青葉

• 青葉型重巡一番艦。艦名の由来は京都府と福井県との県境にある青葉山(別名若狭富士)。艦内神社も、青葉山の東峰山頂にある青葉神社から分霊を受けている。ワシントン海軍軍縮条約に基づき、1923年に計画された補充計画第四甲級巡洋艦として建造が決定。9月18日、軍艦青葉と命名。1924年2月4日、三菱造船長崎造船所第二船台で第400番船の仮称が与えられて起工。1926年9月25日に進水。午前10時15分より式典が行われ、宣仁親王殿下が列席された。そして1927年9月20日に竣工を果たした。佐世保鎮守府に編入。

• 1924年9月20日、青葉型一番艦として竣工。妹の衣笠より10日早く完成した。10月30日、初仕事として横浜沖で行われた観艦式に参加。その威容を市民に見せ付ける。11月15日、第二艦隊第五艦隊に編入され、旗艦となる。1928年3月29日、有明湾を出港。青島方面で活動する。以降、弟の衣笠とほぼ一緒に行動をする。1927年10月30日、横浜沖で行われた観艦式に衣笠ともども参列。翌年12月4日にも同様に観艦式へと参列している。1929年1月29日、阿部主計少尉候補生が乗艦。実習と教育の場を提供し、山口大尉と山田大尉が指導に当たった。8月19日に指導は終了。同年4月、横須賀工廠に入渠。後部主砲に呉式二号一型射出機を装備し、航空兵装を手にする。格納庫拡大に伴って爆雷庫が撤去される事になったため5月2日に爆雷庫改装の認許が下る。改装が終わるまでの間、第二航空科倉庫が代用された。1930年3月から4月にかけて、高射砲にシールドを装備する工事を受ける。

• 1931年4月9日、旅順港で便乗見学をする臣民5529名を分乗させる。妙高や那智、古鷹等とともに出港し、大連港まで回航。5月8日、青葉から射出された艦載機が故障により海面に墜落。パイロットの柿沼少佐が重傷を負っている。翌日、叙勲が決定した。12月1日、予備艦となり呉工廠で修理と整備を実施。1932年10月からは佐世保工廠で修理を受け、煙突に雨水除けを設置。同時に対空機銃を増設している。11月21日、九州帝国大学の岡本教授が願い出ていた便乗乗艦が認可される。彼は青葉の試運転を見学していった。1933年2月、改修を終えて出渠。9月15日、不便が生じていたとして艦載の工作機械改造を実施。10月16日には電気暖房機器の新設工事が行われている。1934年5月8日午後4時10分、横須賀沖にて射出飛行を行っていた青葉艦載機が行方不明になる事故が発生。翌日に報告書がまとめられたが、亡失と判断された。1935年4月17日、呉工廠にて兵員居住設備を増設。予算は2127円で、排水量が500トン増加した。1936年1月25日、諸室を改造。2月26日、あの二・二六事件が発生。青葉は第二艦隊に編入され、大阪湾に急行。反乱が西日本に飛び火した時に備え、待機した。翌日、大阪湾に部隊を揚陸。8月14日、本州南方での訓練中に衣笠からの信号を見落とし、9ノットの速力で危うく衝突しかける事態が発生。互いに軽い損傷を負った。10月29日、神戸沖で第17回観艦式に参列。12月1日、再び予備艦となり呉工廠に入渠、近代化改修を受ける。先に改修された古鷹に準じた改良が施され、対空・魚雷・航空兵装の近代化、主砲を20.3cmに換装、上部構造物の改修等を行った。新たに特用空気圧縮機、魚雷調整所、発射発令所を設置。カタパルトを呉式二号三型に換え、九四式水上偵察機2機を搭載。機関にも手を加えられ、混焼缶を廃止。缶は全てロ号専焼缶に換装された。空いたスペースに重油タンクや機銃管制室を設置する。前部煙突は一段と高くなり、後部煙突は細身になった。
  　
• 1937年8月13日、第二次上海事変が勃発。支那軍が国際法を破って上海に侵攻し、ドイツ製最新鋭武器で身を固めた3万の兵士が日本人租界を襲撃。租界を守る日本軍の守備隊は僅か4000名しかおらず、窮地に立たされる。危急を受け8月15日、大海令第18号によって呉鎮守府から青葉と衣笠が応援に送られ、長谷川中将の指揮下に入った。18日、多度津港に回航。増援の第11師団を乗せた輸送船団を護衛する。翌19日、兵員の搭載が行われ、8月20日午後12時30分に多度津を出発。馬鞍群島に急行した。8月22日午前4時、馬鞍群島到着。上陸部隊との打ち合わせを行い、青葉、衣笠、妙高に乗艦していた陸兵を第九、第24駆逐隊に移乗させた。

• 1938年11月15日、佐世保工廠で再び近代化改修を受ける。艦橋の大改造や魚雷発射管の改良等が行われた。呉式二式五型射出機を搭載し、艦載機を九四式水上偵察機に更新。また機関の換装も行われ、ボイラーを混合燃焼のものから石油燃焼のものに変更してタービン翼を交換。これらの大改装で船体重量が増えたため、大型のバルジを装備して浮力を確保。また魚雷防御の狙いでバルジ下端に厚い鋼板を追加している。この工事は1940年10月30日まで続いた。排水量9,000トン、速力33.4ノット、航続距離は14ノットで8,223海里となった。1940年11月15日、第六戦隊に編入。兄弟の古鷹、加古、衣笠と肩を並べた。
  　
