谷風

• 大日本帝國海軍が建造した陽炎型駆逐艦14番艦。谷風は、谷底から山頂に向かって吹く風を意味する。ワシントン及びロンドン海軍条約失効に伴い、無条約時代に突入。帝國海軍は次世代の艦隊型駆逐艦の設計に着手。前級の朝潮型で表面化した速力・航続距離不足を改善し、陽炎型としてバージョンアップさせた。本来の予定では速力36ノットを目指していたが、それだと巡洋艦並みの巨体になってしまうため35ノットに抑えた。新型の高圧缶を搭載したが、生産性が悪かった。
  • 要目は排水量2000トン、全長118.5m、全幅10.8m、速力35ノット、出力5万2000馬力。艦隊型駆逐艦として完成された陽炎型駆逐艦の一隻。
    　
• 1939年10月18日、藤永田造船所で起工。1940年8月30日に駆逐艦谷風と命名され、11月1日に進水。1941年4月25日に竣工を果たした。竣工後、呉鎮守府に編入され、5月1日に兄弟艦浜風、磯風、浦風とで第17駆逐隊を編成した。1941年11月18日、佐伯湾を出港し、択捉島単冠湾へと向かう。新鋭の第17駆逐隊は期待がかけられており、あの真珠湾攻撃に同行する事になった。11月26日、単冠湾を出港。機動部隊を護衛して大海原に身を投じた。
  　
• 1941年12月8日、真珠湾攻撃に参加。開戦の狼煙を上げ、米艦隊に打撃を与える事に成功する。敵の索敵網を突破し、本土へ向けて帰投していたが、一連の攻略作戦でウェーキ島のみが失敗に終わっていた。そこで谷風ら第一七駆逐隊と第二航空戦隊は急遽増援に選ばれ、艦隊から分派。12月21日より第二次ウェーキ島攻略作戦に参加した。激闘の末、23日にウェーキ島守備隊を降伏させて占領。12月25日に柱島へ入港した。
  　
• 1942年1月8日、R作戦に従事する赤城等を護衛して呉を出港。トラック諸島で準備を整えた後、1月20日よりラバウルやカビエンの攻略支援を行う。この作戦によりビスマルク諸島は帝國陸海軍の支配下に入り、奪取した南方の資源地帯に対する城門として機能するようになる。2月1日、マーシャル諸島が米機動部隊に空襲される。谷風は赤城を護衛して追跡に向かったが、作戦中止。2月8日にパラオへ帰投する。その後も第17駆逐隊は機動部隊の護衛に徹し、2月19日のポートダーウィン空襲に参加。作戦日、スターリング湾に入港した。2月25日、東南アジアから脱出する敵艦船を撃滅するため機動部隊とともに出撃。3月5日、ジャワ島南岸の良港チラチャップの空襲支援を行い、港内の敵船を殲滅した。機動部隊から分派された蒼龍、飛龍、榛名、金剛のグループに加わり、3月7日にクリスマス島を砲撃。連戦をこなし、3月11日にスターリング湾へ帰投。3月24日、訓練中に乗員1名が負傷。旗艦赤城で治療を要望したが、赤痢患者が続出している事を理由に拒否。瑞鶴で治療が行われた。
• 3月27日、機動部隊の護衛としてスターリング湾を出港。インド洋機動作戦に参加し、4月5日から生起したセイロン沖海戦に参戦する。この海戦でイギリス東洋艦隊は半壊し、東南アジアの主導権は日本の手中に収まった。4月10日、軽巡長良に率いられ第10戦隊を新制。4月27日にようやく呉へ入港し、整備。激戦の疲れを癒した。

