお」と読む駆逐艦も存在する(吹雪型駆逐艦20番艦など、いずれも未実装)。これも「朝のしお」を意味する。竣工後、佐世保鎮守府に編入された。10月31日、満潮や大潮とともに第25駆逐隊を編成する。
  • 要目は排水量2000トン、全長118m、全幅10.386m、乗員229名、出力5万馬力。
• 朝潮が誕生した頃には支那事変が勃発しており、さっそく陸軍の支援任務に回された。1937年11月15日に佐世保を出港し、翌日上海に到着。陸軍向けの物資を揚陸する。11月30日に佐世保へ帰投。12月20日、新たに就役した荒潮を第25駆逐隊に編入し、4隻体制となる。ところが12月29日、中支方面で活動中に中圧タービン翼4本が折損する事故が発生。同じ機関を使っている兄弟も調べてみたところ、1938年1月2日までの調査で同様の折損が認められた。これを受けて海軍は臨時機関調査委員会を設置し、山本五十六中将(当時)が中心となって原因の究明にあたった。その間、朝潮型は全て予備艦となり、外へ出る事すら禁じられた。11月2日、艦本式タービン翼車の設計ミスによる振動が原因との結論に達し、米内光政海軍大臣に報告された。ちなみに朝潮型以外の艦も調査を受けたが、どうやら朝潮型限定の欠陥だったようだ。
• 1938年12月15日、第三予備艦となり佐世保工廠でタービン改正工事を受ける。1939年11月1日、大潮、満潮、荒潮と共に第8駆逐隊を編成。第2水雷戦隊(旗艦神通)に所属し、支那方面で活動。大東亜戦争直前となる1941年7月30日には一時的に二水戦の旗艦をつとめている。11月26日、第8駆逐隊は寺島水道を出発し、馬公に入港。そして12月4日に出港、一路南下する。

• 1941年12月8日、大東亜戦争が勃発。第8駆逐隊はマレー作戦に参加する。続いてリンガエン湾上陸作戦を実施。年が変わって1942年1月5日、香港からの輸送船団を護衛しダバオへ入港。アンボン、マカッサルの攻略支援を実施する。ミッドウェー海戦では荒潮とともに三隈の生存者を救助。その後三隈の雷撃処分のために再度沈没箇所に向かうも発見できなかった。その後はガダルカナル島攻防戦に投入。ソロモン海戦や駆逐艦輸送(鼠輸送)に従事した。
  　
• 最期は1943年3月3日、ビスマルク海海戦 (現地の地名からとって「ダンピール海峡の悲劇」とも呼ばれている)。海軍運送艦「野島」をはじめとする輸送船8隻の護衛任務中、連合軍機の空襲を受ける。朝潮は一度は救助活動を中止し退避したものの、『我野島艦長トノ約束アリ』と発信、単身で野島の救助に向かう。まず妹の荒潮、次に野島の生存者を救助し再び退避しようとするも、再度の空襲により沈没した。野島艦長を含む生存者は生き残った駆逐艦3隻(敷波、朝雲、雪風)に救助された。

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