• 1941年11月30日、呉を出港。12月2日に母島へ到着し、現地で「ニイタカヤマノボレ」の信号を受信した。12月4日午前9時、グアム島攻略支援のため母島を出撃。南洋部隊支援隊として第四艦隊の指揮下に入った。攻略作戦は頭文字を取ってG作戦と呼ばれた。速力8ノットで第一警戒航行序列を組み、対潜対空警戒をしながら航行。同時にグアム島へ偵察機を派遣し、敵情の把握に努めた。翌5日、第六戦隊は攻略部隊を乗せた船団と合流。作戦海域に向けて突き進み続けた。
  　
  1941年
• 1941年12月8日、運命の大東亜戦争が始まる。青葉は第六戦隊に所属し、その旗艦を務めていた。午前4時、南洋部隊司令より「対米第一撃を敢行せり」と電報で送られてきた。これを受け、午前5時にグアム島攻略作戦を発動する。グアム島は、大日本帝国が支配する太平洋海域に食い込む唯一の米国領だった。またハワイやウェーキ島に通じる中継拠点なので戦略的価値が高く、敵軍は有力な部隊を配備しているだろうと考えた。だが実際は防衛が不可能として、事前に敵軍から切り捨てられていた。輸送船団が泊地に進入し、部隊の揚陸を開始する。12月10日午前3時、一回目の上陸に成功したとの報告が入った。敵の抵抗は無く、スムーズに行われた。別働隊も阿賀海岸に上陸し、戦果を拡大。午前5時10分に政庁を占領し、グアム総督のマクミリン海軍大佐以下150名が捕虜になった。政庁前広場で小競り合いがあったものの、マクミリン大佐の呼びかけで降伏した。戦闘らしい戦闘はほぼ行われず、容易に攻略成功。山中に潜んでいた海兵隊員も白旗を上げ、無血占領を果たした。12月10日、第六戦隊はグアム攻略の任を解かれた。この後、青葉たち第六戦隊はハワイ作戦から帰投中の機動部隊の援護に回る予定だった。しかし無事に真珠湾攻撃が成功した事を鑑み、10日13時20分に主力部隊編入を取りやめ、引き続き南洋部隊の指揮下に留まるよう命じた。第六戦隊はグアム近海から離れ、トラック島へと向かった。道中の翌11日午前10時、ウェーク島攻略作戦への参加を命じられる。
  　
• ウェーク島では敵軍が頑強に抵抗し、一度目の作戦が失敗に終わっていた。今度こそ攻略すべく第六戦隊が増援として呼ばれたのだった。12月12日、トラック島に入港。臨戦準備物件の揚陸、第24航空隊への託送兵器等の搭載、燃料補給を実施。翌13日13時20分にトラック島を出発。12月16日13時に前進拠点のルオット島に到着した。ここで作戦の打ち合わせが行われた。第六戦隊にはウェーク島東方を適宜哨戒し、敵艦隊の出現に備える任務が与えられた。
• 12月21日早朝、攻略部隊と船団はルオット泊地を出撃。青葉は遅れて午前6時に出港した。上陸部隊の疲労を抑えるべく、航路は最短のものが選択された。前回の反省を活かし、事前に第二航空戦隊や基地航空隊による徹底的な爆撃が行われ、露払いを実施。必勝の構えで作戦に臨んだ。しかし出港前日の12月20日、招かれざる刺客が動き始めていた。真珠湾から出港してきた敵空母3隻を含む増援部隊がウェーク島救援の目的で西進してきていたのだ。時間は、敵に味方していた。
• 12月22日21時、攻略部隊を乗せた船団に上陸命令が下る。第六戦隊は洋上に待機し、警戒任務に従事した。事前に空襲を加えていたにも関わらず、敵軍は戦力を温存しており上陸部隊は激しい抵抗を受けて、中隊長が戦死するなどの損害を出した。戦況は膠着状態に陥り、日米両軍が入り組んで戦闘していたため、艦砲射撃が封じられた。戦闘は翌23日にまでもつれ込んだが、日本側の決死隊の活躍で司令官のカニンガム中佐を捕縛。彼に投降を呼びかけさせた事でウェーク島の敵軍は白旗を掲げた。午前9時25分、攻略部隊は各種の情報から陥落したと判断。各方面に報告した。午前10時40分、ウェーク島全島攻略完了と宣言した。作戦成功を受け、更に敵も出現しなかった事から第六戦隊は帰路についた。12月25日午前11時、ルオット島に帰港。現地で年越しをした。ウェーク失陥の報を受け、勇んで行軍していた敵空母は作戦失敗の事実を突きつけられ、何の収穫も無いまま反転離脱していった。実に紙一重の勝利だった。もし増援の到着を許していた場合、甚大な被害をこうむった挙句、攻略作戦は頓挫していたであろう。
  　
  1942年
• 1942年1月5日、ビスマルク諸島攻略作戦に参加し機動部隊の西方を遊弋。オーストラリア空軍のカタリナ飛行艇に投弾される一幕もあったが、被弾はしなかった。帝国海軍の機動部隊によるラバウルとカビエンの空襲を見守る。1月21日、機動部隊の南西を警戒していた所をカタリナ飛行艇に捕捉される。通報を受けたポートモレスビーは新たに3機のカタリナ飛行艇を発進させ爆撃を試みたが、2機が目標を見失う。残った1機も翔鶴から出撃した零戦3機に撃墜された。パイロット4名は青葉の内火艇に救助され、捕虜となる。1月20日午前7時、第六戦隊は給油艦石廊から燃料補給を受ける。青葉は343トンの送油を受けた。