• 5月27日、柱島を出港。機動部隊を護衛してミッドウェー作戦に参加する。6月5日、ミッドウェー海戦が生起。敵空母の艦載機や基地航空隊の攻撃から懸命に空母を守って戦ったが、無限の物量に押し切られて3隻の空母が大破炎上という惨状に陥る。難を逃れた最後の空母飛龍も大破し、雷撃処分。艦隊が退却の動きを見せる中、翌6日に鳳翔の九六式艦攻が漂流する飛龍の船体を発見。しかも多くの生存者が手を振っていた。雷撃処分が上手くいってなかったらしい。これを受けて南雲司令は、谷風に雷撃処分の完遂と乗員の救助を命じる。艦隊から分離し、単艦で現場海域に向かう谷風に、敵軍機の魔手が迫る。谷風同様、飛龍を探していた米軍機の編隊は谷風を発見すると攻撃を開始。その数、58機。制空権と制海権を奪われた海域で、ただ一隻の谷風。命運尽きたかに思われたが……。艦長の勝見中佐が神業を魅せた。午後1時36分頃、第一波のドーントレス4機が襲来。次に午後3時7分頃、26機が襲来し、午後3時45分頃に6機が襲来。集中攻撃を受ける。しかし投下された137発の爆弾と魚雷を全て回避、対空砲火で1機のドーントレスを撃墜した。続いてB-17爆撃機12機の襲撃を受けるが、切り抜ける。余談だが、B-17側は谷風を巡洋艦と誤認していたようである。至近弾により砲塔後部で爆発が生じ、乗員6名が死亡したが、谷風は生き残った。ついに米軍機は撤退、谷風は飛龍の下へ急いだ。この戦果により、谷風は「一人ミッドウェーで勝った」と呼ばれるようになる。台詞でミッドウェーを勝利したと勘違いしているのはこのため。実は付近に日本艦隊がいたが、谷風が1隻で航空攻撃を吸収した事により被害を抑えたという副次効果まで生み出している。しかし、到着が遅れたため飛龍は完全に沈没。生存者の姿もなかった。
• 谷風には新たな問題が発生していた。激しい回避運動を行ったため、谷風の搭載燃料が減少。このままでは日本に帰る事が出来ない。既に本隊は退却を始めていたが、谷風のために給油艦を置いてくれていた。問題は、給油艦との会合ポイントに辿り着けるかどうか。空襲の危険性もまだ残っている。何としても早く給油艦を見つけなければならなかった。そこで艦長は「給油艦を見つけた者には褒章を出す！」と命令し、見張り員が総出で水平線を監視した。やがて給油艦を発見。発見したのは他でもない、艦長自身だった。その後、無事に補給を行い燃料問題は解決。谷風は呉に帰投。

