霞

• 大日本帝国海軍が建造した朝潮型駆逐艦の9番艦。艦名の霞は、空がぼんやり見える状態の事を指す気象用語が由来。1934年度第2次補充計にて、一等駆逐艦として浦賀船渠に発注。当初の艦名は朝雲であったが、1936年6月19日に霞と改名。12月1日に起工し、1937年11月18日に進水。1939年6月28日に竣工し、呉鎮守府第18駆逐隊に編入。11月15日、第18駆逐隊は栄えある第2艦隊第2水雷戦隊の指揮下に入った。
  • 要目は排水量1961トン、全長111m、全幅10.35m、速力35ノット、出力5万馬力、航続距離3800海里(18ノット)、乗員230名、最大速力36.5ノット。武装は12.7cm連装砲3基、61cm4連装魚雷発射管2基、次発装填装置、25mm連装機銃2基。

• 1940年10月11日、横浜沖で行われた紀元2600年特別観艦式に参列。

• 1941年4月17日から23日にかけて呉工廠で入渠整備。9月1日、第18駆逐隊司令に宮坂義登大佐が着任し、霞に乗艦した。11月26日、佐伯湾に回航。ここには帝國海軍が誇る赤城や金剛型戦艦などが一堂に会しており、壮観な眺めだった。集結した艦艇は真珠湾攻撃に参加する諸部隊であったが、攻撃の事を知っていたのは一部の高級将校のみであった。上空には空母の艦載機が旋回し、日々厳しい訓練を行っていたが、彼らにも攻撃目標や作戦内容が伝えられていなかったのである。11月18日、阿武隈に率いられて佐伯湾を出発。第2開戦準備令が発布され、佐伯湾から小出しで集結地の単冠湾へと回航された。11月24日に一般兵に作戦内容が伝えられ、一気に士気が上がったという。攻撃目標は遥か東のハワイ・真珠湾。アメリカ太平洋艦隊の本拠地である。前代未聞の長躯を強いられる事から、航続距離の長い新鋭の駆逐艦だけが参加を許された。霞はその数少ない1隻だった。南雲機動部隊が誇る6隻の空母が集結した事で、作戦の準備が整った。
• 暗雲が垂れ込める11月26日午前6時、機動部隊の前衛を務める警戒隊が一斉に抜錨し出港。第1警戒航行序列を成し、霞は陣形の左側に占位した。長く過酷な旅が始まった。冬の北太平洋は大荒れだったが、南雲機動部隊は敢えてこれを隠れ蓑にした。幸運の戦巫女に助けられ、統計とは裏腹に今年の北太平洋は天候に恵まれた。翌27日、晴れているうちに最初の洋上補給が行われた。波が高く、霰の水兵1名が転落して行方不明になる事故が起きたものの、洋上補給自体は成功。好調なスタートを切った。11月28日は翔鶴と瑞鶴以外の全艦艇に燃料補給。失敗したら空母や戦艦を道連れにしかねない危険な給油作業だったが、勇敢かつ錬度の高い乗組員の活躍で恙無く完了。翌29日も給油に成功したが、夕刻より天候が悪化し始める。
  • 阿武隈率いる駆逐隊は、敵艦隊や潜水艦が出現した時の迎撃戦力であった。他にも不時着した艦載機を救助する役割も担っていた。しかし新鋭駆逐艦と言えど大型艦と比べると航続距離が短く、万が一洋上給油に失敗した場合は本土に引き返させる予定だったという*3。小柄な船体のため、霞を始め駆逐艦には重油タンク等の増設は行われていなかった。

• 12月1日、全行程の折り返し地点まで来た。この日は天候が回復し、洋上給油も成功。17時頃、いよいよ180度線を越えるので、各艦一層気を引き締めた。翌2日の給油で、作戦終了まで動けるようになり燃料問題は解決した。この日、連合艦隊電令作第10号「ニイタカヤマノボレ1208」を受信。日米交渉決裂、作戦行動を開始せよ――。日本史上最大の戦争が幕を開けようとしていた。12月3日は荒天に見舞われ、洋上補給が出来ないほどだったが既に燃料問題は解決していたので瑣末な事だった。攻撃の前日である12月7日午前3時45分、補給船の極東丸、健洋丸、神国丸が艦隊から退避。護衛のため霞は船団に追随した。間もなく敵機の哨戒圏に入るので、船団は退避させる事になったのだ。
  　
• 1941年12月8日、真珠湾攻撃によって大東亜戦争が勃発。米太平洋艦隊を撃滅し、攻撃は成功した。大役をこなした機動部隊は北上し、分離した船団や霞と合流すべく阿武隈と駆逐艦1隻を先行させた。翌9日午前8時30分、南雲機動部隊と合流。ただちに駆逐艦への給油が始められた。ところが海上は風速13mという猛烈な風が吹いており、霞、浦波、浜波から死傷者4名を出してしまった。夜半に作業完了。日本本土に向けて帰路についた。だが復路は往路より天候に恵まれず、12月10日から15日にかけて全く洋上補給ができなかった。荒波と強風に揉まれながらも、12月23日18時30分に柱島へ凱旋帰国。29日に及んだ大航海を完遂させ、華々しい戦果を飾った。ここから日本の快進撃が始まった。
  　
• 1942年1月8日14時、赤城、加賀、翔鶴、瑞鶴を護衛して柱島を出港。ビスマルク諸島の攻略を目指すR作戦に参加する。霞は警戒隊の一員として空母の前路哨戒を担当。豊後水道を通過した後、針路140度、速力14ノットで南下を始めた。航行中、対潜哨戒機を標的にした対空射撃教錬と各種応急教練を実施し、錬度の向上を図った。予想された敵の襲撃は無く、1月15日午前9時にトラック島へ入港。1月20日午前10時、赤城から第一次攻撃隊が発進してラバウルを空襲。続いて不知火等とともに第5航空戦隊の援護に回り、ラエとサラモアの空襲を支援。抵抗らしい抵抗は無く、作戦は順調に推移。1月23日、ラバウルとカビエンへの上陸を支援。こうしてラエ、サラモア、ラバウル、カビエンは全て制圧され、R作戦は成功。1月29日にトラック島に帰投し、不知火や秋雲とともに極東丸から補給を受けた。