• 1月22日、第六戦隊はラバウル港内に進入。攻略部隊の支援として、湾内の索敵や掃討作戦を実施。間もなくラバウルとカビエンは陥落。我が日本軍の拠点となり、青葉は輸送任務に追われた。1月24日、再び石廊が接近し重油414トンを供給してもらう。26日13時、ラバウルへ寄港。ここで捕虜を降ろし、16時には出発。ラバウル・カビエン間の哨戒任務に就いた。1月30日、第六戦隊はラバウルに寄港。石廊から500トンの重油を補給した。2月1日、イザベラパッセージ港で陸戦隊を揚陸しようとしたが米機動部隊のマーシャル諸島襲来に伴い中止。その日のうちに出港し、ルオット経由でクェゼリンに進出するも敵の捕捉はできなかった。その後、トラックに回航され待機。2月11日、給油船東邦丸から燃料補給を受ける。スルミの攻略成功を受け、次の目標はラエとサラモアに定まった。2月23日、第六水雷戦隊等とともにトラック島へ入港。補給や打ち合わせを行った。続く2月25日、宝洋丸から重油の補給を受ける。26日から28日にかけて図上演習を行い、3月2日にトラック島を出発。5日にラバウルへ進出した。

• 3月5日、出撃してラエ及びサラモアの攻略作戦を支援。クインカロラに陸戦隊を揚陸し占領。3月27日からはブーゲンビル島攻略作戦に参加し、3月30日にショートランド上陸を支援、翌31日にはブーゲンビル島キエータへの上陸を支援。全て成功を収めた。緒戦の快進撃を献身的に支えた青葉は、4月1日にラバウルへ入港して給油。メウエパッセージ港、アドミラルティ諸島マヌスに物資を輸送しながら、4月10日にトラック到着。ポートモレスビー攻略に向けて準備を始めた。4月20日、ラバウルにて給油船東邦丸から重油の補給を受けた。4月30日、ポートモレスビー攻略作戦のためトラックを出撃。5月4日、補給のためブカ島クインカロラへ航行中に米機動部隊がツラギを空襲したとの報告を受ける。迎撃のため反転し、南下したが敵情が掴めなかった。迎撃は中止となり、ショートランドで燃料補給を受けた。5月6日、ショートランドを出港。モレスビー攻略船団と合流するため針路24度で航行。その道中でB-17爆撃機3機の攻撃を受けたが、被害は無し。

• 5月7日、珊瑚海海戦に参加。本隊から離れて別行動中の祥鳳と合流し、護衛についた。早朝、敵艦隊を発見した第五航空戦隊から通報を受けたため戦闘準備。艦載機を発進させ、索敵を行う。午前9時頃よりレキシントンとヨークタウンの艦載機約60機から猛攻撃を受ける。対空砲や高角砲、主砲まで使って迎撃するも、圧倒的数を誇る敵機の前では多勢に無勢だった。回避運動によって次第に祥鳳との距離が開いていき、効果的な援護が出来なくなりつつあった。奮戦むなしく祥鳳は撃沈。青葉では、海に浮かぶ祥鳳生存者を救助するため内火艇の準備が始められたが、急遽中止となる。まだ海戦が続いており、近海に米空母2隻の存在も確認されたため救助活動をする余裕が無かったのだ。海を必死に泳ぐ祥鳳生存者に対し、「ゆっくりやっておれ。後で迎えに来る」と信号を送った。退却する間際、浮き輪代わりになりそうな空樽や木片、救助袋を海へ投げ込んだ。やがて作戦そのものが中止となり、更なる空襲を避けるため船団を護衛しつつ北方への撤退を強いられた。
• 同日午後9時、第四艦隊司令部からの命令で第六戦隊は二手に分かれた。古鷹と加古は機動部隊との合流を命じられ、青葉や衣笠と別れた。5月8日午前11時30分、青葉たちは給油艦石廊より燃料補給を受けようとした。ところが、分離した古鷹らが南方190海里の地点で敵機と交戦中との報を受け、急遽南下した。ところがこれは誤報だった。司令部から「攻撃をやめ、北上せよ」と命令され、ショートランドに退却した。翌9日、ショートランドに入港して補給を受ける。補給が終わると再出撃し、味方の機動部隊と呼応して索敵。5月10日には機動部隊と合流したが、敵を発見できなかったため北上。22時15分、機動部隊と別れ衣笠とともに行動。5月11日、ショートランドに立ち寄った。翌12日、ブーゲンビル島東岸のキエタに陸戦隊を上陸させ、掃討を行った。ここで古鷹たちと合流。5月13日、青葉と衣笠は南洋部隊主隊に編入され、内地で修理を行う事になった。ポートモレスビー攻略部隊の任は解かれ、同日中に宝洋丸と会同。燃料補給を行った。5月16日、トラックに到着。北開丸から食糧品の補給を受けた。翌17日に出港し、5月22日から呉工廠に入渠し、整備。このためミッドウェー海戦には不参加であった。

• 6月16日、呉を出港。豊後水道で軽巡洋艦天龍や龍田とともに訓練を行い、そのままトラックに向かった。6月23日着。一週間後に出港し、7月10日にソロモン諸島サンタイザベル島レカタにて、遅れてやってきた古鷹及び加古と会同。同方面で作戦に従事する。7月27日に新編成の第八艦隊へ編入され、ソロモン方面を担当する。8月2日、メウエパッセージ港で、特設給油艦さんくれめんて丸から補給を受ける。

