零戦五二型

重桜・戦闘機

• 初戦において二一型は卓越した性能と戦果を示したが、長い主翼による横転性能の不良が現場において問題視された。
  そこで改良型としてエンジンを栄一二型940馬力から栄二一型1130馬力に変え、
  横転性能と生産性、降下速度の向上を目的に主翼設計を変更した三二型を生産開始され、最高速度、加速、上昇性能、20mm機銃弾が増加した三二型は
  二一型に比べ諸々の性能が向上しこれが二一型にとって変わる予定であった。
  連合軍においても三二型は二一型と比べ、変わったエンジンカウルや角張った主翼という見慣れぬシルエットと、
  その向上した性能から新型と誤認され、従来の零戦よりも警戒されていた。
  しかし、折しも1942年から始まったラバウルからガダルカナル島への長距離護衛任務において三二型の航続距離の不足が問題視された。
  燃料搭載量自体は二一型と三二型はさほど変わらないのだが過重搭載量では若干二一型のほうが多く積め、それが航続距離において明暗を分けたのであった。
  そこで三二型の主翼を元に戻し航続距離を伸ばした二二型が生産された。
  航続距離は二一型よりも良好になったが同時に改善した横転性能も悪化し急降下制限速度も悪化した。
  しかも二二型の登場時期には前線飛行場の変更により、航続距離が前より問題にならなくなったというおまけ付きであった。
  そこで二二型のベースに改良型として五二型が登場したのであった。
  なお三二型と二二型は、艦上機として空母での運用はされておらずパプア・ニューギニア戦線において陸上戦闘機として配備され消耗している。
• 二一型と五二型の間に三二型という別の改良型があり、そこでの改良も以下の改良に含まれている点に注意。
  • 二一型からの変更点としては
    ・エンジンを栄一二型（940馬力）から栄二一型（1130馬力）へ改装し過給器追加により高高度で従来より馬力が上がった。
    ・排気管を推力に使えるように工夫して最高速は533km/h→564km/hへ上昇。
    ・翼幅を12m→11mに短くして強度的に脆弱な翼の折り畳み機構を廃止し生産性、速度、横転性能、急降下速度が向上。
    ・翼内燃料タンクに自動消火装置を設置した。被弾による撃墜の多くは火災が原因。
    ・九九式二〇粍一号機銃を長砲身の九九式二〇粍二号機銃にし弾数も増やし火力向上。また初速も向上し、命中率も向上した。
    …などなど。なお水エタノール噴射装置付の栄三一型（1300馬力予定）を五二型に載せる予定であり、
    その場合は最高速度580km/h程度になると予測され五三型となる筈だったが、海軍は水エタノール噴射装置を酷評しており、開発を一時停止。
    陸軍は真逆の評価をし、これを陸軍向け栄三二型（ハ115-II、1300馬力）とし一式戦闘機隼三型に搭載。実戦で高い評価を受けている。
    海軍も終戦間際に開発を再開するも時既に遅かった。
  • 総合的には、二一型よりも性能は向上している。というのも、五二型は「大空のサムライ」で有名な坂井三郎氏より酷評を受けて、
    二一型以下と言われ続けてしまい、五二型が戦後正式な評価をされるのには時間が掛かった。
    坂井氏は二一型の搭乗期間が長く、折しも先述にあるガダルカナルの攻防で機銃弾が目に当たる重傷を負って前線から退いており、
    五二型への搭乗期間は短い上に、その頃には五二型の品質が落ちており悪印象を与えたのかもしれない。
  • その後、さらに五二型甲、乙、丙とさらに改良され13mm機銃への改装、主翼外板を厚くし急降下速度の向上、
    操縦席付近へ防弾ガラス、装甲板の設置、20mm機銃の弾数をさらに増加など改良されて重戦闘機となっていった。
    ただし重量増によって本来の持ち味であった軽快さが損なわれてしまい、さらに装備した防弾装甲板も8mm厚*1と、
    同時期の日本陸軍機の13〜16mm厚に比較すると薄く、米軍機の12.7mm弾は距離200mで10mmの装甲板を貫通するのでかなり心許なかった。
    現実に陸軍機の8mm厚の防弾板2枚重ねが1枚目を貫通し、2枚目で弾丸が止まっている。
    とはいえ、この時期になると零戦も一撃離脱戦法を取るようになり、その形で迎撃戦闘を行っている本土防空戦においては相応の交換比で敵機を撃墜している。
    最終型である五四丙型では、1500馬力の金星エンジンの搭載が予定されており余裕のある馬力と引き替えに、失われた運動性能を取り戻したとされている。
    しかし、すでにこの時点で金星エンジンの生産工場が爆撃で壊滅してしまっており、仮に採用されたとしても生産出来ない状況であった。
    また計算上600km/h程度と試算されたが、エンジンカウルやプロペラが彗星のパーツの流用などで最適化されておらず、
    約10km/hの最高速度の上昇を果たしただけに留まった。

• 改良されたとはいえ、エンジンの出力はあまり上がっておらず差は縮まれど*2
  F6Fヘルキャットに対抗できる戦闘機ではなかった。
  日本海軍は1943年頃には陸上の主力機として当初局地戦闘機「雷電」を配備し、
  零戦は生産を縮小し空母分の艦載機に絞っていく予定だったのだが、雷電は開発が難航し、改良が限界に来ている事を承知で零戦を使い続ける事になった。
  また、戦況の悪化による工作精度の低下と粗悪な燃料により、カタログスペック通りの性能は出なかった。
  後継機の烈風は完成が遅れ、その間に完成した川西の局地戦闘機紫電改が相応の性能を持っており、
  空母信濃での離着艦試験なども行っており紫電改が次期主力戦闘機として決まったが、
  1945年には稼働する空母も、大量生産する余力もなく数の上では零戦は大戦後期の主力として終戦まで使用された。

• 零戦二一型はアリューシャンで不時着したアクタン・ゼロが有名だが、
  米軍はサイパン島アスリート飛行場において、無傷の本機を複数鹵獲している。
  そのなかの一機である零戦五二型61-120号機*3は現在、世界で唯一飛行可能なオリジナルに近い零戦とされている。
  この零戦五二型は米軍機と模擬空戦をくりかえし、
  米海軍の次期主力戦闘機であるF8Fベアキャットの試作機とも模擬空戦をおこなっている。
• 後継機の開発が遅れていた帝國海軍は、零戦二一型の改良タイプである52型を次期主力機の繋ぎとして運用した。
  特に太平洋を我が物顔で飛び回っているヘルキャットの対抗馬として期待された。
  1943年8月より量産が開始され、機体の色は海洋迷彩である深緑色に変更。中部太平洋方面で活躍した。
  敵の新型機に対抗するため、様々な小改良や派生機が開発され、
  甲型、乙型、丙型、爆装、終戦までに間に合わなかった重武装・高機動の54型などなど……。
  終戦までに6000機が量産された。