• 2月1日午前11時、マーシャル諸島を通り魔的に空襲してきた敵空母群を攻撃するため赤城とともに出撃。しかし2月3日午前3時5分に作戦中止となり、反転。5日後にパラオに寄港した。2月8日午前9時57分から午後12時33分まで、不知火ともどもタンカー日本丸から補給を受ける。次なる攻撃目標は、連合軍の退路となっているポートダーウィンであった。2月15日、空母4隻を護衛して勇躍パラオを出港。2月19日午前8時45分、第一次攻撃隊188機が発進。偵察に現れたカタリナ飛行艇を瞬く間に撃墜し、オーストラリア軍の迎撃を不完全なものにした。第二次攻撃隊54機が再び空襲し、港湾施設を徹底的に破壊。迎撃に上がったP-40は零戦の相手ではなく、あっと言う間に殲滅。さらに敵駆逐艦ピアリーを含んだ9隻の船舶を撃沈。日本側の被害は撃墜5機と被弾34機に留まり、大成功に終わった。2月21日、セレベス島スターリング湾に入港。ここから東南アジアに転戦。2月25日、出撃。東南アジア方面の戦局は既に決し、各所から連合軍の船舶が脱出を図っており、この敗残兵狩りに参加。不知火とともにジャワ島南方で待ち伏せ、3月1日、不知火が国籍不明の7000トン級商船を発見。国籍の明示を求めたが、無視して逃走しようとしたため霞と協同で攻撃し、午後12時50分に撃沈。
• 3月5日、良港チラチャップを空襲する機動部隊を支援。港内に留まっていた16隻の商船を沈め、1隻を大破させた。翌6日午前8時、敵の掃討を命じられて機動部隊から分離。親潮、黒潮、不知火、霞の順に警戒航行序列を組み、敗残兵を探した。3月7日19時40分、オーストラリア方面に英戦艦ウォアスパイトが停泊しているとの情報が東京のドイツ軍機関からもたらされ、緊迫したものの誤報だった。3月9日にジャワ島のオランダ軍が降伏し、蘭印作戦完了。しかし霞たちに休む暇は無く、翌10日午後12時18分に機動部隊から急遽対潜掃討の要請を受ける。谷風、浦風、浜風、不知火と任務を遂行し、3月11日にスターリング湾へ帰投。ようやく一息つけた。
• 東南アジアから連合軍を一掃した帝國海軍の次なる標的は、インド洋に陣取るイギリス東洋艦隊であった。3月27日、加賀を除く5隻の空母を護衛してスターリング湾を出港。西進してインド洋に差し掛かった。4月5日、セイロン沖海戦に参加。この海戦でイギリス東洋艦隊は半壊し、南アフリカまで撤退。東南アジアのみならずインド洋をも手中に収めた快勝であった。4月23日、呉へ帰投。入渠して整備を受ける。

• 5月21日、ミッドウェー作戦のため呉を出港。旗艦神通に率いられて前進拠点のサイパン島に進出。第2水雷戦隊は、上陸部隊を乗せた攻略船団の護衛を担当した。5月28日17時、サイパンを出港。船団の先頭に立って予定航路を進んだ。翌29日午前0時頃、テニアンから出発してきた支援隊と合流。昼間は之字運動で潜水艦を警戒。敵潜水艦出現の報が寄せられるも、攻撃は無かった。しかし6月4日午前6時15分、敵哨戒機に発見されてしまう。5機の敵機が1時間以上にわたって触接を仕掛けてきた。13時頃、B-17爆撃機9機が出現し、船団へ9発を投弾。ただ高高度からの爆撃だったため、命中弾は皆無。こうして空襲に見舞われた一日は終わった。
• 6月5日午前10時、第2艦隊の近藤中将から北西へ退避するよう命じられる。既にミッドウェー海戦が始まっており、3隻の空母が大破炎上していたのだ。航空兵力を殆ど失ったため、いつ空襲を受けるか分からない危機的状況に陥った。午前10時40分、第2水雷戦隊へ攻撃部隊合流の命令が下り、午前11時15分に旗艦神通や僚艦とともに本隊のもとへ向かった。翌6日午前9時20分、ミッドウェー作戦中止。魔の海域と化したミッドウェー近海からの離脱を命じた。6月14日、辛くもトラック島に帰投。6月17日、鈴谷と熊野を護衛して出発。6月23日に呉へ到着した。
• ミッドウェー海戦で大敗したため、一時的な占領だったアリューシャン列島のアッツ島及びキスカ島を恒久的占領に変更。占領したキスカ島に航空機を送るため6月24日に輸送部隊が編成され、第18駆逐隊(霞、霰、不知火、陽炎)が護衛兵力に選ばれた。翌25日、陽炎と千代田とともに呉を出発。道中の13時、米潜グルーパーの雷撃を受けて損傷した第二図南丸救援のため陽炎と現場に急行。6月26日午前4時30分に到着し、護衛を開始。正午過ぎ、危機は去ったとして護衛を中止。2隻は本来の目的地である横須賀へと向かった。水上機母艦千代田、あるぜんちな丸を護衛して、6月28日に横須賀出港。ところが同日16時25分、野島埼灯台の19海里沖で2本の雷跡が千代田の後方を通過。霞が対潜制圧を行っている。それ以外は平穏な航海が続き、予定通り7月4日17時10分にキスカ港外で仮泊。翌5日未明に千代田及びあるぜんちな丸が入港した。
• 濃霧の中で停泊していた霞、霰、不知火。第18駆逐隊はミッドウェー海戦から連戦しており、乗組員が非常に疲れていた。彼らを慮った優しい宮坂司令は、転錨時刻を7月5日午前3時に指定。少しでも休ませてあげようと配慮した。しかし、隠れ蓑にしていた霧が晴れてしまった。そこを怪魚に突かれてしまう。午前2時56分、米潜水艦グラウラーから雷撃を受け、魚雷1本が直撃し大破航行不能。船体前部が切断され、乗員10名が戦死する大損害を受ける。この襲撃で霰が沈没し、不知火も大破航行不能。一瞬にして4隻中3隻が戦闘不能になってしまった。救援に阿武隈率いる駆逐隊が急派され、生き残った2隻を守った。応急修理を行い、7月26日に駆逐艦雷に曳航されてキスカ島を出発。占守島を経由し、8月10日に石狩湾に到着。そこで曳航船を雷から富士山丸に交代し、出発。8月13日に舞鶴に到着。さっそく舞鶴海軍工廠で修理を開始した。陽炎以外健在艦がいなくなった第18駆逐隊は、8月15日に解隊。宙に浮いた霞は9月1日に呉鎮守府予備艦となる。
  • 第18駆逐隊の壊滅を招いた宮坂大佐には「油断していたのでは」と非難が殺到。責任を感じた彼は自刃。優しさが仇となる悲しい結末となってしまった。
    　
• 1943年6月30日に修理完了。7月1日より第1艦隊第11水雷戦隊に編入され、7月17日午前8時17分に呉にて第11水雷戦隊との合流を命じられる。翌18日14時30分、舞鶴を出港。道中で軽巡洋艦龍田と合流し、7月20日13時に柱島へ到着。訓練を開始する。9月1日に第1水雷戦隊第9駆逐隊に転属し、後任の井上良雄大佐が乗艦する司令駆逐艦となる。翌2日、呉を出港。9月9日から北千島方面で船団護衛に従事する。9月21日、幌筵を出発する船団を護衛。出港してすぐの13時、幌筵海峡北口にて照川丸が雷撃を受け、霞が爆雷を18個投下している。被害は無く、9月25日に函館港へ到着した。11月9日午前8時30分、乙前で雑用船白陽丸や君川丸等の護衛を開始。武蔵湾まで送り届けた。12月3日、マーシャル諸島への輸送任務に参加。航空要員をウォッゼとクェゼリンに送り届けた。12月16日、トラックを出発する最上を護衛。同月22日に舞鶴へ入港し、2番砲塔を撤去。代わりに25mm三連装機銃2基を装備して対空能力を上げた。
  　
• 1944年1月8日、出渠。2月1日に呉を出港し、再び北方方面で船団護衛に従事する。2月25日夜、大湊を出港した船団が荒天に揉まれ、やむなく厚岸方面に避難。霞は現場に急行し、翌日に摩耶山丸等と合流。片岡湾まで護送した。3月1日、摩耶山丸から補給を受ける。3月11日、大湊にて帝洋丸から300トンの送油を受ける。3月15日、小樽を出港。駆逐艦白雲や薄雲とともに船団を護送した。翌16日23時35分、襟裳岬東方で敵潜水艦の襲撃を受け、白雲と日蓮丸が沈没してしまう。霞が制圧を行い、残った船団は駆逐艦薄雲の護衛で釧路に引き返した。白雲が抜けた直後、不知火が戦列に復帰。不知火と薄雲と霞で第18駆逐隊を再編した。4月30日、大湊を出発した船団の護衛につく。5月1日午前1時、釧路南方にて霞は敵潜らしきものを探知し、爆雷を投下。幸い敵襲は無く、無事釧路に入港した。

