トリチェリ

※ストーリーは、図鑑→思い出より確認可能

• イタリア海軍が建造したブリン級潜水艦5番艦。プリンプリーン。タラント造船所にて1939年5月7日に竣工し、第82戦隊に配属された。艦名の由来はイタリアの物理学者エヴァンジェリスタ・トリチェリから。トリチェリの配属先は、本国から遠く離れたイタリア領東アフリカを拠点とする紅海艦隊であった。
  　
• 1940年6月10日、イタリアはドイツの味方として第二次世界大戦に参戦。しかし準備不足の中で強引に参戦したため、あらゆる物資が不足していた。特に本国から遠く、唯一の近道であるスエズ運河を敵国に支配されていたイタリア領東アフリカは、本国やイタリア領リビアより物資が欠乏。それでいて補給が一切望めないという惨状だった。更に敵はインド洋を闊歩する東洋艦隊であり、数でも質でも絶望的な差があった。また紅海艦隊はスエズ・インド間の補給路を脅かす位置にいるため、敵に目を付けられるのは時間の問題だった。つまり隠れていても助からない。加えて紅海艦隊の本拠地であるマッサワ港は設備が劣悪という最悪を超えた最悪の状況だった。開戦時点で、トリチェリは死の世界に足を踏み入れていた訳である。この状況はイタリア海軍最高司令部も把握しており、紅海艦隊に積極的な攻撃を命じた。座して死ぬくらいなら、少しでも敵に損害を与えるべきだと。だが紅海艦隊の戦備は整っていないため、すぐには実行出来なかった。ひとまず最良の策と思われる「潜水艦による小規模な襲撃」を企図。トリチェリは数少ない戦力として作戦に投入された。
  　
• 1940年6月14日、トリチェリはバブ・エル・マンデブ海峡を出撃。今回の出撃ではグリエルモッティ以外の全ての潜水艦(計8隻)が投入され、絶望に抗う。しかし空調設備の故障で塩化エチル漏洩が発生し、早々に5隻が戦線離脱。このうち1隻は座礁事故で失われるという呪われた出だしとなった。悪い事は重なり、僚艦ガリレイが敵に拿捕された事で潜水艦による襲撃作戦を知られてしまう。この悪影響はトリチェリにも及び、6月21日に待ち伏せしていた敵駆逐艦の爆雷攻撃を受けて損傷。何とか敵の魔手から逃れる事に成功したが、損傷で潜航不能に陥ったためマッサワ港への帰投を決意する。6月23日早朝、ペリム島北方にて不運にも敵スループ「ショアハム」と遭遇してしまう。トリチェリはすぐに臨戦体勢を整え、120mm甲板砲を発射。2発目がショアハムに命中し、撃破に成功する。しかし敵スループを退けたのも束の間、間もなく敵の増援が現れる。前回、トリチェリを攻撃したグループであった。あっと言う間に敵駆逐艦3隻とスループ艦に包囲され、窮地に立たされるも艦長サルヴァトーレ・ペロージ少佐以下乗組員は不屈の闘志を燃やして敵に喰らいつく。圧倒的優勢な敵艦隊に向けて魚雷を発射するが、全て回避される。炸裂した魚雷の破片が敵駆逐艦カルトゥームに突き刺さったが、軽微な損傷しか与えられなかった。そして、トリチェリの奮闘はここまでだった。集中砲火の中で孤軍奮闘するトリチェリだったが、戦闘開始から30分後に艦尾へ砲弾を受けてペロージ艦長が負傷、さらに操舵装置までもが破壊される。甲板砲も敵の砲火で全て破壊され、戦うすべを失った。大破航行不能と化したトリチェリに出来る事は一つだけ…ペロージ艦長は鹵獲を防ぐべく自沈。生存者は敵艦に救助され、アデンに連行された。開戦から僅か13日、トリチェリは儚く散っていった。
  • ペロージ艦長以下乗組員の奮闘はイタリア本国でも敵国でも高く評価され、イタリア海軍は最高名誉である金勲章を贈った。
    　
• この話にはまだ続きがあった。トリチェリを始末した後、敵駆逐艦カルトゥームは帰路についていた。だが突如として搭載魚雷が爆発し、炎上。トリチェリが放った魚雷の破片が誘爆させたのだ。急いでペリム島の港に入港したが、トリチェリの魂が乗り移ったかのように炎は踊り続ける。やがて手の施しようが無くなり、乗組員は脱出。最後は弾薬庫に引火して、カルトゥーム(1760トン)は爆沈した。トリチェリが敵駆逐艦1隻を道連れにした瞬間だった。カルトゥームは1939年就役の新鋭艦であった。

• 余談だがペロージ艦長は自沈するトリチェリと運命を共にしようとしたものの、彼を慕う乗組員によって強引に救出され、そのまま捕虜収容所で終戦を迎えた。戦後はイタリア海軍に復帰し、潜水戦隊や駆逐艦隊の司令などを務めたのち、1952〜53年には艦隊司令官としてドゥーカ・デッリ・アブルッツィにも座乗している。没後の1986年、彼がかつて指揮を執ったトリチェリ同様の潜水艦であるサウロ級の一隻にサルヴァトーレ・ペロージの名が献呈された。

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