• 8月7日、敵軍がガダルカナル島とツラギ島に上陸し、ソロモン戦線が構築される。予想よりも早い敵軍の反攻が始まった。この日の早朝、青葉はカビエンのメウエパッセージ港に投錨していた。カビエンでは現地人と交流し、物々交換する乗組員もいたという。総員起こし、総員体操、甲板掃除を経て、各々が洗顔やタバコを噴かしている中、艦内拡声器が「総員集合五分前」を知らせてきた。後甲板に集合した水兵、士官は整列。水偵の試運転か、プロペラの回転音が響く。やがて前甲板から久宗米次郎艦長と副長が現れ、ガダルカナル島に敵機動部隊が数十隻からなる輸送船団を伴って出現した旨の艦長訓示が行われた。よってラバウルに進出し、後令を待つ事になった。未明、第六戦隊は鳥海とともにカビエンを出港。潜水艦を警戒して、艦内哨戒第一配置が発令された。間もなく第二配置となり、重圧から解放される。
• 午前4時30分頃、ツラギ基地から敵の来襲を伝える電文が届く。ラバウル基地が受信していたが、青葉率いる第六戦隊も受信した。続いて戦況を伝える悲壮な電文が相次いで届き、午前6時3分の「電信室死守ス」の通信を最後に途切れてしまう。ツラギ基地は失陥し、ガダルカナル島と同様にアメリカ軍の橋頭堡となる。この危急を受け、青葉座乗の五藤存知少将は独断でラバウルへ行く事を決意。指揮下の艦を率いて、一路南下した。午前10時39分、第六戦隊は距離4万mにて、ラバウルを空襲中のB-17爆撃機13機を望見。しかし触接は受けなかったので、重巡部隊の進出は悟られていないと判断した。だが、8月7日午前のうちにアメリカ軍は青葉たちの進出を察知していたという。この情報は上層部に報告されたが、幸運にも全く警戒されなかった。正午頃、第六戦隊はラバウルの港外に到着。鳥海だけが右へ転舵し、三川軍一中将を迎えるため入港。残された艦は対潜配置となった。ラバウルに到着した第六戦隊は三川軍一中将率いる新設の第八艦隊に編入。片道1,000kmを長躯し、敵艦隊に殴りこみをかける大きな賭けに出る。
• 鳥海に率いられる形で天龍、夕張、駆逐艦夕凪が追随。寄せ集め艦隊は、強大な敵が待ち受けるガ島へと舳先を向けた。第一次ソロモン海戦の始まりである。15時、セントジョージ海峡を抜けて艦隊は敵地を目指す。艦内には「臨戦準備、灯火管制」が出されていたため、昇降ラッタルのハッチは全て閉じられ、艦内は蒸し風呂状態だった。防暑服はすぐに汗でぐっしょりになってしまった。日没後も灯火管制は継続され、煙草盆は厠の中に出された。
• 8月8日早朝、鳥海と第六戦隊から水偵4機が発進。ガ島方面の偵察を敢行した。青葉一号機はガダルカナル島を偵察し、午前7時45分にツラギ南西90浬にて戦艦らしきものを1隻発見と報告。続く午前8時にはツラギ沖に大巡1隻、商船4隻、駆逐艦3隻、ガ島泊地に商船15隻、駆逐艦4隻、軽巡2隻と報告。貴重な情報を第八艦隊にもたらした。20分後、ロッキード1機を発見。約1時間に渡って執拗に触接してきたため、北方へ偽装航路を取りながら砲撃。午前9時20分頃に撃退した。偵察機は敵に妨害される事なく午前11時までに収容を完了したが、加古偵察機だけは未帰還だった。
  　
• 8月8日深夜、旗艦鳥海に率いられツラギ泊地に突入する。そして停泊していた米艦隊に殴りこみをかけ、先行した艦載機から照明弾が落とされた。敵は第八艦隊を味方と勘違いしており対応が遅れた。そんな敵を主砲と魚雷を以って狙い撃つ。ツラギ基地の将兵の仇を取るかのように青葉たちは大暴れし、猛攻撃を浴びせた。わずか36分で、重巡洋艦ビンセンス、クィンシー、アストリア、キャンベラの4隻を仕留め、シカゴと駆逐艦ラルフタルボット、パターソンを大破させる大戦果を挙げる。青葉の被害は魚雷発射管に機銃が1発当たったのみであった。敵の輸送船団は手付かずだったため、再突入すべきだという声もあったが、帰路に夜明けを迎えると空襲を受ける危険性があり、三川長官は退却を命令。足早に撤退した。しかし翌9日、帰路で敵の待ち伏せを受けて加古が死亡、第六戦隊初の喪失艦を出す。
  • この戦果は早速大本営によって発表された。勇壮なる軍艦マーチとともに国民へと伝えられたが、加古の撃沈については伏せられた。一方、大敗を喫した敵軍では査問会が開かれた。現場の司令官に非難が集中し、その司令官は精神を病んでしまった。
• カビエンのメウエパッセージ港に到着した青葉は、整備や弾薬・食糧の補給を実施。8月17日に出港し、サンタイザベル島のレカタ基地で艦載機を収容。8月22日にブーゲンビル島南端のショートランドへ進出、あけぼの丸から重油の補給を受ける。8月23日、ガダルカナル島へ向かう輸送船団援護のため古鷹、鳥海、衣笠とともに出港。8月25日夜、艦載機を使ってルンガ岬を爆撃。船団の通過を容易なものにした。8月27日17時に古鷹とショートランドへ帰港し、あけぼの丸から重油の補給を受けた。ここで主砲弾を三式弾に換装する事に。それからというもの、訓練の様相は一転。対地攻撃を見越して、主砲は陸上砲撃に専念。機銃や高角砲は対水上艦攻撃の訓練に従事した。昼間は敵の爆撃が激しいため、日没までは泊地の外で遊弋。日が暮れてから入港した。第六戦隊の対地攻撃は次第に本格的になっていった。ブーゲンビル島西岸を仮想目標とし、艦載内火艇を魚雷艇に見立て、夜間射撃訓練を実施。これに並行して不燃対策も行われ、艦内全ての木製品を撤去。兵員室の食卓や椅子を陸揚げし、魚雷、爆雷、水上機、可燃塗料も撤去された。被弾した際の被害を最小限に食い止めるためである。陸揚げに伴って水雷科、飛行科員の一部を基地に残留する事になった。8月28日、青葉の水上機はツラギ島沖にそれぞれ2隻の輸送艦と巡洋艦、駆逐艦の在泊を報告する。9月6日、ショートランドにて東亜丸より重油の補給を受ける。9月17日、あけぼの丸から重油の供給を受ける。