• 6月中旬、サイパン島にアメリカ軍が上陸したとの情報が軍部を駆け巡る。この危急を受け、霞は護衛任務を中止。ただちに内地へ回航され、6月24日に横須賀入港。一時はサイパン目掛けて海上突入する作戦に参加する予定だったが、マリアナ沖海戦に敗れたため立ち消えとなった。7月7日、小樽から北千島に向かう船団を護衛中に米潜水艦スケートの襲撃を受け、薄雲が沈没。仲間は不知火だけになってしまった。7月31日、大湊を出港。那智と足柄を横須賀まで護送し、8月2日に呉へ到着した。サイパン島の失陥を受け、硫黄島の防御を固める事が決定。増援を送るため「伊」号輸送作戦が発動され、霞も作戦に参加。中継地の父島に陸軍部隊を輸送する事になった。8月11日、軽巡洋艦木曾と多摩を護衛して出港。既に本土近海ですら敵機動部隊と潜水艦が跳梁する魔境と化していた。少なくとも父島近海には3隻以上の敵潜水艦が口を開けて獲物を待ち構えている。その危険な海域を勇気と度胸を以って突破し、8月14日に二見港へ到着。大きな桟橋や岸壁が無いので、木曾に搭載されている中発に物資を載せ、ピストン輸送で揚陸させた。

• 10月12日から13日に台湾沖航空戦が行われ、敵艦隊に甚大な被害を与えた(と思われた)。更なる戦果拡大のため、連合艦隊司令部は水上艦隊の投入を決意。10月14日午後12時16分、第2遊撃部隊(第5艦隊)の志摩清英中将に第21戦隊と第1水雷戦隊を率いて追撃するよう命令。これを受けて志摩中将は参加艦艇を岩国沖に集め、翌15日午前0時に出撃した。那智、足柄、阿武隈等と一緒に豊後水道を通過し、敵を求めて一路南下した。ところが豊後水道にて早速敵潜ベスゴに発見され、位置情報を打たれている。索敵機によると、石垣島南方で油を流して殆ど停止している空母1隻と、それを護衛する戦艦2隻、駆逐艦11隻を確認。被害を受けて退避中の敵と判別された。
  • ところが撃滅したはずの米機動部隊は健在で、空母は全て無事だったのである。索敵機が発見した「戦艦2隻」とは、大破した重巡キャンベラと軽巡ヒューストン(?)だった。敵将ハルゼーは日本艦隊を誘き出すべく大破した巡洋艦2隻をエサにして待ち構えていた。しかも志摩艦隊は豊後水道を出た時に米潜水艦によって発見されており、その動向を逐一報告されていた。まさに死の罠に飛び込む形となってしまった訳である。
• 10月16日午前10時45分、重巡から駆逐艦へ給油が始まった。そんな中、那智が不穏な情報をキャッチした。敵艦隊が北上する兆候を見せたのである。手負いの艦隊が、殺意を剥き出していきなり突っ込んでくる事などあるのだろうか。聡明な志摩中将は、この動きの裏に隠された敵の意図を看破。まっすぐ南下せず、わざと針路を西に向けて相手の出方を見た。まさかの動きを見せた志摩艦隊に敵は焦燥。慌てて航空機を送り込んできた。14時29分にF6F戦闘機2機が出現。対空砲火で一度撃退するも、15時20分に再び敵艦載機が出現。この迂闊な行動は、志摩中将に「先の戦果は誤りで、敵空母が健在である」と確信を抱かさせた。志摩中将は艦隊を反転させ、北上。ハルゼーの張った死の罠から見事脱する事が出来た。駆逐艦への燃料補給のため、17時に奄美大島の薩川湾へ入港。10月18日未明までに補給を終えたが、今度はマッカーサー率いる敵の大軍がスルアン島に上陸。戦局が一気に逼迫する。

