アトリエシリーズとは、1997年に株式会社ガスト(現コーエーテクモゲームス、ガストブランド)がプレイステーション向けに開発した「マリーのアトリエ」から続く、ナンバリング及び外伝の作品群である。
作品タイトルに直接アトリエシリーズ全体としてのナンバーが振られることはないが、初代マリーのアトリエをA1とし、以降のナンバリングタイトルにはAのあとにそれぞれのナンバーが振られている。
今回のコラボ元であるライザのアトリエ1はA21、ライザ2がA22、ライザ3がA24となっており、2023年現在においてはナンバリングだけでA25までの25作品がリリースされている。
王道展開というのは、ある程度成熟した時期になってくると風刺にさらされるというのは常であるが、RPGにおいてもその例に漏れることはなかった。
具体的にはRPGの王道といえば剣と魔法が存在し、町の外には魔物があふれ、それらを束ね世界を征服せんとする魔王が君臨するヨーロッパ中世ファンタジーが想像されるが、これらの設定に対し、魔王ってなんで世界を征服したいの?だとか、世界を救う勇者って言ってもやってることは虐殺じゃね?などと、そういった具合である。
こういった要素は次第に開発されるゲームにも導入されていくこととなるが、アトリエもそういった流れの中で生まれた王道RPGの世界観でありながらも王道に一石投じるための作品である。
通常、RPGにおいての町に住んでいるNPCというのは、冒険に役に立つ助言をくれたりアイテムを売ってくれたり、他愛のないセリフを吐くだけの単なる道標であり標識であり、そのシンボルのような存在である。けれども本来であれば彼らにも生活があり、魔物の脅威に脅かされながらも日々を、時には楽しく暮らしているはずである。
アトリエはそういった所謂モブたちにスポットライトを当てた作品であり、世界の救済なんてものは英雄たちに任せ、魔王の討伐などとは違う世界に生きる本来ならば脇役である彼らを主役とするというコンセプトにより誕生した。
ちなみにRPGではあるが、キャラクター同士の掛け合いをある程度主軸に置いており、特に初期のころのシリーズはゲーム画面はイベントシーンは1枚の背景画の中央に話相手のキャラクターの上半身の画像、要するに立ち絵を表示させ画面下にテキストウィンドウを配置し、場所の移動もコマンド選択式とUIはテキストアドベンチャーに近い。
物語の主人公は世界を救う使命を帯びた英雄でも、腕っぷしに自信のある冒険者でもなく、町に住む錬金術ができるだけのただ普通の女の子である。(作品によっては錬金術は特殊な技能として描かれているが、初期のころのシリーズでは錬金術の学校があり、非常にありふれた存在である)
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーといった王道RPGには「やくそう」だとか、「ポーション」などといった回復アイテムがあったり、「いかづちのつえ」だとか「ほっきょくのかぜ」のような攻撃アイテムがダンジョンに落ちていたり宝箱に入っていたり、お店に売られていたりするものであるが、こういったアイテムだって本来であれば誰かが作ったり、拾ってきたりしたもののはずである。
彼女たち錬金術師は、こういったアイテムを錬金術によって作り出すことができ、これらを必要としている人たちに売って生計を立てることを生業としているのである。
錬金術は無から有を作り出すような技術ではなく、既にあるものを加工し、別のものに作り替える力。錬金術でアイテムを作り出すには調合のための素材は必要不可欠であり、そういった素材のほとんどは町の外にあるため採取のために外出の必要がある。
外にはRPGらしく魔物が徘徊しており戦闘にもなるのだが、多くのプレイヤーはここで主人公の能力に面食らうこととなる。
序盤に遭遇する魔物としてはシリーズのほとんどに登場する「ぷにぷに」と呼ばれるゼリー状の魔物が存在するが、これはドラゴンクエストにおけるスライムのオマージュとして登場させてある。
ドラクエ以降主に日本ではスライムは最弱のモンスターと認知され、アトリエにおいても最も弱い魔物として登場させてあり、それをわかりやすく認識させるためのデザインとなっている。
戦闘してみるとわかるが主人公が1対1で戦ってようやく勝てるかという程度で、2体同時に出現されると非常に厳しく、もう少し強いオオカミの魔物に至っては全く歯が立たない、要するにこのゲームの主人公はとても弱いのである。
通常のRPGであればゲームバランスがおかしいとなるところではあるが、このゲームの主人公は戦闘の心得なんて全くないただの女の子である。要するにこれはそういうゲームなのである。
しかしながら戦闘に負けていては採取ができず、錬金術もままならない。どうするのかというと、町には世界を旅したり、腕っぷしを売りにしている冒険者がいたり、お城には民や町を守るための棋士がいたりする。彼らに雇用費を払って自分を護衛させるのである。
このゲームもRPGであるためレベルや装備といった概念は存在するが、あくまで錬金術がメインであり、レベルを上げて装備を整えて新しい土地に冒険に行くことを目的としたゲームではない。そのためお金さえ払えば序盤から高レベルの冒険者や騎士だって雇うことが可能なのである。
主人公一人では全く歯が立たなかった相手でも、雇うキャラクターによっては束になってかかられてもあっという間に壊滅させてしまえる戦力を最初から用意することができるようになっている。
こうして採取のための安全を確保し町の工房に帰って調合を行い、そうして作りだされたアイテムを必要としている人たちに依頼を仲介、斡旋している酒場を通して販売することで報酬を得て、このお金で次の採取のための雇用費を捻出したり新たな参考書(調合レシピ)や調合をより有利に進めるための器具などを揃えて、錬金術の腕を磨いていくわけである。
では最初から強力な味方を雇用すれば楽に採取が進むのかというと、そういうわけでもない。通常のRPGでは敵の強さというのはこちらの進行度に合わせて徐々に強くなっていくものだが、アトリエにおいては必ずしもこの法則が当てはまるものではなく、誰がプレイヤーや町の住民の都合に合わせて魔物が生息しているなどといった?と言わんばかりに、比較的序盤から非常に強力な魔物の住む採取地に行けたり、通常はそんなに強く無い魔物としかエンカウントしないところにたまに場違いなほどに強力な魔物が徘徊していたりなんていうのはアトリエにおいては当たり前である。
ドラクエ3に例えるのならば、ロマリア辺りの進行度でバラモス城なみの敵と普通にエンカウントする場所に採取に行くことになったりする。こちらもそれ相応にレベルを上げればこれらの敵とも普通に渡り合えるようになるが、序盤では強い味方を雇用したところでほぼ勝ち目はない。ではどうするのか?