• 敵の圧倒的優勢な戦力と潤沢な物量によって支えられたヘンダーソン飛行場は、まさにモンスターであった。ここから無数の敵機が飛び立ち、撃墜してもすぐに補充されて我が陸海軍の行動を阻害し続けていた。この厄介な飛行場を黙らせるべく、水上艦による艦砲射撃が企図された。青葉率いる第六戦隊にも攻撃命令が下る。10月2日、ブインの海岸で砲撃実験を行う。翌3日、ショートランドにブリストルビューフォート爆撃機3機が襲来。青葉の対空砲火で1機を撃墜し、捕虜2名と敵の暗号書を奪取。尋問によりラビ及びポートモレスビー方面の敵情が判明し、敵の暗号の一部を解読できるようになった*2。思わぬ戦果を得た青葉であった。その後もショートランドで実弾発射の訓練を行い、その錬度は概ね満足すべき域に到達していた。青葉は砲撃部隊の旗艦に任命され、五藤司令が乗艦した。
  　
• 10月11日正午、トラック泊地を出撃。水上機母艦千歳と日進による輸送作戦を支援するため、金剛や榛名とは別に飛行場砲撃を目指した。残留組の足取りは重かったという。駆逐艦吹雪と初雪を警戒艦として従え、速力24ノットで中央航路を突き進む。青葉、古鷹、衣笠には砲撃用の20cm陸用砲弾1,000発が持たされた。陸用砲弾は瞬間信管を内蔵しており着弾と同時に爆発する仕様となっていた。したがって艦船への攻撃は不向きだった。艦船は装甲を貫いてから爆発しないと決定打になりにくいからだ。16時26分に日没を迎え、周囲は宵闇に包まれた。速力を30ノットに上げ、警戒序列航行を続ける。陸攻5機が偵察に出向いていたが、不運にも敵情を掴めなかった。時折スコールが降りしきり、視界を極端に悪くしていた。青葉の艦上では、戦闘給食である握り飯を食べながら要員が配置に付いていた。月は無く、漆黒の闇が支配する。21時33分、スコールを抜けると左約三度方向にサボ島を認めた。21時43分、26ノットに減速しようとした時に、青葉は3つの艦影を確認。艦橋の司令部は、敵味方の判断を迫られた。輸送中の日進隊にしては針路が南西にあり、違和感を覚える意見があった。しかし何らかの事情で航路を変更した可能性も否定できないとして試しに味方識別信号を送りつつ、確認のため直進を続けた。約7000mまで接近した時、見張り員が敵と報告した。五藤司令はこの報告を疑い、「左10度、味方識別10秒」と下令。同時に青葉では総員戦闘配置が下令され、敵だった時に備える。同航戦にするため右へ急回頭しようとしたところ、敵の砲撃が始まった。
  　
• 10月11日22時45分、突如として砲撃を受け、サボ島沖夜戦が生起。ここで敵艦隊と会敵したのである。ところが闇夜に覆われていたため互いに相手の正体が掴めず、発砲できないでいた。そんな中、命令伝達の不備から敵艦隊が先に砲撃。これが先制攻撃となった。しかし青葉の五藤司令官は敵艦隊を味方と誤認しており、撃たれてもなお「ワレアオバ」の発光信号を出し続けていた。初弾は不発弾であったが、艦橋に直撃し要員79名が死傷。戦場に初めて投入されたレーダー射撃により滅多打ちにされ、32発の砲弾が叩き込まれた。通信装置が破壊され、2番3番砲塔も命中弾が出て使用不能になった。主砲射撃指揮所方位盤も破壊された。一気に大破させられ、苦境に立たされる。それでも戦力を立て直そうと、最大戦速で右に回頭。だが回頭中にも集中砲火を受け、火災発生。戦闘能力の殆どを喪失し、無事だった1番砲塔のみが断続的に反撃していた。21時50分、煙幕を展開しつつ回避運動。青葉は主砲7発を撃った程度だった。先頭を走っていた青葉が離脱すると、今度は2番艦の古鷹が集中攻撃を浴びた。古鷹が盾になってくれたのと、大破しつつも弾薬庫と機関を守り抜いていた事が幸いし、無事に振り切った。一方、青葉をかばった古鷹は敵の集中攻撃を受け、死亡。かろうじて青葉は離脱に成功したが、第六戦隊2隻目の喪失艦を出した。日本艦隊の決死の反撃により、軽巡洋艦ボイシが大破。駆逐艦ダンカンが味方の砲火で沈められている。沈没してもおかしくないほど撃たれた青葉であったが、尾崎中尉が独断で弾薬庫を注水したため沈没は避けられたという。いいぞ。
  • サボ島沖夜戦は両軍ともに混乱したと言われ、敵側も日本艦隊を味方と考えて一度射撃中止命令を出すなど慎重であった。何故か青葉の失態と言われているが、青葉が敵艦隊を釣り上げたおかげで別働隊の千歳と日進が物資の揚陸に成功し、目標を達成できたのは事実である。