• 10月18日、足柄、那智、阿武隈、駆逐艦潮、不知火、曙とともに出港。午前10時30分、沖縄の西方で敵潜スターレットに発見される。雷撃はされなかったが、位置情報を通報して敵潜を集め始めた。同日夜、沖縄の南に差し掛かった頃に敵潜トリガーに発見され、雷撃を受ける。幸い命中せず、味方の航空機や潜水艦によって追い払われた。10月20日午前4時、台湾海峡にて敵潜タングに発見される。夜が明けるまで追跡を受けたが、何とか振り切った。馬公に寄港後、マニラに向かう予定だったが、連合艦隊からコロン島進出を命じられ、そこで捷一号作戦に参加する事になる。10月22日午前1時、ルソン海峡にて敵潜シードラゴンに捕捉される。シードラゴンは志摩艦隊の陣容を「空母1隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦6隻」と報告し、周辺の敵潜が集まりだした。次にブラックフィッシュが現れ、シードラゴンとともに雷撃を仕掛けてきた。いずれの魚雷も命中せず、包囲網を脱する事に成功した。ところが今度はアイスフィッシュが出現し、雷撃姿勢を取った。しかし荒天に阻まれた挙句、味方機の飛来によって潜航を強いられたため、アイスフィッシュも取り逃がした。十重二十重に張り巡らされた敵潜水艦の包囲網を突破し、10月23日にコロン湾へと到着した。
  　
• 10月24日23時、コロン島を出撃。志摩艦隊の一員として、レイテ湾への突入を目指す。空は澄み渡っており、月と星々が妖しく光を投げかけていた。第4接敵序列の陣形を取り、霞は中央に配置された。翌25日午前0時5分、砲戦魚雷戦に備える。敵が支配する海の只中にあって、静寂の航海が続いた。しかし午前1時17分、阿武隈が敵艦らしきものを探知した事で平穏な時間は砕かれた。速力を28ノットに上げ、戦闘準備に入る志摩艦隊。午前3時20分、敵が打ち上げた照明弾を確認。それと同時に米魚雷艇が大挙して襲い掛かってきた。大量の魚雷が伸びてきたが、霞の巧みな回避で乗り切った。志摩艦隊は単縦陣を組み、スリガオ海峡へと急ぐ。まとわりつくPTボート群に探照灯を照射し、追い払おうと射撃する。しかし午前3時25分、PT-137が放った魚雷が阿武隈に命中し、水柱が築かれる。阿武隈は足を止められ、艦隊から落伍してしまった。
• 午前3時35分、旗艦那智、足柄、潮、曙、不知火、霞の6隻がスリガオ海峡に突入。……そこには、この世のものとは思えない地獄が広がっていた。まず志摩艦隊の目に飛び込んできたのは、2つに裂かれて炎上する扶桑の姿だった。その前方には炎上して停止している最上が。まるで大量虐殺の場であるかのような凄惨な光景が広がっていた。その直後、那智のレーダーが前方に敵艦隊らしき反応を探知。この凄惨な光景を作り上げた犯人かもしれない。午前3時48分には、前方に敵の照明弾が上がった。志摩中将は駆逐艦に前進攻撃を命じ、僚艦とともに突撃。艦隊決戦が生起するかに思われたが、行けども行けども敵と接触できず。実はレーダーの反応は誤りだった。敵情把握ができないので、志摩中将は一度反転離脱。栗田艦隊の到着を待って再度突入しようとしたが、旗艦那智が最上と衝突事故を起こし、艦首を大破してしまったため叶わなかった。

• 10月25日午前5時35分、反転離脱中に阿武隈と合流。ところが阿武隈の近隣にはその命を狙う米魚雷艇が集まり出しており、予断を許さない状況だった。午前6時20分、隙を見て阿武隈への横付けを図る。が、5分後に魚雷艇を視認。一旦横付けを止め、爆雷5発を放って追い払った。脅威を排除して阿武隈に横付け。午前7時5分、木村昌福少将が霞に乗艦し第1水雷戦隊旗艦となる。マストには将旗がひるがえった。横付けに成功したのも束の間、今度は敵艦上機8機が出現。阿武隈を守るため、主砲を発射して迎撃する。空襲の間隙を突いて横付けを離し、何とか移動を試みる霞。阿武隈も潮に護衛されて退避を図る。そこへ静寂を切り裂くエンジン音が轟く。新手のグラマン4機とドーントレス14機が出現し、霞を昏き水底へ引きずり込もうと迫ってくる。午前8時37分に砲撃開始。霞の奮戦むなしく、敵の数は増加の一途を辿る。やがて四方八方から魚雷と爆弾が放たれるが、神業のごとき操艦で全て回避。反撃で1機を撃墜し、1機を撃破した。力闘する霞に押された敵機は午前9時5分に撤退。恐怖の時間から解放された。間もなく14機の敵艦上機が確認されたが、霞に気付かず飛び去った。一度、阿武隈のもとへ赴いて護衛に参加したが、17時32分に分離。護衛を駆逐艦潮に託し、コロン島に向かった。
• 足柄を護衛しながらコロン島に向かっていた霞。10月26日、ミンドロ島南西にてサマール沖海戦で艦首を大破し、7ノットで退避中の重巡熊野と遭遇。木村少将は熊野に激励の信号を送り、熊野の信号員が返信した。護衛対象に熊野を加え、両側を霞と足柄が寄り添う。15時頃にコロン湾の水道を通過し、何とかコロン島に辿り着いた。ここは避難所に指定されており、島の西岸には第1水雷戦隊の駆逐艦数隻が、北方では先客の那智が油槽船日栄丸から補給を受けていた。ここも敵の空襲圏内であったが、島の西側は断崖に隠されて発見されにくかった。那智から信号が送られ、霞に鬼怒と浦波の沈没が伝えられた。日栄丸から補給を受けたのちに出港。10月28日にマニラへ入港した。この海戦で不知火を失い、霞はただ一人生き残った。