繰り返すが、このゲームは戦闘がメインのゲームではない。逃げたりそもそも戦闘を回避したりなど、戦闘を行わないという手法がゲームを進めるうえで必要になってくるのである。
アトリエは錬金術師として大成することが目的のゲームではあるが、最初は弱い主人公でも戦闘経験を積みレベルを上げ装備を整えれば、熟練の冒険者も顔負けの強さを手に入れることができ、そうすることで通常のRPGのようなプレイをすることも可能である。ただし錬金術を疎かにして冒険にばかり現を抜かすと……。
このシリーズは基本的にマルチエンディングが採用されているが冒険ばかりしていると、主人公が冒険者となる通称冒険者エンドと呼ばれるエンディングに到達することになる。
その内容は大体が他に進む道もあっただろうに……などと窘められるといったようなもの。比較的優先度の高いエンディングであるが、基本的にはバッドエンドとして扱われるエンディングである。
これは要するにそういうゲームがプレイをしたいのであれば、ドラクエやFFをやりなさいという開発者からのメッセージであり、これは町に住んでいる錬金術師のゲームであると徹頭徹尾一貫しているというわけである。
ではシリーズを通してこのコンセプトを一貫させてあるのかというと、実はそうでもなかったりする。
シリーズが進むと難易度がインフレしていくなどということはゲームにおいてよくあることであるが、アトリエにおいてもシステムが徐々に複雑化し、奥深くなる反面難易度が上昇し取っつき辛くなっていった。
A4ユーディーのアトリエでは調合システムが大幅に変更された上に、材料や調合品の時間による劣化が生じるようになった。集めた材料や調合で作ったものが劣化し腐っていく上に調合のシステムや各種パラメータの多くはゲーム開始時はマスクデータとなっており、とにかく最初は何をしていいのかシリーズファンでも分かり難く、A5ヴィオラートのアトリエにおいてはさらに複雑化、お店の経営シミュレーションまでさせられるようになった。(この数年前に、ザ・コンビニやバーガーバーガーといった経営シミュ系のゲームが流行った)
こうしてアトリエは奥は深いが段々とプレイしにくいゲームとなっていったため、ゲームの開発方針を大幅に変更することとなる。つまり、取っつきやすくするためにA6イリスのアトリエからはシリーズを錬金術はそこそこに、王道RPGをすることにしたのである。この流れはイリスのアトリエ3作品と、その後のマナケミア2作品の計5作品まで続き、また再びシリーズが世界を救わないRPGとなるのは、原点回帰という名目でPS3での初アトリエの発売となるA11超バグゲーロロナのアトリエからとなる。
このシリーズは知名度が大幅に上昇したのがライザのアトリエであり、特にライザのそのビジュアルから男性向けのゲームと誤解されがちであるが、シリーズ全体で見れば全くそんなことはなく、特にA2エリーのアトリエやA3リリーのアトリエにおいては割と本格的な乙女ゲーが備わっており、男性プレイアブルキャラクターを攻略対象とすることができる上に個別エンディングまで用意されているといった、女性プレイヤーもターゲットとして強く意識された設計になっている。なお乙女ゲー要素は選択肢によって容易にそのフラグを折ることも可能であるため、乙女ゲーをプレイしたくないプレイヤーでも問題なく遊ぶことが可能である。
乙女ゲーといえばコーエーテクモ(旧コーエー)の十八番であるが、当時のガストはまだコーエーの傘下にはないため、特に関係はない。
またあまり知られていないが、アトリエシリーズは素材を集めて複数の素材から別のアイテムを作り出すという、所謂ギャザリング&クラフトシステムの元祖でもある。
複数のアイテムからほかのアイテムを作り出すという要素はそれこそ日本初のRPGであるドラゴンクエストから「あまぐものつえ」と「たいようのいし」から「にじのしずく」を作り出すというものがあったし、システムとしては女神転生の悪魔合体システムが存在していたが、生産ラインを作るコンテンツとしてシステム化させたのは本作が初である。
その他にもそれまで錬金術という学問は知名度が低く、知っている人でもアンダーグラウンドでダークな、黒魔術的なイメージの強かった錬金術をネガティヴなものから明るいイメージに替えることに大きな役割を果たした。一般浸透させたのには、漫画「鋼の錬金術師」の功績によるところが大きいものと思われる。
ところでこのシリーズはそのビジュアルや雰囲気から緩くほのぼのとしたゲームだと思われがちだが(実際間違ってはいないが)、前述の通り序盤から強力な敵が出現したりプレイヤーの強さが錬金術をどれだけやっているかに依存しており、錬金術をきちんとやってなければ雑魚敵にも勝てなくなるという戦闘難易度が比較的高めに設定されているほか、ほのぼのとしたキャラクターイベントを見せられながらもシリーズによっては一部のプレイアブルキャラクターがロスト(本当にゲーム中に二度と登場しなくなる)したりすることがあるという、割と硬派なゲームシリーズだったりする。
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