• 何とか生き残った青葉は満身創痍の船体を引きずってショートランドに向かって北上。翌12日午前0時45分、短波送信が可能になり、衣笠に日進と千歳の収容を命じた。午前6時、戦傷により五藤司令が息を引き取った。第六戦隊の指揮は青葉が引き継ぎ、午前8時に衣笠とショートランドへ帰還。青葉の艦上は血の海となっており、乗員180名ほどが戦死した。13時34分、青葉艦長は戦闘詳報を以って報告。ロンドン型甲巡1隻轟沈、艦型不詳甲型巡洋艦1隻撃沈、1隻大破、駆逐艦1隻撃沈を報じた。実際の戦果は駆逐艦ボイス、ファレンホルト大破、ソルトレークシティ小破、ダンカン撃沈であった。10月15日にトラック諸島に入港し、応急修理を受ける。開戦以来、最も酷い損傷を受けた艦だったので、その姿を山本五十六司令長官に視察されている。10月17日、日章丸から燃料補給を受けたのちトラックを出港。10月22日に呉へ帰投し、入渠。この時、予備が無くて交換が出来ない第三砲塔を取り外し、代わりに対空砲を増設した。取り外された第三砲塔は呉工廠の総務部工場にて保管。戦後に大和ミュージアムが引き取った。戦線離脱後の11月12日、生起した第三次ソロモン海戦によって妹の衣笠が死亡。第六戦隊は青葉を残して全滅し、解隊される事となる。
  　
  1943年
• 1943年2月15日に修理完了して呉を出発。同時に第八艦隊へ編入され、外南洋部隊の一員となる。2月20日、トラックに進出。ソロモン方面で輸送任務に就く。2月28日にトラックを出発し、ラバウルを経由して3月4日にカビエンのメウエパッセージ港へ到着。4月3日、メウエパッセージ港内でB-17の爆撃を受け、直撃弾と至近弾を喰らう。機械室が炎上し、搭載魚雷2本に引火。容赦のない爆撃により至近弾も多数受けて浸水し、艦橋より後ろが水没するという半死状態となる。青葉を爆撃した敵パイロットは「巡洋艦を撃沈した」と報告したが、青葉はかろうじて生き残っていた。完全な沈没を避けるため意図的に座礁。乗員36名が死亡し、75名が負傷。近くにいた駆逐艦初月が消火活動を手伝ってくれた。4月3日から20日まで工作艦山彦丸による応急修理を受けるが、向こう一ヶ月は行動できないと判明。その状態で空襲を受ければ死は確実。そこで乗員たちは周囲の木を伐採し、青葉を島の一部に見せかける工作を実施。「青葉島」と呼ばれたこの偽装は、急ごしらえにも関わらず1ヶ月間、敵軍の目を欺き続けた。その間にじっくりと排水作業を行い、修理。洛東丸から救援物資55トンを貰い、62名が乗り移った。4月22日と23日に敵機が機雷を敷設し、カビエンはもはや安全な港ではなくなった。その後、軽巡川内に曳航されてトラックまで帰還した。
• 明石に横付けして5月7日から7月25日までトラックで応急修理を行い、本格的な修理をするため7月25日に出発。8月1日からは呉工廠で修理を受けた。修理ついでに21号レーダーと電探室が増設されている。11月24日、修理完了。青葉を航空巡洋艦や高速給油艦に改装する案が出ていたが、結局却下されて実施はされなかった。また手酷く破壊された機関は修理不能と判断され、完全には直らなかった。翌25日、古巣の第六戦隊が無くなってしまったため、第一南遣艦隊第十六戦隊に転属。12月15日に呉を出港し、新たな任地となった東南アジアに向かう。マニラを経由して12月24日にシンガポールへ到着した。
  　
  1944年
• 1944年1月3日、巡洋艦足柄、球磨、駆逐艦浦波とともにシンガポールを出港し、輸送任務に就く。1月4日にペナンへ、1月6日にビルマのメルギーへ寄港して物資と陸兵を揚陸。帰路で球磨や浦波と別れ、1月9日にシンガポールに帰投。整備を受ける。1月23日、駆逐艦敷波に護衛されて出港。軽巡鬼怒、大井、北上とともにアンダマン諸島への輸送任務に従事。1月25日、ポートブレアで増援部隊を揚陸して任務を完了。この日、第十六戦隊の旗艦となる。帰路の1月27日、北上が敵潜水艦から雷撃を受けて中破。敷波の護衛で鬼怒が曳航を始め、青葉と大井は先行してシンガポールに避難した。2月12日、シンガポールを出発してリンガ泊地で訓練。
  　
• インド洋やベンガル湾では、同盟国ドイツ海軍のUボートによる通商破壊が行われていた。これに対し南西方面艦隊は水上艦による通商破壊を企図。1月20日にサ一号作戦を発令し、その実行戦力に青葉と足柄が選ばれた。インパール方面の陸軍の支援と敵軍の通商路破壊が目的だった。あわよくば敵商船を拿捕する事も視野に入れた。ところが相方となるはずだった足柄は北方方面を担当する第五艦隊に転属となり、青葉一隻だけになってしまう。連合艦隊の司令部に代艦を要求したところ、リンガ泊地に停泊していた第二艦隊第七戦隊の利根と筑摩が選ばれた。先述の通り拿捕も視野に入れていたため、艦首の菊の御紋を隠したり星条旗を掲げたりする等の偽装工作を施したという。2月27日、駆逐艦浦波の護衛を受けて利根、筑摩とともにリンガを出発。3月1日にバンカ泊地へ到着した。
• 3月2日、サ一号作戦に参加しバンカ泊地を出撃。二日後、ココス島沖で散開。青葉は中央に配置された。しかし戦果は利根が撃沈したビハール号だけであった。青葉は全く獲物に遭遇しなかった。撃沈寸前にビハール号が発した救難信号により、後続の商船群が全て航路を変更してしまったからである。3月15日、バタビアに帰港。行動をともにした利根や筑摩と別れた。3月25日にシンガポールへ回航され、再び輸送任務に従事。4月15日、第八潜水戦隊用の魚雷をペナン基地に送り届けた。4月19日にシンガポールへ寄港し、ダバオ向けの資材を積載して同日中に出港。駆逐艦天霧、軽巡大井とともにマカッサル海峡を24ノットで北上する。ところが翌日の4月23日、伴走者の天霧が触雷。爆発とともに火災が発生し、右舷へ19度傾斜する。青葉はスラバヤへ回航するよう命じたが、とても動けるような状態ではなかった。やがて艦首が沈下し、逆立ちになりながら沈んでいった。生存者180名は青葉と大井に救助された。翌24日にタラカンへ寄港し、救助した天霧乗員を下ろした。4月27日にダバオへ到着し、物資を揚陸。