• 10月29日午前7時24分、マニラ地区に空襲警報が発令され、21分後に20機以上の敵艦上機が襲来。霞はすぐに動けるよう準備をしたうえで砲撃開始。第一波攻撃を無傷で乗り切った。午前8時40分、今度は約50機が出現。霞は出港し、回避運動をしながら煙幕を展開。第二波攻撃をやり過ごしたが、15時40分に再び空襲警報発令。120度方向に敵の大編隊を発見し、砲撃。一日中マニラは激しい空襲を受けたが、霞に傷を負わせる事は出来なかった。
  　
• レイテ沖海戦から生還したのも束の間、今度はレイテ島西岸の日本軍の拠点・オルモックへの緊急輸送こと多号作戦への参加が命じられる。第二次輸送隊を護衛して11月1日にマニラ出発。能登丸、香椎丸、金華丸、高津丸の優秀船舶4隻には精鋭の第1師団将兵が乗船していた。それを霞、沖波、曙、潮、初春、初霜の駆逐艦と、4隻の海防艦が守護した。上空には味方戦闘機隊が展開。道中で空襲を受けたが、撃退に成功。被害皆無のまま夕刻にオルモックへ到着。物資の揚陸作業が行われたが、翌2日に再び空襲を受けて能登丸が犠牲になってしまう。勇将木村少将は能登丸の乗員救助を命じ、真っ先に生存者を助けた。若干の被害は出したが、目的は達成し無事マニラ湾へ帰投した。輸送作戦から帰還したのも束の間、11月5日午前7時35分に110度方向にグラマン4機が出現。さらに敵艦上機20機が現れ、対空戦闘開始。だが、これは序の口だった。午前9時23分、20度方向に敵の大編隊を探知。後の世に言うマニラ大空襲の始まりである。わずか3分後、空を覆いつくす敵機の群れが飛来。被害を避けるため、在泊艦艇は散開して回避運動を行った。マニラ湾に安全な場所など何処にも無く、霞は必死に回避を行った。その甲斐あって未だ健在であったが、午後12時50分に沖合いで回避していた那智が被弾。黒煙が噴き上がる様子が霞からも確認できた。14時30分、新手の敵編隊が駆逐艦曙に殺到する様子を目撃。敵に群がられた曙は、大破に追いやられた。

• 空襲が終わった16時15分、大破した那智を救護するため出港。だが那智は既に沈没しており、224名の乗員を救助した。一方、大破した曙を潮が曳航していたので、18時40分に消火活動を手伝おうと曙への横付けを試みた。しかし火勢が強く、一度は断念。それでも僚艦を救うべく危険を承知で接舷。19時28分より曙の左舷側から消火活動を開始した。ところが敵軍は、曙を死の淵から救う事を許さなかった。19時53分、無情にも空襲警報が発令される。霞は横付けを離し、マニラ港内へ移動。襲来するであろう敵機に備えた。11月6日午前7時36分、30度方向より敵艦上機10機出現。これを皮切りに無数の敵機がマニラに殺到し、昨日に劣らぬ大空襲を仕掛けてきた。この日の空襲警報は15時35分に解除され、霞は生き残った。だが曙はこの地獄から生きて帰る事は出来なかった。マニラは連合軍の重要目標になっており、湾内であっても決して安心できる場所ではなかった。敵機の脅威を思い知らされたため、霞が次に参加した第四次輸送隊は嵐のなか強行された。今回の護衛目標は第26師団を載せた香椎丸、金華丸、高津丸の3隻で、霞は駆逐艦6隻を束ねる旗艦を務めた。他にも海防艦4隻が護衛に加わった。

• 11月8日、荒天の中で出発。しかし敵は嵐の中でも空襲を仕掛けてきて、P-38やB-25の襲撃で高津丸、香椎丸、第11号海防艦が沈没。反撃により7機を撃墜した。翌9日にオルモックへ到達したが、現地の大発が台風の土砂で埋没し、5隻しか使用できなかったので作業が難航。人員の揚陸は成功したが、重火器は全く揚陸出来なかった。帰路も全く安全ではなく執拗な空襲を受けたものの、何とかマニラに逃げ込めた。11月13日午前7時38分、霞の電探が敵の大編隊を探知。またしても大空襲が始まってしまう。午前8時、30機以上のアベンジャーとドーントレスが霞を襲撃。臆せず対空砲火を展開するも、25分後に右艦首100m付近に爆弾が落下し、至近弾となる。そしてすぐに反撃に転じ、2機を撃墜確実。敵も霞を強敵と認めたようで、この日は霞が集中攻撃を浴びた。午前9時23分、艦尾方向より数十機が一斉に急降下爆撃。至近弾数発を受けたが、直撃弾は許さなかった。横を見ると軽巡木曽が被弾、駆逐艦初春が大破炎上中、沖波が小火災発生中だった。彼らを助けるべく午前11時20分、周囲を走り回って煙幕を展開したが、まるで効果なし。やがて初春は沈没した。海防艦とともに、残っている沖波と木曾の援護に回るが、13時30分にドーントレス数十機が右舷側より来襲。木曾と沖波を守るように対空砲を撃ちまくり、3機を撃墜する。だが霞の抵抗は、津波を両手で受け止める程度でしかなかった。直撃弾数発を喰らい、霞の目の前で木曾と沖波を撃沈されてしまう。2隻の死を確認するや否や、敵は興味を失ったかのように攻撃目標を地上のキャビテ基地に移した。この大空襲では駆逐艦秋霜と金華丸も犠牲になっており、多くのものを失ってしまった。また霞も無傷では済まず、機銃掃射で乗員1名が戦死した。11月15日、第2艦隊第2水雷戦隊第7駆逐隊に編入。同月22日にリンガ泊地へ回航された。
• 11月29日19時30分、駆逐艦初霜とともにシンガポールを出港。本土に帰還する戦艦榛名の護衛し、馬公に向かった。12月2日午前1時11分、米潜キャバラから榛名に魚雷を放ったが、命中せず。無事馬公へ送り届けた後、同月5日午前10時20分に船団を護衛して出港。カムラン湾まで護送した。一方、12月13日に重巡妙高が敵潜バーゴールの雷撃を受けて大破航行不能に陥る。僚艦の窮地を受け、12月18日にカムラン湾を緊急出動。神風や初霜とともに妙高を援護した。12月14日、カムラン湾にやってきた日栄丸から燃料補給を受ける。そして日栄丸の指揮下に入り、12月16日にカムラン湾を出港。初霜と協同で、日栄丸のサンジャック回航を護衛した。翌17日23時、日栄丸と分離。12月23日15時、伊勢に率いられて錨地を移動。
  　
• その頃、フィリピンの戦いは新たな局面を迎えようとしていた。レイテ島を制圧したアメリカ軍は、南のミンドロ島に魔手を伸ばした。日本軍の守備隊は僅か400名しかおらず、山中でのゲリラ戦以外に採れる戦法はなかった。上陸した敵は、手早くサンホセ海岸付近に飛行場を建設し始めた。そして早くもB-25やP-40、P-47などが進出。これを迎撃するため、木村昌福少将率いる第2水雷戦隊に白羽の矢が立てられた。戦力は旗艦霞、朝霜、清霜、榧、樫、杉、足柄、大淀の8隻。作戦は礼号作戦と呼称され、勇敢なる砲撃部隊が結成された。予定では25日夜に突入するはずだったが、天候悪化によって部隊の集結が遅れたために26日夜に変更された。霞は現地で給油作業を受けた。
  • 旗艦には巡洋艦である大淀か足柄が据えられると思われた。しかし木村昌福少将は小回りが利き、馴染みもある霞を指定した。生粋の水雷屋である木村少将は、どうせ死ぬなら駆逐艦を枕にしたいと考えていたようである。戦後のインタビューで何故旗艦を駆逐艦にしたのかと尋ねられると、「だって君、僕は駆逐艦乗りだよ。僕はヒョロ長い水雷艇の時代から水雷屋なんだ」と返した。