• 8月7日、ガダルカナル島に米軍が襲来し反攻が始まる。危急を受け、翌8日に呉を出港。サイパンを経由して、8月14日にトラック諸島へ入港する。そして鼠輸送に参加。8月18日、一木支隊の増援152名を乗せ、ガダルカナル島に急行。部隊を揚陸する。28日にはミルン湾に部隊を揚陸している。その後もショートランドを拠点に船団を護衛。ガダルカナル島へ送り届けた。
• 10月26日、南太平洋海戦が生起。谷風は前衛部隊に所属した。海戦後、損傷した重巡筑摩を護衛し、三日後にトラックへ入港した。11月2日、空母瑞鳳等を護衛してトラックを出港し、呉に帰投。整備を受ける。22日、重巡熊野を護衛しつつ呉を出港。激戦が続く最前線に舞い戻った。12月4日午前5時30分、ラバウルにて運送船鶴見から燃料補給を受ける。7日、ガダルカナル島への鼠輸送を行っていたが米魚雷艇の妨害に遭い作戦中止。12月29日午前6時、鶴見から補給を受けた。
  　
• 1943年1月14日、撤退命令を手交する第八方面軍参謀を乗せてガダルカナル島に突入。翌15日、ニュージョージア島北東でヘンダーソン飛行場から発進してきたドーントレス9機の襲撃に遭い、交戦。その際に至近弾で勝見艦長が戦死してしまっている。ラバウルで整備を行った後、2月1日のガダルカナル撤退作戦に参加。2月7日には囮として上陸していたラッセル島の部隊を収容している。撤退作戦は成功し、予想以上の早さと多くの将兵を収容する事が出来た。作戦後、ラバウルへ帰投。
• 4月6日、パラオを出港。輸送船団を護衛し、ウエワクとハンサ湾に送り届けた。20日にパラオに帰投した。4月29日、トラックに居た給糧艦伊良湖とともに出港、硫黄島まで護送している。5月18日、横須賀に帰還し整備を受ける。6月16日、金剛、榛名、鈴谷、龍鳳、清波、五十鈴、浜風、時雨、雪風、新月等とともに出港。再びソロモン方面に向かった。7月5日、コロンバンガラ島への輸送作戦中、敵軽巡ホノルルからなる米艦隊と会敵。クラ湾夜戦が生起する。23時56分、僚艦新月に攻撃が集中する中、谷風は涼風とともに魚雷を発射。谷風からは8本が、涼風からは11本が放たれ、翌6日午前0時1分、魚雷4本が敵軽巡ヘレナに直撃。見事、撃沈せしめた。だが攻撃を受け続けていた新月が行方不明になり(後に沈没と判定)、退避する途上で谷風も艦首に1発の砲弾を喰らう。幸い不発弾だった。
  • 戦闘詳報で、谷風は米軍のレーダーを侮るなと記している。レーダーの脅威が日に日に増している事を如実に示していた。
• その後もコロンバンガラ島輸送を続けた。そして7月19日、空母隼鷹を護衛してトラックを出港。24日に呉へ入港した。
• 8月15日、スマトラ島北部のサバンに輸送を行う隼鷹を護衛して佐伯を出港。南進していたが、届け先を急遽シンガポールへ変更。8月28日から9月4日まで寄港した。9月19日、第五二師団甲支隊兵員を乗せた隼鷹を護衛して岩国を出港。トラックへ進出する。兵員を移乗しボナペ島まで運んだ。10月17日、米機動部隊出現の報を受け、トラック在泊の艦隊をエニウェトク方面まで護衛する。11月6日、呉に帰港。第二主砲を対空砲に換装した。12月29日、カビエンに増援を送る重巡鈴谷と熊野を護衛してトラックを出港。12月31日、カビエンに到着。
  　
• 1944年1月1日、被雷した清澄丸の救助に急行。曳航を行う軽巡那珂を護衛してトラックまで撤退した。トラック諸島に空襲の予兆があったため、主力艦隊をパラオまで後退する事になった。谷風はその護衛戦力に選ばれ、2月1日にトラックを出港した。三日後、パラオ着。3月6日午前10時、文通艦の役割を帯びてシンガポールを出港。リンガに向かい、16時に到着。郵便物を預かり、翌7日午前9時にシンガポールへ送り届けた。3月11日、パラオを出港し船団護衛に従事。5月19日、主力艦艇が集うタウイタウイ泊地に入港。あ号作戦に備えて訓練を行っていたが、沖合いには米潜水艦が手ぐすね引いて待ち構えており、行動に支障が生じていた。6月6日には駆逐艦水無月が、翌7日には早波が米潜水艦ハーダーの餌食となったため急遽対潜掃討を行う事になった。6月8日、特設運送艦北上丸から食糧品の補給を受ける。
  　
• 6月9日、タウイタウイ湾口で駆逐艦早霜、磯風、島風とともに対潜掃討に従事。22時25分、バシラン島南西で敵潜から4本の魚雷が伸びてきて、2本が艦首と艦橋下右舷に直撃。瞬く間に沈没し、水中で爆発した。乗員114名が死亡し、生存者126名が浦風に救助された。1944年8月10日、除籍。
  　
• 余談だが谷風の断末魔の爆発は、遠く離れたタウイタウイ泊地に停泊していた軽巡洋艦矢矧まで届いた。水中測的という新しい聴音技術を使用しており、更に精度上昇のため艦内の機械を止めていた事が爆発音察知に繋がった。探知したのは矢矧だけで、他の艦は全く聴こえなかった事から水中測的が全面的に採用されていった。

末尾の番号が若いほど、古いログになります。

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