• 5月29日、第一次渾作戦に参加。6月1日、艦隊の集結地点となっているダバオへ回航され、僚艦と合流。ビアク島への増援部隊を乗せる。これまで二度の大破を経験し、そして生き残ってきた青葉はダメージコントロールの手本とされ、僚艦に教習を行っている。6月3日、ダバオを出港。しかし敵機動部隊出現の誤報により作戦中止。連合艦隊からの命令で、駆逐隊だけを残して反転し、ワアパリムに入港した。6月12日、ソロンにて第三次渾作戦に参加。準備を進めていたが、翌日にアメリカ軍がマリアナ諸島に襲来。あ号作戦が発令され、原隊への復帰を命じたため中止。
• 8月15日、第十六戦隊は孤立したパラオから邦人を救出する任務に就いた。マニラを出港し、青葉、鬼怒、浦波、五月雨、時雨の五隻がパラオに急行する。途上でB-24から執拗な触接を受け、青葉は時雨を伴って分離。別行動を取り始めた。9月30日、リンガ泊地にて給糧船北上丸から食糧品の補給を受ける。その後は輸送任務に励んでいたが、10月17日にアメリカ軍がレイテ湾に襲来。セレター軍港に入渠していた青葉はすぐに出撃。夕刻までにリンガへ入泊した。やがて栗田艦隊に編入される予定だった。青葉の乗員の一人で、後に「軍艦青葉は沈まず」を執筆した竹村悟氏は「また海軍のヤケクソ作戦か」と述懐している。しかし機関を損傷していた事が憂慮され、後方で兵員輸送を命じられる。
  　
• 10月21日、「ミンダナオ島北岸のカガヤンに所在する陸軍部隊を収容し、レイテ島へ輸送せよ」という命令を受けた第十六戦隊はマニラへと向かう。マニラで収容用の小発を受領するのである。ところがマニラ湾を目前にした10月23日午前4時25分、米潜水艦ブリームの雷撃を受け、前部右舷機関室に1発被雷。大破・航行不能の重傷を負う。艦尾が水没し、13度傾斜。上甲板に海面が来るほどの危機的状況に立たされた。いよいよ最期を迎えるかと思いきや、すんでのところで鬼怒へ舫綱を渡す事が出来た。僚艦鬼怒に曳航され、4ノットの速力でのろのろ航行。だがこれが塞翁が馬になった。行き先のマニラが米軍機の空襲を受けたのである。もしそのまま入港していれば巻き込まれていただろう。空襲の間、青葉たちはコレヒドール島の陰に隠れた。夕刻、何とかマニラに入港。しかし旗艦任務の続行が困難となり鬼怒に託す。10月25日からキャビテで応急修理を受けるが、翌日に爆撃を喰らって至近弾3発と機銃掃射を受ける。マニラは敵軍の最重要攻略目標で、ここに留まれば損傷が拡大するのは明白だった。
• 10月24日午前7時29分、マニラ湾口に停泊していた青葉はマニラ方面より爆発音や機銃の音を聞く。1分後、グラマン戦闘機約30機がマニラ上空に襲来し、ただちに戦闘配備に付く。そして数機が青葉の右舷45度から接近し、高角砲を以って迎撃。敵機は急降下し、艦尾方向へ機銃掃射を加える。午前8時32分、左右に対空砲火を放つが3分後に撃ち方止めの号令が下る。一息ついたのも束の間、午前9時45分にグラマン18機が襲来し、再び対空戦闘。約30分後に攻撃が止まり、対空戦闘も終わった。10月29日、300機近い米軍機がマニラを空襲。午前7時50分、右30度方向より敵機が接近し、対空戦闘。この空襲は奇襲だったようで、警報すら鳴らなかった。遅れて対空砲火が上がり、他の艦艇の動きも慌しくなる。攻撃を受けたニコルス飛行場から黒煙が昇る。午前8時15分、急降下爆撃を受けるが艦首左舷に落下し、至近弾で済む。15分後に戦闘は終わった。だが敵の攻撃は執拗だった。13時5分に数機が接近し、艦尾に至近弾を浴びせた。空襲の間隙を縫って、艦首を大破した熊野がキャビテ港へ入ってきた。青葉、那智、熊野で三角形を作り、敵機の襲撃に備える。15時35分にはグラマン約30機が左舷38度から接近。再び爆弾が投下されるが、右舷中部約100m付近に落下し、外れる。高々と築き上げられた水柱は、青葉の艦体を隠してしまうほどだった。攻撃がことごとく外れる幸運に恵まれ、辛くも生き残った。敵機が去った後の夜は、これまでの死闘が嘘であるかのように静かだった。

• 11月5日、5ノットの速力が出せるようになる。連合艦隊司令部より本土への帰還を命じられた。しかし戦闘能力を保有する巡洋艦である以上、船団を護衛して帰るのが当然であった。マニラ発高雄行きのマタ31船団の護衛に参加し、台湾を経由して本土への帰投を目指す青葉。先のレイテ沖海戦で同じく満身創痍となった熊野とともに11月6日午前7時、マニラを出発する。その直後、マニラは大空襲を受けた。出発が1日でも遅れていれば、青葉も屍を晒していたに違いない。バターンとコレヒドール島の間を抜け、待っていたマタ31船団と合流。油層船3隻、タンカー3隻、駆潜艇4隻の陣容だった。対空戦闘で弾数が少なくなっていた熊野に、青葉から1万発の25mm機銃弾が与えられた。敵潜水艦を警戒して沿岸寄りの航路を選択する。何度か敵艦載機が飛来したが、空襲は無かった。夕刻、サンタクルーズ湾に入港。熊野が横付けし、造水装置を破壊されている青葉に真水を提供した。この時、青葉には沈没した鬼怒の御真影(天皇の写真)が載せられていた。高雄の宮内庁に返還するためである。同時に生き残りの機関長や乗組員も乗っていた。