• 12月24日午前8時、霞に将旗が掲げられる。そして午前9時にカムラン湾を出発した。マニラに向かうよう見せかける偽装航路を取り、敵の目を欺いた。出撃直後に航空機を探知したが、これは味方機と判定された。海は荒れていたものの、敵の出現は無かった。12月25日午前4時16分、霞が敵潜らしき電波を探知し回避運動を取る。この日も敵襲は無く、平穏な航海が続いた。ところが12月26日16時25分、PB4Y哨戒機に発見されてしまう。だか日本艦隊の進撃は、アメリカ軍を驚かせた。何せミンドロ島には魚雷艇10隻と4隻のリバティ型貨物船しか残っておらず、護衛の戦力は全てレイテ島に帰っていたのである。また足柄を大和型戦艦と誤認しており、混乱を極めた。このため敵は艦艇での迎撃を諦め、既に進出していたミンドロ島の航空戦力だけで迎え撃った。緊急出動だったため編隊は組まず、準備が出来た機から順次飛び立った。
• 12月26日の夜は月齢11と、月明かりが強かった。上空からでも砲撃部隊を視認する事が出来たため、さっそく敵機が襲来。17時35分、まずB-25爆撃機8機出現。砲撃部隊は28ノットに速力を上げ、対空戦闘を開始する。ところが敵機は投弾せず、不気味に周囲を旋回するだけだった。18時7分に清霜が発砲すると退散した。安心したのも束の間、19時45分に霞が前方で輝く赤色弾を認める。再び敵機が飛来し、執拗に触接。隙あらば低空爆撃を試みようとしてくる始末だった。21時1分、B-24からの投弾で大淀に2発の直撃弾。幸運にも不発弾だった。21時15分、清霜はB-25の投弾を受け、左舷重油タンクが炎上。だが救助活動をする時間は無い。あとで迎えに来ると約束し、泣く泣く清霜を置いて進撃を再開。この戦闘で砲撃部隊は十数機を撃墜する戦果を挙げた。敵は慌てて出撃してきたため、爆弾すら搭載していない機が含まれていた。また夜間の衝突を避けるためか味方識別灯を付けており、対空砲火の格好の餌食になった。
• 目的地まで後少しというところまでに迫った22時10分、敵魚雷艇4隻が東側より出現。ただちに警報が発せられた。だが、敵魚雷艇は追跡してくるだけで攻撃はしてこなかった。実はこの時、南西方面艦隊が平文で偽情報を流しており、敵軍は霞率いる艦隊をミンドロ島への逆上陸部隊だと思っていた。なので、敵の司令部は上陸用舟艇を降ろすまで魚雷艇に攻撃を控えさせていた。まんまと罠に引っかかった敵は砲撃部隊を顔パスで素通りさせた。霞からの射撃を受け、魚雷艇1隻が炎上した。その後、残余の魚雷艇群は味方の米軍機に攻撃されて大損害を出している。22時20分、巡洋艦2隻を中央に置いた単縦陣を組み、「左舷魚雷戦用意」の号令が下った。敵飛行場と泊地があるサンホセはもう間近である。15分後、霞が不時着したものと思われるB-24を発見。砲撃を加えて転覆させた。非力な4隻のリバティ型は浅瀬の島影に隠れていた。だが目ざとい木村少将はそれらを見逃さなかった。22時50分、マンガリン湾に照準を定める。「魚雷発射！」
• 砲撃部隊から一斉に魚雷10本が発射される。霞は4本の魚雷を発射した。魂の雷撃は真っ直ぐに伸びていき、1隻のリバティ型貨物船ジェームズ・A・ブリーステットを撃沈せしめた。次に砲撃部隊は陸上施設を砲撃。22時45分、霞と朝霜は右の物資集積所を砲撃。足柄は飛行場を砲撃をした。爆弾庫が誘爆し、大火災が発生。全艦一体の壮烈な砲撃は飛行場を存分に耕し、業火の下に沈めた。霞は91発の主砲を発射している。12月27日午前0時4分、霞は「只今より帰路につく」と信号を発した。
  • 多くの米軍機は空中退避を済ませていたが、飛行場が火の海になったので降りられず、レイテ島の飛行場まで飛ばなければならなくなった。無論、足の短い米軍機が飛べるはずがなく、燃料切れで多数の機体が墜落して失われた。敵は日本軍の逆上陸を信じて疑わなかったため、燃え盛る飛行場を放置してずっと待ち構えていた。結局上陸部隊は来ず、せっかく残っていた物資も根こそぎ焼き払われた。任務を成功させた砲撃部隊は退却を開始した。午前0時14分、霞と朝霜は艦隊から離れて先行。2隻が向かった先は、先の空襲で炎上中の清霜のもとだった。P-38に追跡されていたにも関わらず、約束を果たすため清霜の救助に向かったのである。午前1時、救助活動開始。霞が駆けつけた頃には既に清霜は力尽きて沈没していた…。感傷に浸る間もなく救助活動を行い、艦長以下167名を収容。司令官という立場にありながら積極的に部下を助けるその姿勢は多くの生存者を感動させ、「この人のためなら死んでもいい」と決意させたという。午前2時15分に作業完了。あらかじめ打ち合わせておいた合流地点に向かい、午前9時に僚艦と合流。15時45分にP-38戦闘機2機の触接を受け、穏やかではない帰路になった。23時2分には足柄が魚雷音を探知。霞が爆雷投射を行っている。敵の追撃を振り切り、12月28日18時30分にカムラン湾に入港。礼号作戦は帝國海軍最後の組織的な成功となった。入港後、大淀から燃料を補給。20時に将旗を大淀に移し、霞は旗艦の任を解かれた。
    　
• 作戦後の12月29日14時、足柄、大淀、朝霜とともにシンガポールへ向かった。1945年1月1日、シンガポールに到着。霞はセレター軍港で整備と修理を受けた。そしてそこでは、新たな困難な任務が待っていた。アメリカ軍のフィリピン上陸により、日本本土と南方資源地帯との連絡は断たれつつあった。是が非でも資源を持ち帰るため、帝国海軍はシンガポールに取り残されていた軍艦を使って輸送作戦を企図。この輸送は北号作戦と呼称された。最も大型な戦艦伊勢と日向を中核とした完部隊が結成され、霞もこの部隊に参加する事になった。2月5日から南方産の各種資源や重油を積み込み始めた。少しでも積載量を増やすため、ありとあらゆる物資が無理やり詰め込まれた。結果、たった1発の機銃弾で大爆発しかねない超危険な状態と化した。しかも道中には無数のアメリカ軍が跳梁跋扈しており、先立って行われた南号作戦やヒ86船団は壊滅する憂き目に遭っていた。まさに生きては帰れない死出の旅路であった。2月9日、西部方面部隊電令作第3号により、正式に完部隊へ編入。
• 2月10日16時、セレター軍港を出発。伊勢、日向、大淀、初霜、朝霜とともに死の海へ漕ぎ出した。輸送の意図を察知されないよう、ルソン島のリンガエン湾へ突入するかのような航路を取った。敵機の哨戒圏を迂回し、南シナ海西部を突破。翌11日午後、グレートナッツ島西方で英潜水艦タンタラスに発見されてしまう。2月12日午後には敵潜水艦4隻(3隻が浮上中)が発見され、迂回。何とか危機を回避した。2月13日午前0時、日向のレーダーが潜水艦を探知したため、一斉回頭。午前2時頃、カムラン湾の東で霞のレーダーが水上目標を探知。再度一斉回頭を行った。潜水艦の魔手が四方八方から伸びてくる恐怖の瞬間であった。
• 2月13日朝、ついにB-24の触接を受けた。午前11時、マニラの西600海里で80機以上の敵が出現。真っ直ぐ完部隊へ向かってきた。一発被弾で即沈没の完部隊が空襲を受ければ、言うまでも無く全艦爆沈である。敵編隊は高度4000mにまで下がり、必中の構えを見せている。もはやこれまで、と思われた。だが、幸運の戦巫女は完部隊に微笑んだ。たまたま近くでスコールが発生したのである。完部隊はすぐにスコールへ逃げ込み、敵機の視界から姿を消した。米軍機はレーダーを持っており、スコールの中に隠れた完部隊を正確に爆撃する事が出来たが、付近には潜水艦が大量にいて下手に爆撃すれば同士討ちの危険があった。ゆえに米航空隊はレーダー爆撃を禁じており、敵機は手出しができなかった。やがて敵は燃料が少なくなり、引き上げていった。恐るべき強運と言えよう。この日の午後、距離1000mから米潜ブロワーが6本の魚雷を発射。30分後、さらにバーガルが大淀目掛けて魚雷6本が放たれたが、伊勢が高角砲で魚雷を破壊し、どの艦にも命中しなかった。16時、左前方22kmにバショウが出現。が、日向が主砲を発射してすぐに追い払った。
• 2月14日午前10時、本土からシンガポールに向かっていた駆逐艦神風と野風が一時的に完部隊の護衛に加わった。午前11時30分、香港の手前まで来たところでかつて砲撃を加えたミンドロ基地から飛来したB-24とB-25の一個連隊が南南東より出現。爆撃をしようと食い下がったが、雲に阻まれて攻撃を断念。厳しい旅路が続いたが、ついにフィリピンの空襲圏から脱出。敵機の襲撃は収まった。台湾海峡を突破し、2月15日夜に馬祖島に仮泊。ここで霞は戦艦から燃料補給をしてもらった。護衛から神風と野風が離脱し、代わりに完部隊の勇敢さに感動した駆逐艦蓮と汐風が護衛についた。完部隊は荒天に紛れて出発。荒れ狂う暴風と波浪により旧式艦の汐風と蓮はついていけずに落伍。完部隊は中国大陸沿いに進み、黄海を通って2月19日に関門海峡に到着。そして2月20日午前10時、損害ゼロで呉に到着した。絶望の旅路を制し、無事資源を持ち帰ってきたのだった。この報告に上層部は狂喜乱舞し、乗組員は互いに抱き合って生還を喜んだ。こうして北号作戦は奇跡の作戦として歴史に刻まれる事となった。

• 3月1日、松本正平少佐が艦長に着任。同月10日、朝霜と初霜が所属する第2艦隊第2水雷戦隊第21駆逐隊に編入。旗艦の座を矢矧に譲渡した。その後、呉や柱島で戦備の促進と単独訓練を行い、錬度の向上を図った。3月18日午前10時、大和と合流するため大津島を出港。呉に所在していなかったため、翌19日の呉軍港空襲には巻き込まれなかった。3月21日午後12時40分、呉入港。翌22日、二水戦旗艦の矢矧で対空戦闘研究会が行われた。
  　
• 4月1日、アメリカ軍の大軍が沖縄に侵攻。凄惨な地上戦が幕を開けた。大本営は菊水作戦を発動し、陸海軍ともに大量の特攻機を繰り出して敵艦隊を攻撃した。空中特攻が繰り返されている中、水上戦力が沈黙している事を問題視する声が上がった。これを受けて急遽残存艦艇による水上特攻が計画された。予定に無い作戦のため航空隊と打ち合わせする暇が無く、天候や突入航路を詳しく練る事も出来なかった。4月5日午前、軍令部と連合艦隊が作戦会議を行ったが、「成功の見込みは無い」と全参加者が一様に思っていた。しかし航空特攻が行われている中で座視は出来ないとして強行される事になった。15時、連合艦隊はGF電令作戦第607号を発令。4月8日に沖縄西方海域に突入し、敵水上艦艇及び船団を撃滅する任務を第1遊撃部隊に与えた。参加兵力は旗艦大和、軽巡矢矧、駆逐艦冬月、涼月、磯風、浜風、雪風、初霜、そして霞であった。当初重油が2000トンしか集まらず、片道にも満たない量だった。だが3月27日、シンガポールから出発してきたヒ96船団が奇跡的に到着。更に停泊中の艦艇から重油を貰い、かろうじて1万トンを確保。その中には霞たちが北号作戦で持ち帰った燃料も含まれていた。霞は血のような重油540トンを補給し、燃料タンクを満たした。16時47分から弾薬と魚雷の搭載も始まり、21時10分頃に完了した。少し前の20時より、二水戦旗艦矢矧で作戦の打ち合わせが行われた。