• 11月6日午前7時、サンタクルーズ湾を出港。昨日と同様に沿岸寄りの航路を選び、サン・フェルナンドに向かって8ノットの速力で北上。午前9時20分、突如として水柱が上がった。米潜水艦ブルーム、グイタロ、レイ、レイトンの4隻に捕捉されたのである。午前10時10分、雷撃が始まった。青葉にも魚雷が飛んできたが、7本の魚雷を5ノットで全弾回避という神業を見せ、乗り切る。約30分後、青葉は潜水艦探知の信号を発した。敵は舐めプをしており、長時間潜望鏡を出して様子を窺っている。僚艦の熊野が爆雷を投下して制圧を試みるが、逆に反撃されて被雷。隣では僚艦熊野が黒煙を噴いていたが、満身創痍の青葉に曳航は不可能だったため泣く泣く置き去りにする事になってしまった。救助には道了丸、駆潜艇18号及び37号が当たった。生き残った船団と青葉は北上を続けた。しかし更に清水が不足したためサン・フェルナンドで給水。上陸した乗員が未使用のドラム缶に真水を入れ、約20分間転がして浜辺まで持っていく。そこで待機している陸軍貸与の大発に載せ、停泊中の青葉まで輸送するのである。この作業で丸一日使った。給水後、出港し敵の脅威にさらされながら北上。
• 11月11日に辛くも台湾の高雄へ入港。午前10時45分、第38号掃海艇と会同し中央水路へ回航された。便乗していた鬼怒の機関長や乗組員はここで降り、返還のため台北へと向かっていった。「後退する艦にやる燃料は無い」と突っぱねる警備府を、艦長自らの直談判によって説き伏せ、燃料を補給。翌12日、台湾北部の基隆まで回航され、応急修理。12ノットまで出せるようになった。青葉の他には小型船が2隻、後から入港してきた神福丸のみと港内は閑散としていた。基隆港に入港している時、第十二震洋隊の部隊長と隊員数名が青葉に来訪。青葉の要員は優しく出迎え、菓子を振る舞った。やがて副長も現れ、震洋隊員に激励の言葉を送った。2時間後、震洋隊は青葉を去った。士官が総出で彼らを見送ったという。相手が死にに行く者たちだからこそ、見送らずにはいられなかったのだろう。11月19日早朝、神福丸が単独で基隆から高雄へ出発。青葉の左舷を通過するとき、青葉からサイドパイプが吹かれ、「総員、神福丸に帽振れ」の号令が下された。対する神福丸は、非番の者がタオルや帽子を振って返礼。互いの無事を祈り合った。12月9日、出港。本土へ向かって波を蹴り始めた。
• そして12月12日、ようやく呉軍港に帰還。奇跡の生還を果たし、乗員同士は抱き合って喜んだという。しかし、青葉の傷を直す力はもう日本には残っていなかった。深刻な燃料不足により動くことが出来ず、鍋海岸に係留されるだけの日々が続く。アメリカ軍の目を欺くため、船体には樹木を使った偽装が施された。
  　
  1945年
• 1945年2月25日、第一予備艦となる。防空砲台として活用するべく、対空機銃が増設された。3月19日、アメリカの艦載機が大挙して襲来し呉軍港が爆撃される。青葉は対空砲台として奮戦した。この空襲では青葉に被害は及ばなかった。4月20日に第4予備艦に指定される。4月24日、敵艦上機の攻撃で損傷。6月20日に特殊警備艦となり、呉市付近の鍋に係留。6月22日、B-29の大群が呉軍港に襲来。生き残っていた在泊艦艇が一斉に対空砲火を上げ、青葉も対空戦闘に参加。しかし戦果は3機撃破に留まった。敵の狙いは港ではなく工廠だったため青葉への被害は無かったが、女子挺身隊ごと工廠は焼き払われた。
• 7月24日、再び呉軍港が空襲を受ける。青葉には約30機の敵機が殺到し、命中弾1発、至近弾1発を受けて損傷。右舷に傾斜させられる。攻撃は伊勢に集中したため、青葉はあまり被弾しなかったものの、22時に着底する。4日後の7月28日に三度目の空襲が行われ、命中弾4発を受ける。これにより艦尾が切断され浸水。大破着底し、右舷に大傾斜して満身創痍となる。16時にはB-24から攻撃され、4発の500ポンド爆弾が投下された。一連の攻撃で乗員212名が死亡。18時、呉海兵団長から人員100名が派遣され、舟艇による物資輸送や各作業を手伝った。この状態のまま8月15日の終戦を迎える。11月20日、除籍。青葉の戦いは終わった。
  　
• 戦後の1946年11月29日、播磨造船の手によって解体作業が始まる。1948年、解体完了。第六戦隊最後の生き残りは静かにこの世を去った。艦首の菊花御紋章は、海上自衛隊第一術科学校に、主砲身は大和ミュージアムに現存している。

末尾の番号が若いほど、古いログになります。

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