• 4月6日午前6時、第一遊撃部隊は徳山港外へ仮泊。不要物件や機密書類等の陸揚げを行った。13時、霞の松本艦長が大和に移動。作戦の打ち合わせと説明、訓示などがなされた。午後、おそらく帝國海軍最後になるであろう出撃を前に、駆逐隊伝統の襲撃運動を納めるべく大和を標的にして襲撃訓練を実施。そして15時20分、旗艦大和に率いられて徳山沖を出撃。もう、生きては帰ってこられない。2機以上の対潜哨戒機と複数の駆潜艇に護衛され、20ノットで豊後水道を南下。16時30分から17時にかけて、二水戦の駆逐艦が大和を相手に襲撃訓練を実施。港内では燃料不足であまり艦を動かさなかったので、乗員の錬度不足を補う目的があった。17時45分、米潜スレッドフィンが25ノットで航行中の特攻艦隊を発見し通報。ハックルバックも発見し、サイパン島に通報した。道中、B-29が飛来して堂々と偵察してきたので回避運動を取る一幕もあった。対潜部隊からの報告によると、肥後水道出口に2隻、日向灘に1隻が潜んでいるとの事だった。19時35分、日向灘の敵潜を避けるため予定の針路から外れて、左へ大きく迂回した。20時からは之字運動を行い、警戒を厳とした。しかし20分後に浮上中と見られる敵潜水艦が発見され、気の休まる暇がなかった。23時33分、霞は「120度方向より雷跡を見ゆ」と報告。艦隊は「青青」信号を出し、緊急右45度一斉回頭を行った。ところが先ほどの雷跡はイルカだと判明した。敵潜への警戒に神経を尖らせていた事が分かる一幕だった。

• 翌7日午前6時、大隈海峡を突破。第3警戒航行序列を取り、大和を中心に輪形陣を敷いた。午前6時57分、朝霜が機関不調で落伍して行った。午前8時40分、敵艦載機7機が出現。第1遊撃部隊の上空を一周して離れた。既に敵は索敵機を飛ばし始めているようだ。午前10時14分には敵飛行艇2機が触接。決戦の時は刻々と迫っていた。午前11時7分、大和のレーダーが100km先の大編隊を探知。各艦、対空戦闘配置を取る。触接機が2回に渡って出現し、不吉な予兆を見せる。正午頃、落伍した朝霜から「米軍機と交戦中」との通信が入り、以降は連絡が途絶えた。20分後、大和の13号対空電探が敵編隊を探知。艦隊は24ノットに増速し、戦闘態勢に入った。霞の最期の戦いが始まろうとしていた。
  　
• 午前12時32分、敵艦上機150機出現。各艦が一斉に対空射撃を開始した。敵の攻撃はやはり最大級の大和に集中した。それでも雨のように爆弾が降り注ぎ、海中からは命を刈り取る魚雷が艦体に喰らいつかんと伸びてくる。死に物狂いで対空砲火を撃ち、そして爆弾を次々に回避する。13時、敵機の攻撃が一瞬止まった。この時点で浜風が沈没、矢矧が航行不能に陥っていた。だが敵の無尽蔵な物量により、すぐ攻撃が再開される。13時2分、新手の敵機50機が出現。18分後には戦闘機48機、急降下爆撃機25機、雷撃機53機が攻撃開始。猛攻を受け、13時27分についに2発の直撃弾を受ける。情け容赦ない投弾を受け、1発の至近弾により機関部が浸水。航行不能に陥って艦隊から落伍した。14時23分、大和の沈没を以って敵機は引き上げていった。海戦が終結した後も霞は浮き続けていたが、ついに雷撃処分が決定する。16時22分、駆逐艦冬月が横付け。この冬月の艦長は、奇しくも霞の先代の艦長・山名寛雄中佐だった。生存者の移乗が始まった。全力を出し切った乗組員たちは胸を張って、堂々と冬月に乗り移ったと伝わる。そして16時57分、冬月から発射された魚雷2本で雷撃処分され、波乱に満ちた艦歴に幕を下ろした。乗員17名が戦死し、47名が負傷した。
  　
• 開戦劈頭から作戦に従事し、末期の無理難題な作戦にも参加した武勲艦だった。霞の死を以って朝潮型は全滅する事となった。1945年5月10日、除籍。

末尾の番号が若いほど、古いログになります。

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